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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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選んだ道の代償②

リリアンヌ視点



「――頼むよ、ギタン…!」



「…!」


薬療院の中から聞こえてきた声に、


リリアンヌは把手にかけた手を、ぴたりと止めた。



「頼む、嬢ちゃんに会わせてくれよ…!」



「…あ」


その言葉に、リリアンヌの顔から血の気が引いた。



「オレたち、四人とも治ったんだ!信じられるか?びっこ引いてたオレの足まで治しちまった」


声の主は、ボノだった。



「あの嬢ちゃんは、白の使い手だった。しかも、凄腕だ。そうだろう!?」



「ここに、お前の言う嬢ちゃんはいねぇ」


くぐもったギタンの声が、ボノに答えた。



「何度来ても、無駄だ」



「いいや、そこに座ってたところをオレは見ている!…あ!それに、お前と一緒に飯を運んでくれたじゃねぇか」



「さあ、忘れたな」



「おい、ギタン!頼むよ…恩人なんだ!」



「恩人だと思うなら、忘れろ」



「礼も言わせてくれねぇのか!?」



「いない嬢ちゃんに、礼を言うことはできねぇな」



「…嬢ちゃんは、命の恩人だ。オレは、何があっても嬢ちゃんを売ったりしねぇ」


ボノの声が、ぐっと低くなった。



「だがな、オレたちが突然元気になったことを、不審に思っている奴が大勢いる」



「…っ」

リリアンヌは、ぱっと口を塞いだ。



「それに…元気になる直前に、オレが嬢ちゃんと歩いているのを何人にも見られてるんだ」



「顔を隠していなかったのか?」



「いやっ…嬢ちゃんは、しっかり頭まで隠してたよ!」


ギタンの鋭い声に、ボノは慌てて返した。



「だけどな、オレが殴られ…ええと、目立つところで、孤児院の嬢ちゃんって呼んじまったんだ」



「……」



「オレは、嬢ちゃんが心配なんだよ…あんな優しい子だ。いつか、悪い奴に騙されちまう」



「…ボノ、心配してくれるなら、二度とその嬢ちゃんの話を出さないでくれ」



「…そうだな。元気になったオレが何度もここに来てたら、勘づかれちまう」


ボノの声が、扉に近づいた。



「…!」


咄嗟に、建物の陰に隠れた。



「ギタン。もしその気になったら、オレの言葉を伝えてくれ」


扉の鐘が鳴り、ボノの声がはっきりと聞こえた。



「もっと嬢ちゃん自身のことを考えてくれ、ってな」



ざく、ざくと地を踏みしめる足音が離れていき――


やがて、聞こえなくなった。




「…入れ」


落としていた視線の先に、影が差した。



「…うん」

リリアンヌは建物の陰から離れ、ギタンに続いて扉をくぐった。




「そこに座れ」



「…シルヴィアは?」


中には、ギタンしかいなかった。



「子供らと町の方へ行ってる」



「…そっか」


リリアンヌは外した帽子を両手で握り、来客用の長椅子に浅く腰掛けた。


その前に、ギタンはゆっくりと膝をついた。



「お前が何をしたか、もう分かったな?」



「…ごめんなさい」


震える小さな声が、床に落ちていった。



ボノが殴られていた時――


貧民区の人たちが、周りの建物から覗いていた。



そのことに、気付いていた。


どうして誰も助けないのかと、腹を立てたのだから。



ボノ一家が病気だったことは、あの辺りの人たちは知っていたはずだ。


あれだけ体調の悪かった一家が突然元気になれば、


白の使い手が現れたに違いないと考えるだろう。



それが誰かとなれば、その直前にボノと一緒にいた自分に、容易に結びつく。


深くマントをかぶった姿も、炊き出しの時に多くの人に見られている。


何度も、目立つ行動をしてしまったのだから。



なんて、浅はか。



せめて次の日に…いや、夜にでも、秘密裏に訪れることもできたのに。


時間を空けるということを、考えもしなかった。



違う…


そういうことではない。



もっと、ずっと前からだ。


初めから――私は、考えが足りなかった。




「俺に謝っても仕方ねぇだろ」


ギタンの静かな声に、思考を止めた。



「…どうなるの?今、どうなっているの…?」

リリアンヌは、震える声で尋ねた。



「貧民区の人たちは、白のちからを欲しいと、ここへ来ているの…?」



「…あいつらも、シルヴィアに恩はある。表立って問い詰めに来るようなことはしねぇ」



「でも…ここに、白の使い手がいるかもと思っているのでしょう?」



「そうだな。だから、お前が危ない」



「私のことは、どうでもいい」


自分が蒔いた種だ。


自分の危険なんて、どうでもいい。



「……」

ギタンは、静かに眉を寄せた。



「そんなことより、どうすればいい…?どうすれば、ここに迷惑がかからないの?」

リリアンヌは、食い下がるように続けた。



「わ、私が、貧民区の人たち全員を治せば――」



「そんなこと、絶対にやめろ」


ギタンが鋭く遮った。



「そういうことじゃねぇ」



「じゃあ…どういうこと?危ないって、何?」


貧民区の人たちに、自分たちも治せと迫られることが危ないのではないのだろうか。



「…俺が、もっと早く言ってやれば良かったな。悪かった」



「だからっ…何を?白のちからを欲しい人が、狙うということを?」




「あいつらが欲しいのは――白のちからじゃねぇ。金だ」



「…っ」


ギタンの言葉に、リリアンヌはひゅっと息を呑んだ。



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