取り返しのつかない選択②
リリアンヌ視点
「これは、年の功ね。それから、人とよく話す仕事をしてきたことも関係しているかしら」
シルヴィアは、ふふっと笑って答えた。
「ここに来ていることが、気付かれそうになっているのね?」
「…はい」
すべて、当たりだ。
「シルヴィアたちに、迷惑をかけたくないの。だから、しばらく来るのをやめようと思って…」
言いながら、リリアンヌは次第に俯いた。
「迷惑だなんて思っていないわ。だけど…そうね、あなたの親御様の気持ちを考えたら、ここへ来るのはやめた方がいいかもしれない」
「…うん」
「それでも来たいと思ってくれるのなら、今度は、親御様をちゃんと説得してから来なさい」
「……」
それは――きっと、無理だ。
「リリィ…寂しくなるけれど、永遠の別れではないわ」
シルヴィアは顔を寄せ、優しく言った。
「私たちは、ずっとここにいる。サムたちは…少なくとも、あと数年はここにいる」
「えっ…どういうこと?」
リリアンヌは、ぱっと顔を上げた。
「孤児院にいられるのは、成人する十六歳までなの」
「…あ、そっか」
それは、そうだ。
「そうは言っても、王都から出るわけではないわ。むしろ、会いやすくなるかもしれないわね」
シルヴィアはそっと言い添えた。
「せめて、手紙のやり取りをしたいけど…」
それも、きっと難しい。
手紙を出すなら、家令を通さなくてはいけない。
それはつまり、父に知られるということだ。
「…寂しい」
堪えていた本音が、ぽろりとこぼれた。
「そうね…あの子たちも、とても寂しがるわ」
「…ちゃんと挨拶しなきゃ」
「もう、今日が最後なのかしら?」
「ううん…次の休息の日を最後にしようと思っているの」
サムと、町へ行く約束をしている日だ。
その日だけは、どうしても来たい。
「そう。それなら、伝えるのは休息の日でいいわね」
「うん。そうする」
リリアンヌは頷きながら、そっと目元を拭った。
こんな状態でみんなに別れの挨拶をしたら、きっと大泣きしてしまう。
「シルヴィア…今まで、私の我儘を聞いてくれてありがとう」
白のちからの使い方を知りたいという自分に、無償で授業をつけてくれた。
本来なら、大聖堂に入らないと知ることのできないような内容ばかりだ。
「突然現れた私を、温かく迎えてくれてありがとう」
親にも言ったことのないような我儘も、たくさん言ってきた。
誰よりも一番、シルヴィアに甘えてきてしまった。
「リリィ。それは、こちらの台詞よ」
シルヴィアは姿勢を正し、ゆっくりとリリアンヌに向き合った。
「あなたがここの子たちにくれた奇跡は、一生忘れないわ」
その表情は、見たことがないほど真剣なものだった。
「…ギタンが、ここに私を連れて来てくれたから」
リリアンヌは、そっと口を開いた。
なんて、不思議な繋がりなのだろう。
なんて――幸運な出会いだったのだろう。
「ええ…そうね。これも、運命の導きだったのね」
シルヴィアは右手で額に円を描くと、胸の前で両手の指を絡めて組んだ。
「あなたに…どうか、オーリア様の祝福がありますよう」
目を伏せて祈るシルヴィアを――
リリアンヌは、ただじっと見つめていた。




