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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第二章/“仲間”と精霊
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久しぶりの登城③

リリアンヌ視点



「お前は、霊拝師(オランス)を見たことなかったか。そんなに嬉しいのか?」

サイラスは不思議そうに尋ねた。



「はい。だって、初めてお会いしましたから」


現役の霊拝師を見るのは、初めてだ。



「どうして、霊拝師様がいらっしゃるのでしょう」

リリアンヌは身を乗り出し、まだ窓の端に見える霊拝師たちをじっと見つめた。


式典か祝宴に参加するのだろうか。



「アイラ殿の授与式のためだろうな」

ロデオが、同じように窓へ目を向けて答えた。



「あとは、ブライアン殿下への祝いの挨拶か」



「…アイラ」


その名を――どこかで聞いた。



「国一番の白の使い手だ」



「…あ」


この国唯一の、上級(フロース)霊拝師。


そうシルヴィアが言っていた。



「これからはお前も世話になると思うから、名くらいは覚えておけ」



「えっ…どうしてお世話になるのですか?」


思わず、肩が強張った。



「王族の治療は、彼女がすべて引き受けているからだ」

ロデオがあっさりと答えた。



「ん…?でも、ノエル先生は?」


自分の診察をしてくれた女性の療師(メディクス)を思い浮かべた。



「彼女は、療師だ。役割も違うだろう?」



「そう…ですね」


あの時は、主に問診だった。



「まだ、お前には難しいな。そのうち、聖職者と医療従事者の違いも習う」

ロデオは、ふっと優しい笑みを浮かべた。



「はい…」


霊拝師は、どうやら聖職者にあたるらしい。



アイラは唯一、どんな傷病も完治させることができると聞いた。


それならきっと、王族に何かあれば、真っ先に彼女が呼ばれるのだろう。



「…あれ?」


そのアイラという人が、今も国一番の使い手…?


あの時は、まだマドカが王都に来ていないからか、なんて思ったけれど。



「ん…?」


今――何年だ?


マドカは、いつ霊拝師になるのだったか。



とても大事なことを、忘れている。




「さっきから、何首を傾げているんだ?」



「あっ…いいえ…!」

リリアンヌは、慌ててサイラスに答えた。



「もう、着くぞ。考えごとをして、躓くなよ」



「…大丈夫です」


ここはもう、エラドリオール邸ではない。


気を引き締めなくては。



馬車が、静かに停止した。


ロデオが最初に降り、アヴェリーンを優しく支えながら外へ導いた。



「ほら、リリィ」


その後に馬車を降りたサイラスが、こちらに向かって手を差し出した。



「ありがとうございます」


リリアンヌはその手を取り、ゆっくりと馬車から降りた。



「…わ」


目の前に――王城が現れた。



何度見ても、圧倒される。


首を真上に向けても、頂上は見えない。


高く、あまりにも巨大だ。



初代セスランディア王の時代に築かれた城だから、九百年近く経っているはずなのに。


まるで、時が止まっているみたいだ。


特別なちからを持つ者(アニマソムニア)によって、手を加えられているからだろうか。


古びた気配を、まったく感じさせない。



王城の入り口まで、深紅色の軍服を着た人たちが左右に列を作っている。


――近衛隊の兵士だ。



まっすぐ前を向き、ぴくりとも動かない。


母と二人でお茶会へ来る時とは、出迎え方がまるで違った。



ロデオとアヴェリーンは、近衛隊の間を、堂々と歩いていった。



「あ…今日も、ありがとうございました」


リリアンヌはサイラスと手を繋いだまま振り返り、馬車の前に立つ御者へ礼を言った。


いつも、お茶会に送ってくれる時の御者だった。



「…どうぞ、楽しんできてくださいね」

御者は目を伏せ、小さな声で言った。



「…!」


ふいに、馬車の後ろに並ぶ兵士のひとりと目が合った。


リリアンヌは、小さく頭を傾けてお辞儀した。



いつの間にか、馬車を警護している人たちが、守衛隊から近衛隊へと変わっている。



「…リリィ。ここは、エラドリオール邸ではない」


低い声が、耳元で囁かれた。



「あっ…はいっ…」


慌てて正面に顔を向けた。



「行くぞ」


兄の引く手に導かれ、並び立つ近衛隊の間を二人で進んだ。



「……」

リリアンヌは、きょろりと目だけを動かした。



近衛隊の人たちは、微動だにしない。


だけどその目は、自分と同じように動いている。



何人かと目が合った気がした。



「…だから、嫌なんだ」



「…え?お兄様、何かおっしゃいましたか?」



「リリィ。誰彼構わず、愛嬌を振りまくな」

サイラスは、むすりとした顔を向けた。



「…へ?」

リリアンヌは首を傾げ、目を瞬かせた。



愛嬌を振りまいては、いない。


少なくとも、話しかけてはいない。


御者には、声をかけたけれど。



「頼むから、まっすぐ前だけを見て歩いてくれ。すぐに着く」



「…はい、ごめんなさい」


気を引き締めたつもりなのに、


馬車から降りた瞬間に、すべてが吹き飛んでいた。



リリアンヌは言われた通り、前だけを見て、王城へ足を踏み入れた。



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