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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第二章/“仲間”と精霊
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久しぶりの登城②

リリアンヌ視点



門の先には、すでに馬車が止まっていた。


エラドリオール家の紋章が入った、綺麗な濃紺の馬車。


四人で馬車に乗るのは、二回目だ。



一回目は、自分が生まれたばかりの頃に、初めて王城へ行った時。


あの時は、ずっと父に抱えられたままだった。



「…あれ?」

リリアンヌは、きょとんと目を瞬いた。



「どうした、リリィ」



「お兄様。馬車の周りに、守衛隊の兵士の方がいらっしゃいます」


馬車の周りには、濃灰色の軍服と布帽を身につけた人たちがずらりと並んでいた。



「すごいな。軍服の色と種類で、お前は、もう守衛隊兵だと分かるのか」

サイラスが感心したように言った。



「だっ…だって、登城する時に、窓の外で巡回しているのを見かけたことがありますから」


貧民区で守衛隊を知ったことは、絶対に言えない。



「…確か、第二城壁と第三城壁内を護っていらっしゃる方たちなのですよね?」



「その通りだ。あれは、私たちの乗る馬車を警護するために来ている」

サイラスは気にも留めず、リリアンヌと手を繋いだまま足を進めた。



「そうなのですか…?お母様とお茶会へ向かう時は、警護の方はいらっしゃいません」



「今日は行事で向かうから、第一城壁の正門への先導も兼ねている」



「へぇぇ…そうなのですね」


またひとつ、新しい知識が増えた。




御者が用意した短い階段を上がり、馬車に乗り込んだ。


リリアンヌは窓へ顔を向け、馬車が動き出すまでじっと景色を見つめた。



久しぶりに、エラドリオール邸の敷地内から出る。


王城に何度も行っているのに、かしこまった雰囲気にあてられ、胸が高鳴った。



「窓の外は楽しいか?代わり映えしないだろう」

隣に座るサイラスが、ふっと微笑んだ。



「いいえ。私にとっては、すべてが新鮮です」


エラドリオール邸から続く大きな通りには、刈り揃えられた樹木が植えられている。


四角く綺麗な形に整えられている樹木が並ぶ様は、いつ見ても美しい。



交差路ごとに、守衛隊の兵士が立っている。


いつもより多く配置されているようだ。



この国には、常備軍と呼ばれる兵士が十万人ほどいる。


二千万人が住むセスランディア王国で、その数字が多いのか少ないのか、自分にはまだ分からない。


その者たちを束ねているのが、騎士だ。


騎士は、約三千人。


騎士になれば、何百、何千という兵を率いることになる。


そして、その上に立つのが隊長格の騎士たち。


――けれど。


その枠組みとは別に、騎士だけで結成された特別な集団が二つ存在する。



「…うわ」


ぱっと目に入った光景に、思わず声を漏らした。



「すごい馬車の数だろう。順番待ちして、並んでいる」

サイラスが補足するように言った。



第一城壁の正門へ続く大通りに、見渡す限り馬車が並んでいた。


どれも、色も紋章もばらばらだ。



「安心しろ。私たちは、並ばない」


兄の言葉に合わせるかのように、


長い列を横目に、エラドリオール家の馬車はまっすぐ正門へ進んだ。


なんだか割り込んでいるようで、申し訳なかった。



「リリィ、ここまでだ」

ロデオが向かいから手を伸ばし、カーテンを閉めた。



その直後に、馬車が速度を落とした。


揺れからして、正門を越えているところだろう。



「…こんなにも規模の大きな行事なのですね」


いつものお茶会より、ずっと厳戒態勢だ。


それに、招待客も多い。



「あいつの誕生日だけでなく、褒章授与式も兼ねているからな」



「えっ…褒章授与式?」

リリアンヌは、ぱっとサイラスに顔を向けた。



「誰が、どんな件で褒章をされたのですか?」


それも、ブライアンが授与されるものなのだろうか。



「あー…」

サイラスはわずかに目を泳がし、正面に座るロデオへ視線を送った。



「…東の領で、害獣が出てな。それを騎士たちが討伐したんだ」

視線を向けられたロデオが、静かに答えた。



「害獣…ですか?」



「かなり厄介な獣だったようだ。被害も出てしまった」



「……」

リリアンヌは、はっと口を噤んだ。



害獣。


もしかして――



異形の存在(ゼノプーパ)ではないだろうか。


それを、騎士たちが倒した。



父も兄も、明らかに口を濁している。


異形の存在がどこまで知られているのか、分からない。


本当は、その名も知っていてはいけないのかもしれない。



さすがに、これ以上話を深掘りしてはいけない。



「…もういいぞ。ほら、城に続く大通りだ」

ロデオがカーテンを持ち上げ、窓へ顔を向けた。



「…本当ですね」


うまく話を逸らされた。



「町では、式典に合わせて祭りも開かれている」



「…あ、そうなのですか?」


さらに、逸らされた。



「お祭りって、多いのですね」


この国では、何かおめでたいことがあるたびに、祭りやパレードが催されている気がする。



「祝祭は、町に住む者たちにとって娯楽のひとつだからな。その数は多い」



「へぇぇ…そうなのですね」



「あら、リリアンヌ。興味を持たないの?」

ロデオの隣から、アヴェリーンがさり気なく尋ねた。



「あなたのことだから、また町へ行きたいと言い出すのかと思ったのだけれど」



「おっ、お母様が、成人したらたくさん連れて行ってくださると、約束してくださいましたから」

リリアンヌは、声を上擦らせながら答えた。



「お、王城まで、歩いて向かわれる人たちもいらっしゃるのですね」


窓に目を向け、慌てて話題を変えた。



「ん…?騎士か?」

サイラスは、リリアンヌの奥から窓へ目を向けた。



「いいえ。白い服を――あ」


白い衣装を身にまとっている人たちを、馬車が追い越した。



霊拝師(オランス)だな」



「はい…!」


リリアンヌは、感動で声を震わせた。



すごい――


“物語”のマドカと、まったく同じ格好だ。



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