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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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サムの見ているもの④

サム視点



菜園の土に乱雑な足跡を見つけた時から、もう、ただ事じゃないと思っていた。


それが――孤児院の入り口を見て、確信に変わった。



「まあっ…!」


壊された扉を見たシルヴィアが、真っ青になった。



「…!」


サムは、勢いよく扉を飛び越えて室内へ降り立った。



「リリィ!カヤ!」


ここに、少なくともカヤが寝ていたはずだ。



階段を駆け上がり、開けられたままの子供部屋に飛び込んだ。



「…!」


誰もいない。


カヤのベッドの布団は、めくられたままだ。



「カヤ!いないのか…!?」


二階の、どの部屋にもいない。


何が起こったのか、嫌でも想像できる。



だけど――もしかしたら、うまく隠れたかもしれない。


もしかしたら、薬療院の方に逃げているかもしれない。



サムは、階段をほとんど飛ぶ勢いで下りた。



「あ…っ!」


階段を下りたところで、床に落ちているものに目がいった。



リリィがカヤにあげた、桃色の髪紐が落ちていた。


今朝も、カヤが髪に着けていた。



「…っ」


それなら、カヤは――



「サム…!」



「!」


薬療院に繋がる裏口から、シルヴィアが駆け込んできた。



「そっちに、二人は!?」



「いいえ、いないわ。長椅子の上に、これが置いてあったの」


シルヴィアの手には、いつもリリィがかぶっている帽子が握られていた。



「…オレ、捜してくる」



「駄目よ…!」


出て行こうとするサムの腕を、シルヴィアは強く掴んだ。



「ギタンがきっと、もう気付いて捜しているわ」



「ギタンがいたのは、北商店通りの先だ!」


思わず、声を荒げた。


自分たちが登った建物の近くにいるのなら、まだまだこの辺りには戻ってこない。



「…あなたは、ここで待っていなさい」



「どうして…!ここにいたって仕方ないだろ!」


待っていたところで、リリィもカヤも帰ってはこない。



「サム、落ち着いて」


顔色は悪いままなのに、シルヴィアの声は不思議なくらい落ち着いていた。



「あなたが行ったところで、何もできないわ」



「…っ」


分かっている。


もし連れて行かれたとしたなら――貧民区ではなく、その先だ。



「だけどっ…どこに連れて行かれたかは、分かるかもしれないだろ!」


貧民区の奴らは、絶対に何か知っている。


二人が連れて行かれるのを見たはずだ。



「それでも駄目よ。いくらなんでも、危険すぎる」

シルヴィアはゆっくりと首を振った。



「カヤたちを見つけるのは、あなたの仕事ではないわ」


その声は、まったく譲る気がなかった。




「また…祈るのか?」


掠れた声が、ぽつりとこぼれた。



「…え?」


シルヴィアの手が、わずかに緩んだ。




『私たちは、祈ってあげましょう』


『サムが、安らかに逝けるよう――』




「そうやって祈って…また家族が減るのか…!?」


サムは肩を震わせ、吐き捨てるように言った。



「また、諦めなくちゃいけないのか…!?」



「…サム、そういう意味ではないわ」



「オレはっ…もう、あんな思いをするのは嫌だ!」



「サム…!」


サムはシルヴィアの手を振り払うと、扉のなくなった入り口から飛び出した。



――最低だ。


あれだけ世話になったシルヴィアに、あんなことを言うつもりなんてなかったのに。


自分が苦しんでいた時に、誰よりも付き添ってくれたというのに。



それでもやっぱり、


死の間際に聞こえた言葉は、しっかりと胸の奥に残っていた。



ああ、オレも諦められたんだなって、悲しかった。


今まで見送ってきた子のように、森の奥の墓に埋められるんだなって、寂しかった。



知らず知らずのうちに、傷ついていた。



これじゃまるで、ガキだ。


ガキのままじゃ生きていけないから、一生懸命、聞き分けの良い兄を演じてきたというのに。



情けない。


惨めで、格好悪い。




…リリィのせいだ。



ものを投げられることに、腹を立てるようになってしまったことも。


また孤児院の誰かがいなくなってしまうことを、受け入れたくないと思ってしまったことも。


誰かを、助けたいと思うようになってしまったことも。




『…いかせない!』




死の間際に、唯一伸ばされた、あの小さな手の持ち主が。


自分を、ここまで欲張りにさせてしまった。



すべて――リリィのせいだ。



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