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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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サムの見ているもの②

サム視点



「…おい、サム」



「…何?」

サムは眉を寄せ、さっと姿勢を正した。


ギタンの声色が、いつもと違う気がした。



「お前が、北の大塔までシルヴィアたちを迎えに行ってくれないか」



「えっ?」



「三塔の方から回って帰ってくるな?それなら危険はねぇ」



「それはいいけど…ギタンは?」



「俺は、町の様子を探る」



「探る…?なんで?」



「町が、騒がしい」


通りを見つめるギタンの目は、いつもよりずっと鋭かった。



「騒がしいって…これからパレードだからだろ?」



「そういうことじゃねぇ」



「…?」



「必ず、三塔側から帰れ。頼んだぞ」

ギタンはそう言うと、躊躇いもなく屋根から飛び降りた。



「あっ」


サムとメルは、同時に屋根の下を覗き込んだ。


ギタンは器用に人を避けて着地すると、何ごともなかったかのように人混みに紛れた。



「……」



「兄ちゃん、オレたちもいこうよ」



「…ああ、そうだな」


北の大塔へ寄ってから帰るなら、もう向かわないと十一時に間に合わない。



「ヌイたちがいっしょなら、オレたち、行かなくていいじゃんね」



「そう言うなよ。オレたちだって三塔の方から帰るんだから」



「でも、兄ちゃんとオレの二人なら、やねの上走ればすぐ帰れるし」



「それは、本当はやっちゃいけないことなんだよ」


サムは「行くぞ」とメルに合図した。



建物と建物の細い隙間に入り込み、窪みを使って素早く地面へ降りた。


人の流れに合わせ、そのまま何食わぬ顔で人混みに紛れた。



「王様、またお馬に乗って現れるのかな~!?」


「全然、中央通りにたどり着けないねぇ」


「まあ、まだ始まるまで一時間あるから」


周りを歩く人たちは、誰も自分たちに関心を持っていなさそうだ。



シルヴィアの作ってくれた服を着ていると、まず、貧民区の人間と気付かれることはない。


町中を歩いても、住処に帰れと石を投げられることもない。


馬鹿にするように、くすくす笑われることもない。


汚ぇと、殴られることもない。



貧民区出身ということが分かれば、誰もが態度を変えるというのに。


リリィだけは、一切、変えなかった。



自分の死の瀬戸際に、突然現れた少女。


人間とは思えないくらい綺麗な顔で、吸い込まれるような紅い瞳が、やけに印象的だった。


黙っていれば、どこかの姫みたいだった。



だけどリリィは、よく動き、よく喋った。


何にでも興味を持ち、どんなことでも手伝った。



メルやカヤは、一瞬でリリィに懐いた。


孤児院には姉のような存在がいなかったから、よほど嬉しかったのだろう。



リリィは、驚くほど常識を知らない。


勉強も、料理もできるのに。


…絵は、下手だけど。



大人びているくせに、危機感がまったくない。


ちぐはぐで、不思議で、危なっかしくて、目が離せない。



『頭を撫でられたのなんて、初めてかも』



リリィは…一体、何者なのだろう。


親がいない…はずがない。


だけど、親が遠い存在なのかもしれない。



普段、親と会えず、貧民区の存在も知らないような、


発表される前から、ヴァメロ王子の名を知ることができるような立場。



もしかして、王女…なわけがない。


この国には、王子しかいない。



だけど、かなり身分が高いところの娘のはずだ。


そんな娘が、どうやってひとりで貧民区に来ているのか。


どうして自ら危険な場所にやって来るのか、何も分からない。



分かることは、


リリィは、とんでもない白の使い手だということ。


ただ、それだけだ。



シルヴィアを見てきたから、白の使い手は遠い存在ではない。


それでも、リリィのちからは桁違いだ。



死にかけたオレや、同じような症状が出ていたカヤたちを一気に治してしまった。


そんな白の使い手が、霊拝師(オランス)の中にもいるのだろうか。




数日前、ボノ一家が突然元気になった。


四人全員揃って炊き出しに現れた時は、誰もが驚いた。



ボノは、笑って誤魔化していたけど…


元気になった今も、毎日のように薬療院へ訪れている。


きっと、嬢ちゃんはどこだと尋ねているのだろう。



貧民区の人間たちは、お互い助け合わない。


自分のことで精いっぱいだし、きりがない。


下手をすれば、それで死ぬことだってある。


助けたところで、自分が損をするだけだ。



町の人たちは、もっと助けない。


何の役にも立たない貧民区の人間が、苦しもうが死のうが、どうでもいいと思っているから。



助けの手を差し伸べる人なんて、いない。


いない、はずなのに――




「あっ、兄ちゃん!シルヴィアたち、いたよ!」



「…あ、そうだな」


メルの言葉に、サムは思考を止めた。



北の大塔は、特別な日だけ開放される。


大正門の壇上に立つ国王の声が、よく聞こえる。



ただし、ものすごく混んでいる。


一度上ったことがあるけど、その時は人の圧で死にかけた。


もう、二度と上らないと心に決めた。



だけどシルヴィアは、必ず北の大塔で国王の挨拶を聞く。


まるでそれが、義務かのように。



「…すぐ分かるなぁ」


思わず、苦笑が漏れた。



可愛らしい刺繍の入った、黄緑色の服を着たシルヴィアは、すぐに見つけられる。


五人も子供が周りにいるから、余計に目立っている。



「サム―!」


「メルだぁ!」


ゲンとユウが、こちらに向かい駆けてきた。



「お前ら、危ねぇぞ」


「人に当たるなよ~」


走る二人の後ろから、ヌイとワンスが続いた。



「メル、ちゃんと見れたか~?」



「ふふん、しっかり見れたよ」



「王子様、ちっちゃかったね~」



「だって、まだ赤ちゃんだもん」



「はじめてユウが院に来たときくらい、小さかったな」


メルと合流したゲンとユウが、すぐに話し出した。



「あなたたちが迎えに来てくれたのね」


モモと手を繋いだシルヴィアが、ゆっくりとやって来た。



「大広場から、わざわざありがとう」



「ん。全然いいって」



「サム、おんぶ~」



「はいはい」


サムはモモを背に乗せると、薬療院の方角とは反対方向へ歩き出した。



「ギタンが、必ず三塔側から回って帰れってさ」



「…?院を出る前に、ギタンがそう言っていたの?」


隣に並んだシルヴィアが、不思議そうに首を傾げた。



「違うよ。オレたちが見てた屋根の上に、ギタンが来たんだ」



「あら…珍しいわね」



「…リリィがさ、院に来て待ってるんだって」



「そうなの…!」


シルヴィアが、一瞬、安堵の表情を浮かべた。



シルヴィアは、リリィを気に入っている。


気に入っていて、それ以上に心配している。



それは、この半年の様子を見てもよく分かった。



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