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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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取り返しのつかない選択③

リリアンヌ視点



薬療院から抜け道までは、単調な道のりだ。


城壁と貧民区の通りの間にある森を、まっすぐ歩くだけ。



しばらく進むと貧民区の通りが終わり、森が広がる。


第三城壁の三塔に辿り着く前に、抜け道に続く大穴が現れる。



今日は、余裕を持って帰れそうだ。


この調子なら、十二時前にはエラドリオール邸へ戻れるだろう。


なんとしてでも休息の日に、またここへ来るために、


使用人たちに怪しまれるようなことをするのは、避けたかった。




「――…ったねぇなぁ!ふざけんなよ!」



「…!」


耳に怒声が届き、思わず足を止めた。



貧民区の通りの方からだ。


声が聞こえてくるなんて、初めてだ。



「――…がいします…!もう一度、もう一度だけ」



「――…は、失敗したんだよ!離せ、気色わりぃ!」



「――いします…!げほっ…お願いします!」



「……」

リリアンヌは森から通り側へ進むと、静かに建物の上へ跳ねた。


どちらの声にも、聞き覚えがあった。



「いい加減、足を離せ!この蛆虫がぁ!」


ガンッ、と強く叩く音が聞こえた。



「お願いします!お願いします!もう一度、クアドラ様に頼んでくんねぇか!」


次に聞こえた声は、くぐもっていた。



「あと一回盗みを成功させれば――約束の十回に、届いたはずだ!」



「だぁから、その最後の一回を、お前は失敗したんだよぉ!」



「ぐぁっ…!」



「……」

リリアンヌはマントを深くかぶり直し、通り側を覗き込んだ。


建物の下には、数人の男がいた。



「ったく…よりにもよって、ロボドの賭場で失敗しやがって」



「こりゃ、下手したらエレンザーまで話がいっちまうかもな」



「六塔じゃ、近すぎたか。十二塔で試させりゃよかったか?」



「ばぁか、オレたちの居場所を、ムサの野郎に知らせる気かよ」


立っている五人組の男たちが、何を話しているのかよく分からない。


全員、まだ若い。



「お願いします!この通りだ…!」


五人の足元には、小さく縮こまり、土下座する男がいた。



「うるっせぇなぁ!さっさと消えろよ!」


中心にいた若者が、木棒で土下座している男を殴りつけた。



「ぐぁっ…!っ、げほっ、げほっ…!」



「おい、戻ろうぜ。いつまでもここにいると、臭くなっちまう」


「こいつ、ずっと咳してるし。変な病気移されたら、たまんねぇ」



「たっ、頼む…!げほっ…どうしても大金貨が必要なんだ!」


去ろうとする若者たちに、土下座したまま、男は這いずるように近づいた。



「もうっ…オレの家族が、死んじまうんだぁ…!」




「知るかよ、ばーか」


木棒を持つ若者が、ぺっと男の頭に唾を吐いた。



「貧民区の人間が何人死のうが、どぉっでもいいんだよ!」



「ひっでぇ、ハック!」


「正論突きつけてやんなよ!」


「そもそも、金もねぇくせに家族なんて作ってんじゃねぇ」


周りの若者たちが、ぎゃははっと下卑た笑い声を上げた。



「失敗の報告は、クアドラ様に入れといてやるよ。もうお前、今後は仕事も貰えねぇだろうな」


ハックは、「じゃあな」と背を向けると、若者たちを引き連れて小路の奥へ消えていった。



辺りがしんと静まり返り、


地面に這いつくばったままの男だけが残った。



「…うぐぅ…!げほっ、げほっ…!」


男はその場でさらに身を縮め、わなわなと肩を震わせた。



「くそっ…!くそおおっ…!」



――ボノの、悲痛な声が辺りに響いた。



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