選んだ道の代償③
リリアンヌ視点
「…白の使い手を出した家には、国から金が出る」
ギタンは、静かに続けた。
「贅沢しなければ、平民が一生暮らせるような大金だ」
「…そうなの?」
そんなこと、知らなかった。
「家族のひとりを、国に預ける形になるからな。お前を身内ということにして大聖堂へ引き渡せば、そいつに大金が入る」
「それが目当て…?」
「それなら、まだましだ。白のちからの需要は、いくらでもある」
「ま、まし…?」
「白の使い手を、自分だけのために使いたがる金持ちは多い。いつ来るか分からない霊拝師を待たなくて済むからな」
「大聖堂に引き渡さず、私を個人的に使うということ?」
「そうだ。それも、奴隷のように扱われるだろうな」
ギタンは声色も変えずに答えた。
「そういう…ことなの…?」
そんなこと――父は、絶対に許さない。
もしかしたら自分を見つけるために、軍だって動かしてしまうかもしれない。
そうしたら次は、なぜそういうことになったのかと徹底的に調べるはずだ。
そうなれば――結局、繋がる先はここだ。
「お前は、しばらくここに来るのをやめろ」
「…うん。もう、帰る」
もともと、今日で最後にするつもりだった。
「…これから俺は、シルヴィアたちを迎えに町へ行ってくる」
ギタンはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
「その後送ってやるから、ここで待ってろ」
「…え?」
「あいつらも、お前を心配している。最後に顔を見せてやれ」
「…そんな資格、ないよ」
リリアンヌは、じわりと目元を滲ませた。
「心配してもらう資格なんて、ない…」
すべて、私が悪いのだから。
「…孤児院の二階に、カヤがひとりでいる」
「えっ…どうして?」
「風邪を引いたんだ。今日を楽しみにしていたのに、可哀想にな」
「……」
「もう、シルヴィアの薬を飲んで良くなってる」
ギタンが鋭く言い添えた。
「白のちからは、使わないよ…」
リリアンヌは力なく首を振った。
「カヤも、お前と会いたがっていた。顔を見せてやれ」
「…うん」
「お前は、死にゆく命を助けた」
俯くリリアンヌの頭に、ぽんっと大きな手が伸びた。
「確かにやり方は間違っていたが、誰もお前を責めちゃいねぇ」
「……」
「一時間ほどで戻る」
ギタンは返事を待たず、鐘の鳴る扉から出ていった。
「……」
リリアンヌは、ゆっくりと視線を落とした。
握りしめた帽子が、くしゃりと音を立てた。
ここは…どうなるのだろう。
炊き出しに行くたび、マント姿の子供がいないか、貧民区の人たちに探られるのだろうか。
もしかしたら、シルヴィアが元霊拝師ということも気付かれてしまうかもしれない。
そんなことになったら、シルヴィアだって危ない。
何が…幸運な出会い、だ。
シルヴィアたちにとっては――私は、厄介者でしかない。
ぽたっ…と涙が落ち、床に染みが広がった。
「…っ」
リリアンヌは小さく鼻をすすり、そっと立ち上がった。
もう、消えるべきだ。
もう、ここに二度と現れてはいけない。
「…シルヴィア~?」
調理場の奥から、小さな声が聞こえてきた。
「…!」
リリアンヌは、はっと振り返った。
「あっ…リリィだー!」
「カヤ…!」
裏口から入ってきたのは、カヤだった。
「リリィ~!」
カヤはリリアンヌのもとまで駆けると、勢いよく抱きついた。
「…カヤ、歩いて平気なの?風邪を引いたって聞いたよ?」
リリアンヌはそっと目元を拭い、カヤの顔を覗き込んだ。
「だって、もう元気だもん!」
「…う~ん、そうかな?」
頬を膨らませるカヤの顔は、ほんのり赤らんでいる。
それに、抱きつく体もいつもより熱い。
「元気なのに、おいてかれちゃった…」
「もうすぐみんな、帰ってくるって言ってたよ」
思わず、笑みがこぼれた。
「だから、それまで寝て待ってようか」
懐かしい。
行事の日に熱を出して参加できなかった悔しさは、よく分かる。
「リリィが、いっしょにいてくれる?」
「え?」
「ひとりは、こわいの」
カヤの瞳が、みるみる潤んだ。
「ひとりは、もうやだ」
「カヤ…」
リリアンヌは、ぎゅっとカヤを抱きしめた。
胸が痛い。
いつも笑っているから、気付いてあげられなかった。
「…カヤ、一緒にベッドのところまで行こう」
「ついてきてくれるの?」
「うん。シルヴィアたちが帰ってくるまで、ここにいるよ」
リリアンヌはカヤから体を離し、そっと手を握った。
「行こうか」
「うん…!」
カヤは、嬉しそうに頷いた。




