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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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取り返しのつかない選択①

リリアンヌ視点



「――…ぃ、…リリィ?」



「…あ」


宙に漂わせていた視線を、はっと隣に向けた。



「リリィ…あなた、大丈夫?今日は、ずっと考えごとをしているようだけれど」

隣に座るシルヴィアが、心配そうに尋ねた。



「…うん、大丈夫!教えてもらっているのに、ごめんなさい」

リリアンヌは慌てて謝ると、小さく自分の頬を叩いた。



「ええと…今は、白のちからでも治せないものの話をしていたところだったね」



「…ええ。どんなにちからを鍛えても、癒せないもの。覚えているかしら?」



「うん。まずは、栄養失調」

リリアンヌはすぐに答えた。



「そうね。栄養失調は、食べるものを口にしないかぎり、良くなることはないわ」



「それから、老衰とつわりだね」



「正解よ。寿命も、身ごもっていることも病ではないから。

もうひとつ、癒せないものがあるのだけれど…これは、まだ教えていなかったかもしれないわ」



「もしかして…精神からくる病?」



「精神からくる病…そうね、その言い方が正しいわ」



「本当は何と言うの?」



「本当は、“虚ろ人”と言うの」



「虚ろ人…」


知らない言葉だ。



「意識があっても、意思の疎通ができなくなってしまった人のことね」



「でも…他にも、もっと精神からくる病はあるでしょう?」



「リリィの言う通りね。心の衰弱も、この中に入るわ」



「…!」


シルヴィアの言葉に、どきりとした。


“物語”では、母は衰弱して命を落としている。



「今挙げたものは、白のちからで癒すことはできないけれど、薬で補うことはできるの」

シルヴィアは、淡々と続けた。



「…うん。栄養失調なら、体の弱りを戻すものと、胃腸の働きを助ける薬を処方するんだよね」



「よく覚えていたわね。選んだ薬草は覚えているかしら?」



「ええと…これと、これと…これ」

リリアンヌは、テーブルに並べられている瓶のうち三つを指さした。



「素晴らしい、正解だわ。とても覚えが早いのね」

シルヴィアはにこりと微笑んだ。



「これは、思い出深い薬だから…」


初めて薬を作った時に、大失敗したから。


だから、よく覚えていた。



「ふふっ…ええ、確かに思い出深いわね。この薬のように、体の働きを助けるものを作ることはできるの」



「あの、シルヴィア…心が衰弱してしまった人にも、薬は作れるの?」



「ええ。症状によって少し変わるけれど、処方することはできるわ」

シルヴィアは瓶の中から三つを選ぶと、手前に並べていった。



「今日は、その薬を作ってみましょうか」



「うん…!」

リリアンヌは椅子の上で膝立ちになり、テーブルに身を乗り出した。


何か、少しでも助けになるような知識が欲しい。



「これはオユジンという薬草で、体力を高める効能を持っているわ」

シルヴィアは、手前に並べた瓶のうちのひとつを指した。



「へぇ…すごい色」



「それから、これはイガララという薬草。弱った体の働きを整えてくれるの」



「イガララは、解熱薬の時も使ったね」



「そう、正解よ。それからこのオックの実も、イガララと同じような役割を持ったもの」



「どちらも黄色いんだね」



「ぽかぽか茶の作り方は、分かるかしら?」



「えっ…?うん、多分…」

リリアンヌは、戸惑いながらも頷いた。



「蜂蜜に檸檬を浸けて、湯で溶かしているのでしょう?」



「ええ、そうね。蜂蜜の量を増やすと甘くなるから、子供たちはよく飲むの」


シルヴィアは、瓶の方へ顔を向けたままだった。



「そこに生姜を少しだけ刻んで混ぜると、より効果的だわ。体が温まって、落ち着く」



「そうだね。生姜は、体に良いって聞いたことある」



「風邪の予防にもなるし、胃腸の不調を整える助けもしてくれるの」



「まるで、薬みたいな飲み物だね」


並べられている薬草にもありそうな効能だ。



「それなら、あなたでも家で作ることができるでしょう?」



「…えっ!?」

リリアンヌは、ぱっと顔を上げた。



「心が弱っている人がいるのなら、あなたが作ってあげなさい」

シルヴィアは、優しく微笑んで囁いた。



「…ええと」



「私の思い違いだったら、ごめんなさいね。でも、元気な人でも飲んでいいのよ。よく眠れるようにもなるから、夜にあなたが飲むのもいいわね」

シルヴィアは微笑みながら、瓶の中から薬草を取り出していった。



「さ、リリィ。今日も挽いてみましょうか」



「…あの、シルヴィア」



「どうしたの?」



「そんなに私って、分かりやすいのかな…?」

リリアンヌは、困ったように眉を下げた。



確かに、頭の中で衰弱してしまった“物語”の母のことを考えてはいた。


それに、昨日はあまり眠れなかった。



どちらも、あっさりシルヴィアに気付かれてしまった。



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