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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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小さな冒険のおわり⑤

リリアンヌ視点



「…久しぶりだな、ナイジェル。お前が今や、守衛隊の隊長か」



「あなたが…なぜ、こんなところに…」


ナイジェルは、唖然としながら返した。



「攫われたのは、お前の後ろにいる子供で間違いない」

ギタンは言いながら、再びマントを深くかぶった。



「俺は、巻き込まれていたこいつを助けただけだ。それで十分だろ?」



「……」



「――そいつは、白の使い手だ!」


荒い声が割り込んだ。



「!」

ナイジェルは、さっと振り返った。



「そのガキは、白の使い手だ!どっかの、いいとこのガキだ!」


地面に押さえつけられたハックが、唾をまき散らしながら喚いた。



「そいつは、白のちからを使えるくせに隠してんだぞ!放っといていいのか、騎士様よぉ!?」



「…そうだ、そうだ!間違いなく、この目でオレも見た!」


「ちゃんと国に報告しろって、説教してただけなんだって!」


「教えてやったんだから、ちょっとは罪を軽くしてくれよ!」


ハックの声に同調するかのように、若者たちが騒ぎ出した。



「静かにしろ!」


「黙れ!」


「…ってぇ!」


騒ぐ若者たちを、守衛隊の兵士が槍の柄で突いた。



「…事実なら、捨て置くことはできない」

ナイジェルは、ゆっくりと視線をリリアンヌへ向けた。



「…君。この者たちが言っていることは、事実か?」



「…あ」



「このガキどもの戯言を、本気で信じるのか?」


ギタンは、リリアンヌを隠すようにナイジェルへ近づいた。



「…出まかせにしては、妙に具体的すぎますが」

ナイジェルは、静かにギタンへ答えた。



「そういえば、白の使い手が孤児院にいるとかくだらない噂が流れていたな。それを信じて、こいつらは人攫いを起こしたんだろうよ」



「ギタン副――ギタン殿。白の使い手を隠匿することは、罪に問われる可能性があります」



「だから、でたらめな嘘だ。なんなら、孤児院の子らを鑑定士にでも調べさせればいい」



「ですが、その子供は孤児院の子ではないのでしょう?それならば――」



「――ナイジェル」


ギタンは、鋭くナイジェルを遮った。



「俺とこのガキども、お前はどっちを信じるんだ?」



「……」

ナイジェルは、考えるように言葉を止めた。



重い沈黙が落ちた。



「ナイジェル隊長!」


凛とした声が、不穏な空気を斬り裂いた。



「…!」


その声を聞いた瞬間――


リリアンヌは、さっと顔を青くした。



「ロルフ副隊長により、一帯の確認が終わりました。取りこぼしは、ありません」


濃灰の軍装コートを着た若騎士が、ナイジェルのもとへ駆けてきた。



「…っ」

リリアンヌは咄嗟に下を向き、ギタンのマントを後ろからぎゅっと握りしめた。



「…ご苦労だったな」

ナイジェルが静かに返した。



「バーン騎士長が孤児院へ向かい、他の子の保護を――あ?」


若騎士が、ぴたりと口を噤んだ。



「…ナイジェル隊長、その者たちは?」



「…少し話を聞いていただけだ」



「聴取なら、あそこの子供たちと共に孤児院へ向かわせますか」



「いや…」



「…んん?」


若騎士が、一歩、リリアンヌの方へ近づいた。



「……」

リリアンヌはさらに後ろへ下がり、マントを握る手を小さく震わせた。




「その靴…どこかで――」



「サイラス。もう、話は終わった」


ナイジェルが肩を掴み、近づいた若騎士を止めた。



「私たちも、孤児院へ向かうぞ」



「…ですが、この者らは」



「俺たちは、ただの通りすがりだ」

ギタンが、素早く若騎士に答えた。



「てめぇ、そんなわけねぇだろ!」



「やめろ、サイラス。あと、その言葉遣いを直せと何度も言っているだろう」



「ナイジェル隊長、こんな顔も見せない怪しい奴らを放っておくんですか!?」



「だから、私がもう話を聞いた」



「ですがっ…」



「サイラス。お前は今、どの立場にいる」


ナイジェルの声が、ひやりと低くなった。



「…ナイジェル隊長の従騎士です」



「分かっているなら、私の言うことを聞け。向こうの子供たちを連れて、先に孤児院へ向かっていろ」



「…分かりました」


サイラスは不服そうに答えると、その場を離れていった。


その先にいるサムが、こちらに顔を向けた。



サムの口がゆっくりと動き――「リ」を作った。



「だめっ…」


咄嗟に、強く首を振った。



こんなところで、リリィなんて呼ばれたら――


今度こそ、兄が自分に気付いてしまう。



「……」

サムは、きゅっと口を閉じた。




「…あなたは昔から、無理を言うのが好きでしたね」

ナイジェルが、深い溜息をついた。



「私の気が変わらないうちに、早くここから去ってください」



「そうさせてもらう」



「…!」



「お勤め、ご苦労様」


ギタンは、ひょいっとリリアンヌを抱き上げると、ナイジェルへ背を向けた。




「…次は、庇うことはできない」



「…え」



「次、同じようなことをしたら、見逃すことはできない。――分かったな?」


ナイジェルの目は、ギタンの肩から覗くリリアンヌへ向けられていた。



「……」

リリアンヌは頭巾の下で、静かに頷いた。



「…はぁ」

ナイジェルはもう一度溜息をつくと、ゆっくりと振り返った。



「ナイジェル隊長!捕縛した者たちは、北の留置場へ連行しますか」



「そうだな。私が行くまで、そのまま入れておいてくれるか」



「聴取は、ロルフ副隊長が?」



「いや、私が全員対応する」



「は…ナイジェル隊長自ら…ですか?」




「行くぞ」



「…うん」

リリアンヌはギタンの肩に掴まり、遠のく現場を見つめた。



「…あ」


ナイジェルたちの奥から、シルヴィアが駆けてきたのが見えた。



シルヴィアはサムのもとへ辿り着くと、


カヤごと、サムを抱きしめた。




「良かった…」


これでもう、本当に大丈夫だ。


張り詰めていたものが切れたように、ぽろぽろと涙がこぼれた。



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