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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十九章/芽生えていくもの
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英雄たちの帰還②

サム視点



中央通りは、すでに人で溢れ返っていた。


いつもは朝市の屋台が並ぶ場所が空けられ、道の両側に人々が所狭しと並んでいる。



「リリアンヌ様を直接見るのは、いつぶりだろうねぇ」


「ブライアン様も、もちろんいらっしゃるのよね…?」


「国王様を、こんな間近で見られるなんてなぁ」


「騎士様たちが、大勢通るんだろう?あの格好良さがたまんねぇよな」


がやがやと騒がしい人混みを抜け、サムは、他人の家の前に積まれた木材に腰を下ろした。



どうしてこんな朝早く帰ってきたのだろう。


王族もいるのに、随分と慌ただしい凱旋パレードだ。



「最近さ、リリアンヌ様、獣人族の子供を連れてただろ?あの子もいるのかな」


「そういえば、エルフ様は逆に最近見なかったなぁ。いるんだろうか」


「なんだっけ、もうひとりのお付きの人。ネウロって名前はよく聞くけどね。見るのは初めてだ」


パレードを待つ者たちは、忙しそうに話し続けている。



陽が、暖かい。


頭が、ぼーっとする。


酒を飲み過ぎた時のように霞む。


周囲の喧騒が、少しずつ遠のいていった。



次に気付いた時には、大歓声が響いていた。


いつの間にか、壁に寄りかかって眠っていた。


パレードが始まったみたいだ。



「……」

サムは目元まで下がった帽子を両手でかぶり直し、通りへ目を向けた。



通りのずっと向こうから、黒い軍服に身を包んだ騎士が数人、馬に乗って現れた。


ひとりだけ、見たことがある。


橙色の髪の、強そうな騎士。


あの人が確か、黒の騎士の団長だ。


そのすぐ後ろから、国王とリリアンヌが、ひとつの馬に乗って続いた。



「…嘘だろ」


本当に、リリィは国王のお気に入りなのか。


それとも、主役として一緒に現れたのか。



国王は大正門の上と同じように、民に向かってゆったりと手を振っていた。


金色の長い髪を後ろに流し、わずかに笑みを浮かべている。


リリィもその前で、小さく手を上げて歓声に応えていた。


いつも城下町を歩いている格好に、マント姿だ。



「きゃー!ブライアンさまぁー!」


「アランフォース様…!」


「サイラス様、こっち見てー!」


そこかしこで、黄色い歓声が上がった。


国王たちの後ろから、異様に目立つ三人が馬に乗って現れた。



アランフォースの軍服姿を、久しぶりに見た。


誰の声援にも応えず、いつも通りまっすぐ前を見ている。



王太子は、相変わらず美形だ。


民に向かって、優しく微笑みながら手を振っている。



サイラスは…カヤが攫われた時に、聞き込みに来た騎士だ。


強烈な顔立ちで、ずっと覚えていた。


笑い方が、どことなくリリィに似ている。



「あれ、あれだよ!獣人族の子!」


「本当だ、耳があるよ…!」


「あの前に乗っている人は、どなただろうね」


「騎士でも兵士でもなさそうだな」


その後ろに、一頭の馬に乗る二人組が見えた。


後ろに座っているのは、ビッケだ。


数か月前に手紙を渡しにきてくれた時と、何も変わらない。


前に座る人は、初めて見る。


あれが、ネウロというお付きの男だろうか。



「騎士様―!!」


「お帰りなさい!」


さらに後ろから、黒の騎士たちが続いている。


集団で見ると、すごい迫力だ。



サムは、視線をゆっくりと正面に戻した。


先頭を進む団長たちが、目の前を通り過ぎていくところだった。


続いて、国王とリリィが目の前に現れた。



「国王様―っ!」


「リリアンヌ様、すごいよ!」


「また、うちの店に遊びに来てな!」


「美味しいパン焼いて、待ってるよ!」


リリィへの声援だけ、独特だ。


思わず、苦笑いがこぼれた。



見物人たちに向かって、まだ小さく手を振っている。


その笑顔は、いつもよりどこかぎこちなかった。



ふと、リリィがこちらへ目を向けた。


その視線が、ぴたりと止まった。


…まさか。



「…!」

嬉しそうな笑みを浮かべると、こちらに向かって大きく手を振った。



「えっ」


「だれ?」


「誰に手を振ってるの?」


前に立つ人々が、ざわざわと周りを見渡した。



「…!」

サムはその場で、激しく首を振った。


やめてくれ。



国王が、リリィの手を振っている方へゆっくりと顔を向けた。


目が、合った気がした。


その後ろに続く三人まで、一斉にこちらを見た。


本当に、やめてくれ。



あのうち二人は、確実にオレを知っている。


店まで、知られている。



リリィはゆっくりと手を下ろし、眉をひそめた。



「……」

サムは、そっと帽子を深くかぶり直した。


せめて、国王とリリィの兄には顔を覚えられるわけにいかない。


店の名前を突き止められるわけにはいかない。



ふいに、リリィが後ろへ顔を向けた。


国王が身を屈め、リリィの口元に耳を近づけた。


何か、話している。


すると、リリィがふっと笑顔になった。


顔を上げた国王も、心なしか嬉しそうに見えた。



リリィが、肩に視線を落とした。


スノウが、ゆっくりと飛び立っていく。


そのままリリィたちの上を旋回すると――


突然、その体がみるみる大きくなった。



「…ええっ!」


「なに、あれ!」


「精霊様が!!」


そこには、巨大な白い鳥が羽ばたいていた。



「なんて神々しい…」


「本当に、奇跡だよ…」


「すごい…」


おおお…と、見物人たちから感嘆の声が上がった。



スノウがゆったりと羽ばたくと、きらきらと輝く白い粒が、人々の上へ降り注いだ。


その光が、目の前にも舞い降りてくる。



「…!」

サムは咄嗟に手を伸ばした。


手のひらに光が触れた瞬間、じわりと体が温かくなった。



「…あ」


体が、軽くなった気がする。


頭が晴れ、眠気もすっかり吹き飛んだ。



この感覚を、知っている。


これは、あいつの――



「こりゃ…白のちからか…!?」


「腕の傷が、消えちまったよ」


「母ちゃん!僕、元気になった気がする!」


再び、人々がざわざわと騒ぎ出した。



スノウは、まだ町の上をゆったりと飛んでいた。


大きな翼を羽ばたかせるたびに、光の粒が舞い降りていく。


まるで、空を散歩しているかのようだ。



見上げているうちに、じわりと涙が滲んできた。



「あれ…全部、白のちからなのか!?」


「まさか、町中に送る気か!?」


「だって、白のちからって、そんな一気に」


「国王様と、なんか話していた。きっと、国王様が許可してくださったんだ!」


サムは、はっと通りへ目を向けた。


いつの間にかパレードは進み、目の前を黒い騎士たちが通り過ぎていた。



「……」

そっと、涙を拭った。



…どれだけ、心配しても。


あいつは、いつでも笑っている。


どれだけ、遠い存在になっても。


オレを見つけて、助けてくれる。


だから、オレまで期待してしまうんだ。



これからも、変わらずオレに会いに来てくれることを。


あの笑顔を、オレに向けてくれることを。



ようやく――あいつが、戻ってきた。



「…おかえり」



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