久しぶりの登城①
リリアンヌ視点
「お嬢様、とっても可愛らしいです!」
ニアが、今にも拍手しそうな勢いで言った。
「まるで、花の精霊が現れてしまったようですよ」
「ありがとう、ニア。このドレス、とても素敵」
リリアンヌは、その場でくるりと回った。
ふわりと広がる、橙色のドレス。
裾には、白い花の刺繍が散りばめられている。
肩の下から広がる透けた袖が、動くたびにひらひらして、とても可愛い。
「髪も、なんだか大人っぽい」
ドレスの色に合わせて、髪飾りには黄色や白色の小花が付いている。
すとんと落ちる自分の髪が、今日は、緩く波打っていた。
耳飾りも指輪もして、なんだか不思議な感じだ。
「今日は、随分と気合が入っていたね?」
準備から含めて、二時間近くかかった。
「もちろんですよぉ。久々の登城ですからね」
「でも、私は祝宴には出ないわ」
「関係ありませんよ。王子たちには、お会いするのですから」
「う~ん…多分、ブライアン王太子だけだと思うけれど」
「そこら辺は私には分かりませんが、とにかく、初めての行事です。
私たちの可愛いお嬢様の初お目見えなのですから、気合も入るというものです」
ニアはリリアンヌの前から立ち上がると、扉へ向かった。
「さ、ご主人様たちのもとへ行きましょう」
「ええ」
リリアンヌは姿勢を正し、ニアの開ける扉から廊下へ進み出た。
今日は――ブライアン王太子の誕生日だ。
私は、式典と祝宴の間に行われる挨拶にだけ参加する。
ブライアンは、九歳の時に特別なちからを持つ者だということが判明した。
初代セスランディア王と同じ“光のちから”を持つブライアンは、その年に王子から王太子となった。
そこまでは、“物語”と同じだ。
王太子となってからは、ブライアンと一度も会っていない。
その前までは、よく兄と三人で遊んでいた。
遊んでいたというか…
兄とブライアンが何かしているのを見ていたというか…
…懐かしい。
私が二歳の時には、兄が屋敷から出て行き、三人で遊ぶこともなくなってしまった。
その翌年にはブライアンも王太子となり、会うこともなくなった。
…どうしてブライアンは、今回、私を誘ったのだろう。
従兄妹だから、おかしくはないけれど…
自分のことを思い出してくれたことが、嬉しくもあり、意外でもあった。
「おい、リリィ…!そんな可愛らしい格好で王城へ向かう気か!?」
前室に入るなり――
ロデオが、ソファから勢いよく立ち上がった。
「あなた、落ち着いて」
隣に座るアヴェリーンが、冷静に言った。
「リリアンヌ、とても可愛いわ」
「ありがとうございます。お母様も、大変お綺麗です」
母は、両脇に深く切れ込みの入った、紺青色のドレスを身にまとっている。
切れ込みの隙間からは、繊細で上品なレースが覗いていた。
「あら、ありがとう」
微笑む表情は、相変わらず綺麗だ。
「リリィ、本当にお前は可愛いな」
「!お兄様、すごく格好いいです」
リリアンヌは、サイラスを見上げながら額へのキスを受け取った。
父も兄も、今日は軍服ではなく正装だ。
白を基調とした上衣に、金色の刺繍を施したマントを肩から掛けている。
腰には、装飾の美しい鞘の剣が差してある。
兄はいつも無造作に垂らしている前髪を、今日は、後ろへ掻き上げて整えていた。
なんて絵になる一家なのだろう。
服装も、佇まいも、表情も。
まさに、王族そのものだ。
「はぁ…先行きが不安だな」
ロデオは小さく溜息をつくと、アヴェリーンに手を差し出した。
「そろそろ行こうか」
「ええ、そうね」
「リリィ、おいで」
「はい」
リリアンヌはサイラスと手を繋ぎ、腕を組んで歩く両親の背に続いた。




