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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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サムの見ているもの①

サム視点



大正門の壇上に立つ国王が、片手を掲げ――下りていった。



「王様、かっこよかったね~!」


メルは隣で、まだぱちぱちと手を叩いていた。



「そうだな。とりあえず、ここから屋根に降りるぞ」


サムは煙突の上から、下に広がる町の様子へ目を向けた。



大正門前の大広場は、まだ人で溢れ返っている。


国王の挨拶がたった今終わったところなのだから、当たり前だろう。



「あたらしい王子様の名前って、ば、ば、ばめろ」



「ヴァメロ王子、な」



「王子たちの名前は呼びにくくって、おぼえらんないよ」


メルはそう言うと、煙突から屋根の上へひょいと飛び降りた。



「ブライアン王子しか、分かんないや」



「ブライアン王太子、な」


サムもメルに続き、タンッと屋根の上へ着地した。


先ほどまで見えていた大正門の上が、周りの建物に隠れて見えなくなった。



「うわ~…兄ちゃん、みて。下の道が、人でいっぱい」



「まあ、そうだろうな。これから、中央通りの方にみんな移動するんだろ」


一時間後には、祝いのパレードが始まる。



「今回のパレードは、騎士様も参加されるんだろ?」


「黒の騎士も白の騎士も、参加されるらしいぞ」


「まるで、凱旋のパレードみたいだな」


下を歩く人たちの中から、途切れ途切れの会話が耳に届いた。



「ブライアン様、見えるかな!早く行って、いい場所取らないと!」


「まだ十二歳だというのに、あの神々しさは一体なんなんだろうね」


「ねぇねぇ、パレードには、アランフォース様も参加されるのかな!?」


「当たり前でしょ!黒の騎士の、副団長なんだから!」




「ねぇ、兄ちゃん。オレたちはパレードに行かないの?」



「ん?ああ…」

サムは通りから目を離し、メルに顔を向けた。



「もう、帰るか。カヤが心配だからな」



「んん~…う~ん」

メルが唸るように答えた。



「どうしても行きたいなら、ヌイたちと合流して一緒に行ってくるか?」



「でも、ヌイたちは北の大塔から見てるんでしょ?とおいし、いいよ」



「パレードは、何回もやるだろ」

サムは不服そうな弟の頭を、ぽんっと優しく叩いた。



「でも…つぎも見られるかは、分かんないじゃん」



「ん?」



「前みたいに、みんないつ病気になるか、わかんないじゃん」

メルの目が、わずかに潤んだ。



「…そうだな。オレたちは、いつ死ぬか分からない」


メルの言う通りだ。



母親が死んでからは、毎日、生きるだけで必死だった。


それに比べたら、孤児院の暮らしは夢みたいだ。


ちゃんと飯があって、寝る場所があって、シルヴィアがいる。


霊拝師(オランス)が院長をやっているなんて、普通じゃない。



それでも、病気にはなる。


自分たちが孤児院へ来てからも、四人の子供が死んだ。



リリィが現れなかったら、自分だってあの日死んでいただろう。




「…オレがつらかった時、誰か隣にいてくれたの、すげぇ心強かったからさ」

サムは、メルの頭をくしゃっと撫でた。



「カヤは今、ひとりだ。戻って、傍にいてあげようぜ」



「…うん」

メルは小さく頷いた。



「…そうは言っても、もう少し人が減ってからだな」


下の通りは、まだ移動する人たちで溢れ返っている。



「…あれ?兄ちゃん、誰かこっちくる」



「えっ?」

サムは、慌ててメルの視線を追った。



屋根の上に登っているのがバレたのだろうか。


そうだとしたら、逃げなくてはいけない。



北の方角から、深くマントをかぶった人物が近づいてきている。


まるで歩くように、屋根と屋根の間を移動していた。



「…ああ、あれ、ギタンだ」



「えっ、なんで兄ちゃん、分かるの?」



「あの歩き方は、ギタンだよ」


あの独特な移動の仕方を、何度も見てきた。



「ギタンが、なんでここに来てんの?」



「さあ…なんでだろうな」


いつもここで見ている自分たちのもとへギタンが来るなんて、初めてだ。


てっきり、北の大塔の方までシルヴィアたちを迎えに行ったのかと思っていたのに。



「よう」


マントを目深にかぶった男は、屋根の上へ着地すると、まっすぐサムたちに近づいた。



「何かあったのか?」


やっぱり、ギタンだ。


外へ出る時は、いつも顔を隠すように頭からマントを深くかぶっている。


町の中では、絶対に外さない。



「リリィは、来ねぇぞ」



「えっ?」



「リリィは、ここに来ねぇ。お前が待っているかと思って、伝えに来た」



「あ、ああ…」


確かに今日、リリィと約束をしていた。


来る日はいつも九時には現れるのに、今日は三十分過ぎても来なかった。



「そうかなって思ってたから、待ってなかったよ」


なんとなく――リリィは、もう来なくなるような気がしていた。


シルヴィアもギタンも何も言わないけど、何かあったのは明らかだ。



だから今日、リリィと約束していることを誰にも言わなかったのに。


ギタンには、なんでもお見通しだ。



「薬療院の方で、待たせてる」



「えっ…リリィが来てんのか?」



「そうだ。お前との約束を守ろうとしたんだろうな」



「……」

サムは、ぐっと口を噤んだ。



「パレードも観に行きたいか?」



「あ…いや、通りの人が減ったら、帰る予定だったよ」



「俺は、シルヴィアたちを迎えに行く」



「うん。伝えに来てくれて、ありがと。ギタン」


薬療院からなら、直接北の大塔へ向かった方が近い。


わざわざ、遠回りしてまで伝えにきてくれたのか。



「…確かに屋根を使えば、人混みの煩わしさを避けられるな」


ギタンは屋根の端で屈むと、溜息をつきながら通りへ視線を落とした。



「多すぎて、下を歩く気もしねぇ」



「普通は、屋根を使わねぇって」

サムは苦笑しながら、ギタンの隣に屈んだ。



オレとメルは、木登りが大の得意だ。


どんなところでも、だいたいの場所は登ることができる。



ヌイやワンスたちは、何度練習しても同じように登ることはできなかった。


ヌイいわく、お前たち二人が変だと言っていたけど。


でもこうやってギタンも登れるなら、やっぱり特別なことじゃないのかもしれない。



「ギタンはさ、体がでかいのに身軽だよな」



「俺よりもでかくて素早い奴は、いくらでもいる」

ギタンは、通りに視線を落としたまま答えた。



「本当かよ?町でも、ギタンみたいな体つきの人は見かけないけど」



「パレードに行きゃ、大勢いる」



「ああ…元騎士だったんだもんな…?」


ギタンは、左腕がなくてもめちゃくちゃ強い。



「兄ちゃん、ギタン、何してんの?」

メルが言いながら、サムの背中に寄りかかった。



「人が減るの、待ってんだよ」



「なんか、リリィって、聞こえたけど」



「…あー…」



「リリィ、きてるの?」



「…うん。薬療院の方で、待ってるらしい」



「!じゃあ、はやくもどろ!」


メルの声が、一気に弾んだ。



「待てよ、人が減ったらって言っただろ?」



「でも、はやくいかないと、リリィ帰っちゃう!」



「…そうだな」


リリィは、いつも十一時には帰ってしまう。



「よかったー!また、きてくれたんだね!」



「……」


良かった…のだろうか。


メルは、耐えられるだろうか。



今日、どうしてリリィが来たのかは、


ギタンの言い方から、なんとなく察していた。



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