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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十九章/芽生えていくもの
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滲む思惑

レックス視点



「エルフは何人いた」



「風の里で確認できたのは、百人ほどでした」

目の前に立つアランフォースが、静かに答えた。



「…思ったより少ないな」


他国へ散ったか。


それとも、過去の人族との戦いで死んだのか。



「キリより強い奴は、いたか」



「私より強い者は、ひとりもいませんでした」

アランフォースが、きっぱりと言った。



「…ふっ…」

隣に立つエドガーが、苦笑した。



「お前じゃねぇ。キリだって言ってんだろ」

レックスはぎろりとアランフォースを見上げた。



「エルフたちは、国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)の騎士に匹敵する実力を持っています。長であるエルデンという者は、キリと同等の強さでしょう」



「……」


つまり、敵か味方かも分からない、騎士団並みのエルフが百人。


そいつらが、今後世に出てくるというわけか。



「エルフたちも、もうリリアンヌ殿下の意に背くつもりはないでしょう」

考えていることを読んだかのように、アランフォースが付け加えた。



「あくまで、あいつのだ。俺たちの意は関係ない」

レックスは素っ気なく返した。



「それは精霊王も同じことだ」


セスランディアの北側で、精霊王が王都に匹敵する戦力を揃え始めた。


しかも、精霊王ひとりでも、あれだけの化け物だ。


こちらの意向など、お構いなしだ。


今は、敵対する気もないだろう。


だがもし、リリアンヌに何かあれば。



その戦力は、間違いなくこの国に牙を向く。



「…これからも、何も起こりません」

アランフォースが、珍しく言葉を続けた。



「リリアンヌ殿下は、これからも王都にいらっしゃいます」



「…なぜ言い切れる」



「デューゼの森へは行かないと、私に話しました」

わずかに語気が強まった。



「……」


言わせた、の間違いではないのか。



「それに…もう、大丈夫でしょう」

アランフォースが、ちらりと窓の外へ目を向けた。


その視線を追う。


窓の外には、ガーデラ川沿いに灯る篝火しか見えない。



「……」


リリアンヌの名を――広めすぎたか。


だが実際、精霊王もエルフも引きずり出したのは、あいつだ。



精霊王と繋がったエルフが、デューゼの森へ移る。


そして四百年ぶりに、人里へ姿を現す――


そう公にすれば、民は勝手にリリアンヌと結びつけるだろう。


毎回、こちらの予想を覆してくる。



タッセントの件もそうだ。


王都でリリアンヌの出陣を求める声が上がることは、ある程度予想していた。


戦に勝ち、タッセントを降伏させれば、その声も収まる。


そう踏んでいた。


それが、戦わずして無条件降伏させてみせた。



現実が、描いた筋書きを越えていく。


あれは異端児で――特別すぎる。



リリアンヌは、これからさらに多くの期待を背負っていくことになる。


そのたびに、あいつは自分の“枷”と向き合う羽目になる。


すでに、三度目だ。


このままでは、本当に取り返しのつかないことになる。



本当に…


リリアンヌの中で、デューゼの森へ行く選択はなくなったのか。



風の里から戻ったら、問いただすべきことも山ほどあった。


だが今は、それを確かめるよりも、あいつを精霊王のもとへ行かせないことが先だ。



あいつの望む“自由”を、そのまま王都で認めるわけにはいかない。


勝手に祀り上げられ、余計なものまで背負わされる。


そのたびに、デューゼの森へ逃げることを考えられては堪らない。



あいつが王都で生きていけるよう、ひとつずつ足場を固めるしかない。


リリアンヌの思う“自由”を、変えていく必要がある。



そうして――“ここ”は居心地がよいと思わせる。



あれは一応、王族としての心得は持っている。


王族であることは受け入れているくせに、その意味を分かっていない。


理解させれば、ある程度の制限は受け入れるだろう。


まず手始めに、婚約者決めだ。



意に沿わない結婚をさせて、感情を暴走させるわけにもいかない。


ブライアンを拒まれれば、こちらも手の打ちようがない。


あいつを、王都の外へ嫁がせるわけにはいかない。


あれに並び立てる男は、あと――



「…“二人目”が帰ってきたな」


長い沈黙の後、レックスはうんざりとした声で言った。


廊下が騒がしい。



「――が、部屋にいない!」


何か叫んでいる。



「何を騒いでんだ、あの馬鹿は」



「リリアンヌ殿下が部屋にいないことに気付き、騒いでいるようですね」

エドガーがすぐに答えた。



「あ?」


だいぶ前に、部屋に戻したはずだ。


あのブライアンが、部屋まで送らないはずがない。



「…ああ」


それで、アランフォースは窓の外を見たのか。


二人で、何か話しに行ったのか。



内容は分かりきっている。


俺が、婚約の話を切り出した。



「……」

レックスは、目の前で静かに佇む男へ視線を向けた。



確かに…俺が、こいつに牽制をした。


お前では、リリアンヌを幸せにできないと。



こいつにとって、リリアンヌが特別な存在なのは間違いない。


それが敬慕なのか、恋慕なのか。


そこまでは知らない。



だが、こいつが“その場所”を退くと言うのなら。


空いた場所を、他の誰かに譲るつもりはない。


精霊王にも、エルフにも。



そのためにも――


…手つかずだったあそこを、そろそろ調べるか。



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