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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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小さな冒険のおわり④

リリアンヌ視点



現れたマント姿の男が、ゆっくりと若者のひとりに近づいた。



「…んだよ、てめぇっ」


マントの男が、すれ違うように踏み込んだ瞬間――



「…がっ」


若者が、どさっと倒れた。



マントの男の右手には、若者が持っていた木棒が握られていた。



「てっめぇ…!やったな!」


「あっ、こいつ…!あのじじぃだ!」


「バカが!こんな大人数の中で、何ができるってんだよ!」



「…めんどくせぇ。まとめてかかって来い」

マントの男は奪った木棒を握り、ゆらりと構えた。



「こんだけいりゃ、勝てるぞ!――ぶっ殺せ!」


ハックの合図と同時に、


若者たちが、一斉にマントの男へ飛びかかった。



「この野郎!…ぐぁっ」


マントの男は、若者が木棒を振り切る前に、その腹を素早く突いた。



「死ねぇ!」



「それじゃ、死ねそうもねぇな」


振り下ろされた木棒をさらりと受け流し、ゴッと顎を突き上げた。



「ぐぇっ…」


若者の体が、大きくのけ反った。



「くたばれ、じじぃ!…あがっ」


「ぎゃっ」


飛びかかった若者が吹き飛び、ひとりを巻き込みながら倒れ込んだ。



「行くなら、一気にだ!」


「おらぁっ!」


「がっ…!」


一気に襲った三人の攻撃を軽々と躱し、全員を一瞬で地に伏せた。



「す、すごい…」


リリアンヌは座り込み、呆然とマントの男を目で追った。



こんなに強かったなんて。


襲う若者たちは、まったく相手になっていない。


まるで、指導しているような戦い方だ。



それに――


突然目の前に現れた、土の壁。


あれは、ちからの一種だ。



ギタンは――特別なちからを持つ者(アニマソムニア)だったんだ。



「ナイフだ!ナイフでやれ!」


残る若者たちが、一斉にナイフを取り出した。



「…!」

リリアンヌは、さっと立ち上がった。



「座ってろ」


ギタンが後ろも見ずに言った。



「でもっ…!」


さすがに、ナイフ相手ではギタンでも分が悪い。



「死ねぇ!」


「いい加減、くたばれ!」


ナイフを握る若者たちが、ギタンに向かい、突進した。



「…っ…ギタン…!」


思わず、ぎゅっと目を瞑った。




「――そこまでだ!」


鋭い声が、小路に響いた。



「…!?」


若者たちは、ナイフを握ったまま振り返った。




「…お前たちだな。孤児院を損壊させたのは」


若者たちの後ろから現れたのは、背の高い男性だった。


濃灰の軍装コートをまとっている。



「国王の建てた施設に手を出したうえ、そこに住まう子を攫うなど、言語道断」


父やギタンのように、胸板が厚く逞しい。


細く睨む目は、誰も逃すまいと鋭く動いていた。


あれは――



「大切な祝いの日にこんな暴挙をしでかすとは、誠に愚かだ」


あの人は、騎士だ。



「ひとり残らず捕らえろ!」



「はっ!」


中央に立つ騎士の脇を――


槍を手にした軍服姿の者たちが、何人も通り過ぎた。



「…しゅ、守衛隊だぁっ!」


「逃げろ!逃げろぉっ!」


「どけっ、馬鹿!」


若者たちが、わぁっと散り散りに駆け出した。



「小路を塞げ!そっちもだ!」


「屋根の上にもいるぞ!すぐに向かえ!」


軍装コートを着ている騎士たちが、鋭く指示を出している。



「はっ!」


布帽をかぶった兵士たちがそれに応え、通り中に散らばった。



「ナイフを捨てろ!」


「逃がすかっ」


「ぐあっ…!」


ナイフを握る若者たちが、槍により次々と無力化された。



「おいおい、守衛隊さん!オレたちゃ関係ねぇよ!」


「捕り物に巻き込まれるぞ!中へ入れ、入れ!」


周りで見物していた者たちが、慌てて建物の中に消えた。



「くっそぉ…!」


「離せよ!」


屋根から逃げようとした若者たちも捕まった。




「守衛隊…」


小さく、口の中で呟いた。



守衛隊――


王都を護っている人たちだ。




「君が攫われた子だな?」



「…!」

リリアンヌは、はっと正面に顔を向けた。



「怖かっただろう。可哀想にな」


最初に現れた守衛隊の騎士が、いつの間にか、すぐ近くまで来ていた。


目の前にあった土の壁は、跡形もなく消えている。



「もう大丈夫だ。そんなに怯えなくていい」



「……」

リリアンヌは頭巾に手を掛け、ゆっくりと後ずさった。



顔だけは、見られるわけにはいかない。


騎士なら、父を知っている可能性がある。


父と同じ紅い瞳に、気付いてしまうかもしれない。



「少し話を聞かせてくれるか?孤児院まで送ってあげよう」

騎士は、リリアンヌへそっと手を差し出した。



その間に――


人影が割り込んだ。



「こいつは違う。ただ巻き込まれただけだ」



「…お前は?」


騎士は、訝しげな声で尋ねた。



「俺は通りすがりだ。攫われた子供なら、後ろにいる。あの子だ」



「…後ろ?」



「……」

リリアンヌはギタンの後ろから、そっと騎士を見上げた。



騎士は、後ろに顔を向けていた。


その視線の先では、捕らえられた若者たちが集められている。



「ナイジェル隊長!捕縛は完了しました!」


視線に気付いた守衛隊の騎士が、さっと敬礼した。


その敬礼する騎士の後ろから、カヤを抱えたサムが、こちらへ向かい駆けてきていた。



ナイジェルは、再び顔をギタンたちに向けた。



「…だが、この者たちは、その子を狙っていた」



「人違いだ。間違えたんだろ」

ギタンは素早く答えた。



「そうだとしても、巻き込まれたことには変わりない。関係者全員から聴取する。それはお前もだ」



「悪いが、時間がねぇんだ。俺とこいつは帰る」



「そうか――と言って、帰すと思うか」


ナイジェルの声が、鋭くなった。



「…頼む、ナイジェル」

ギタンは、深くかぶっていたマントをゆっくりと外した。



「昔のよしみだ」



「…!あなたはっ…」


ナイジェルの目が、大きく見開かれた。



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