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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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取り返しのつかない選択④

リリアンヌ視点



「ボノさん…!」



「!?」


ボノは、はっと顔を上げた。



「ボノさん!大丈夫…!?」


リリアンヌは建物から飛び降り、急いでボノのもとへ駆けた。



「あっ…!?ああ、孤児院の嬢ちゃんか!?こんなとこで、何してんだ」



「ひどい…!」


ボノの顔は、初めて会った時のギタンのように、痣だらけだった。



「嬢ちゃん、ここにいちゃ――っぐ、ごほっ、がはっ…!」


咳き込むと同時に、地面に血を吐いた。



「ボノさん、シルヴィアのところに行こう…!歩ける?」



「い、行かねぇっ…」



「どうして?手当てしてもらおうよ…!」



「いいから、嬢ちゃんはオレに近づくな」



「じゃあ、私がシルヴィアに薬を貰って来るから――」



「嬢ちゃん、いいんだ」

ボノは静かに首を振った。



「聞いてたなら、分かるだろ。オレは、悪いことをした」



「……」



「目の前にぶら下げられた餌に、手ぇ出しちまった。そうすりゃ、生きられると思ったんだよ」

ボノは、かかっと笑ってみせた。



「ざまぁねぇな。こんな馬鹿げたことのために、貴重な家族との時間も失っちまった」



「…どうして」


リリアンヌは、悲痛で顔を歪ませた。



「自業自得だな。それで、このザマだ」



「…セイさんと子供たちは、今どうしてるの?」



「かろうじて生きてる…だが、ここまでだ」

ボノは壁に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。



「…!私の肩を、杖代わりにして」



「あ、ああ…大丈夫だ。壁に掴まってりゃ、帰れる」



「いいから…家まで送らせて」



「…くくっ…嬢ちゃんは、本当にお節介だなぁ」

ボノは呆れたように笑うと、リリアンヌの肩にそっと手を置いた。



「じゃあ、すまねぇが、そこまで付き合ってくれるか」



「うん。二個目の分かれ道で、左だよね」



「そうだ。よく覚えてんなぁ」



「だって、ついこの間、一緒に歩いたばかりだもの」

リリアンヌは、ボノの歩幅に合わせてゆっくりと足を進めた。



「…本当に、手当てしなくて大丈夫?」



「ん、平気だ。オレの怪我は、寝りゃ治る」



「…そっか」



「すまねぇなぁ。嬢ちゃんに、現実を見せちまった」



「…現実って、何のこと?」



「オレたちゃ、人扱いされてねぇ。死んでも、誰も悲しんじゃくれねぇんだ」



「私は、悲しむよ」

リリアンヌは、掠れる声で答えた。



「そうだな。それに、シルヴィアも悲しんでくれるだろうな」

ボノは、乾いた声で笑った。



「嬢ちゃんは、大丈夫だ。必ず、いい薬師(メイディ)になる」



「…だから、薬師には――」



「頼むよ…オレにも、夢見させてくれ」



「…え?」



「ここにも未来があるって、信じて死にてぇんだ」


ボノの声は、微かに震えていた。



「…ここまで、ありがとな。おかげで、早く帰ってこれた」



「…あ」


あっという間に、ボノの家の前に着いた。



「嬢ちゃんみたいな子と出会えて、オレは嬉しかったぜ」


ボノは、リリアンヌの頭をぽんと優しく叩き――そっと手を離した。



「…じゃあな。気を付けて、孤児院まで帰れよ」


足を引きずりながら、扉のない建物の中へ消えていった。




「…ただいま!」



「とっ、父ちゃっ…げほっ、げほっ!」



「メイ、喋るな、喋るな!お前、寝てなかったのか」



「父ちゃん、その怪我なんだよ!」



「いいから、寝てろ。明日、薬貰って来てやるからな。腹も減ってんのに、すまねぇ」



「…金の件は?」



「…すまねぇ!失敗しちまった!」


かかかっ…と笑うボノの声が、外まで響いた。



「…そっか」



「レンは、まだ寝てんのか?」



「…母ちゃんと同じ。どんどん、体が熱くなってきてる」



「おい、セイ…セイ、聞こえるか」



「…母ちゃん、朝から一度も起きてない」



「…っ、悪かったなぁ、セイ。お前にずっと任せて、すまなかったなぁ」


ぐずっ…とボノが鼻をすすった。



「もう、ずっと隣にいてやるからな」




「…っ…」


リリアンヌは入り口の前で、静かに拳を握りしめた。



もう――無理だ。


もう、耐えられない。




気付けば――


ボノたちがいる建物の中は、白い光に満たされていた。




「…!?なんだぁ!?」



「ええっ…!?」


建物の中で、戸惑う声が響いた。



「…あら?」



「!セイ…!お前…っ」



「…ん?ボノあなた、その破けた服…怪我してるの?」



「いっ、いや、これはっ――あれ?治ってる…」



「父ちゃん…腹へったよ」



「あっ…レン!」



「と、父ちゃんっ…!私も、治った…!」



「メイ!お前、立って平気なのか!?」



「父ちゃんっ…何これ!?一体、何が起こってんの!?」



「――まさかっ…!」


ボノは、急いで扉のない入り口まで駆けた。




そこには、もう、誰もいなかった。



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