父との和解④
リリアンヌ視点
「…リリィ、大丈夫か?」
「…?何がでしょうか?」
どうして、そんなに心配そうな顔をしているのだろう。
「お前が、毎日勉強ばかりしていると報告を受けている」
「それは…学ぶことが楽しいからです」
この世界について知ることは、楽しくもある。
「私が叱ってから…お前の可愛らしい笑顔が減ってしまった」
ロデオは、ふっと寂しそうな笑みを浮かべた。
「父のことが、嫌いになったか?」
「…いいえっ!」
リリアンヌは、思いきり首を振った。
「いいえっ…大好きです、お父様」
話すたびに、何か知られたのかと緊張するようになったけれど、
嫌いになんて、なるわけがない。
「…お前に見張りをつけるようなことをしても、まだ好きか?」
「はいっ…それに、見張りだなんて…お父様は、今まで通りにしてくださいました」
変わったことといえば、午前中もニアが傍にいるようになったくらいだ。
「それなら、そんなに警戒しないでくれ」
「…ごめんなさい」
「リリィ…お願いだ。前のように、無邪気に笑ってくれないか?」
ロデオは、さらに悲しそうに眉を下げた。
「……」
そうは言っても、もう八歳だ。
「何か欲しいものはないか?たまには、我儘を言ってくれ」
「欲しいもの…」
欲しいものは、情報だ。
あとは――
「してみたいことでもいい。そうだな…例えば、ポニーを飼うとか」
「ポニー…!?」
一気に、心が惹かれた。
「敷地内に、馬を走らせる馬場があるだろう?お前が望むなら、そこにポニーを入れるか」
ロデオは、優しく頬を緩ませた。
「お父様っ…私、乗馬を習いたいです」
リリアンヌは胸の前で手を組み、きらきらと目を輝かせた。
「馬に、乗ってみたいです」
乗馬ができるようになれば――
いざという時にできることが、かなり広がる。
それに、動物は大好きだ。
「馬は、まだ駄目だ。ポニーから始めなさい」
「…でも、習ってもいいのですか?」
「構わない。さっそく、女性の調教師を探しておこう」
「…あの、お父様…」
「何だ?」
「私…剣術も習いたいです」
この勢いなら、どうにかならないだろうか。
騎士を目指さなくても、もっとちゃんと剣を振れるようになりたい。
「この、お転婆娘め」
「!」
ロデオは拳を作り、こんっと娘の頭を優しく小突いた。
「剣は、駄目だ」
「で、では…せめて、護身術とか…」
リリアンヌは上目遣いに、必死で食い下がった。
「…護身術だと?」
「その…私も、自分の身くらいは護れるようになりたいです」
「お前がそんなものを覚える必要は一切ないが…体を動かしたくて仕方ないのだろうな」
ロデオは、ふっと笑みをこぼした。
「…はい」
もう、それでもいい。
「この件は、アヴェリーンに相談してみよう」
「…!」
「前に、子供に護身術を教える者がいる話をしていた気がするな…」
「ありがとう、お父様…!」
リリアンヌは組んでいた手を解くと、ぎゅっと父の肩に巻きつけた。
まさか、護身術を許してくれるとは思わなかった。
まだ、決定ではないけれど。
「…リリィ」
「はっ…はいっ」
慌てて、巻きつけた手を離した。
父の声が、少し低くなった気がした。
「お前…どこでこんな技を覚えた?」
ロデオは、訝しげに眉を寄せていた。
「…技?」
護身術の話だろうか。
技も何も、まだ何も覚えていない。
「抱きつくなんて可愛い技…どこで覚えた?」
「…あ」
しまった。
つい、薬療院に通っていた時と同じことをしてしまった。
「まさか、誰かにこんなことをしているのか?」
「し、していませんっ…!」
「誰に入れ知恵された?アヴェリーン…なわけがないな」
「その…嬉しくて、つい抱きついてしまいました」
父に抱き上げられても、自分から抱きつくなんて、今までしたことなかったのに。
やってしまった。
「ごめんなさい…お行儀が悪かったです」
「いや、いいんだ」
「!」
「娘に抱きつかれるのは…これほど嬉しいものなんだな」
ロデオはゆっくりとリリアンヌの背中に手を回し、優しく抱きしめた。
「リリィ。もう一度、父を抱きしめてくれないか?」
「…はい」
リリアンヌは両手を伸ばし、ロデオの肩にそっと巻きつけた。
「お父様…大好きです」
「私も、お前を愛している」
ロデオはすぐに返した。
「お前は、誰よりも自慢の娘だ」
いつもより、ずっと優しい声だった。
「……」
リリアンヌは、ぎゅっと唇を噛んだ。
悲しい顔をさせてしまって、ごめんなさい。
嘘ばかりついて、ごめんなさい。
――白のちからを持っていることを隠していて、ごめんなさい。
口に出せない代わりに、心の中で、たくさん謝った。




