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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十八章/風の里
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エルフたちとの話し合い②

リリアンヌ視点



「それから、再び各地を巡り、精霊を探すつもりだ」



「…!」


「エルデン…っ」


エルデンの言葉に、近くに座るエルフたちが身じろぎした。



「…失礼した。まだ、意見の分かれるところがある」

エルデンは、こちらを見たまま続けた。



「…エルフの方々が精霊を探してくださるなら、とても嬉しいです」

リリアンヌは、ぱちぱちと瞬きをして答えた。


てっきり、長が決めたことには、みんな従うものだと思っていた。



「まだ、多くの精霊たちがこの世にはいますから。探していただけるのなら、心強いです」



「口を挟んですまない」

近くに座るエルフのひとりが、声を上げた。



「はい」



「なぜ、精霊がまだ多くいると言い切れるのか」

こちらをじろりと見たエルフは、左目が潰れていた。



「なぜ…」


これから二年後には、“物語”で多くの精霊を見つけるから。


けれどそんなこと、今は言えない。



「…根拠のない言葉で、我々に期待を持たせることだけはやめていただきたい」



「いいえ、根拠のない言葉ではありません…!」

慌てて首を振った。



「スミ……この子は、異形の存在(ゼノプーパ)の傍にずっといました」


キリの肩で、足をぷらぷらとさせている精霊に目を向けた。



「この子は、何百年も瘴気に耐えてみせました。私たちが思うよりも、精霊は、もっとずっと強い」


たった一日も耐えられない私なんかより、遥かに。



「だから…きっと、まだこの世に生き残っている精霊もいるはずです」


精霊狩りから逃れ、どこかに隠れている精霊たちが。


ちからが弱まっても、懸命に生きている精霊たちが。



「少しでも可能性があるのなら、私は諦めたくありません」


このままでは、きっと消えてしまう。


そんな精霊たちを、オーリア様のもとに帰してあげたい。



「一緒に探して…精霊たちを、助けてあげませんか?」


いつだってちからを貸してくれる、純粋で優しい精霊たち。


そんな子たちを、ひとりでも多く救いたい。



「あれほど強い存在を助けて“あげる”とは、人族らしい考えだ」

別のエルフが、低い声で言った。



「フレイザ…!」



「キリ、待って」

身を乗り出したキリの腕を、きゅっと掴んだ。



「フレイザの言う通りです。言い方を間違えました」

フレイザの方へ、体を向け直す。



「私は、恩返しがしたい。今まで何度も、精霊たちに助けてもらってきたから」


肩にいるスノウにも、ナナたちにも。


もちろん、オーリア様にも。


何度も、命を繋ぎとめてもらった。



「フレイザたちだって、そうでしょう?」


彼はきっと、精霊がいた時代を知っている。


だから、精霊の強さも知っている。



「今まで助けてもらった分、今度は、私が力になりたい」


それがおこがましいと思われても。


独りよがりだと思われても。



「私は、それが共に生きるということだと思うんです」


助けてもらったら、今度は自分が力になりたい。


感謝の気持ちを、伝え合う。


そうやって、共に生きていくのだと思う。



「……」


誰からも、言葉が返ってこなかった。


エルフたちの誰もが、こちらをじっと見つめたままだった。



「…貴女に、もうひとつ頼みたいことがある」



「え…はい」


躊躇うような声に、きょとんとしてエルデンを見た。



「これは決して、脅しや強制ではない。あくまで、頼みだ」



「なんでしょうか…?」


どうしてそんなに、念を押すのだろう。



「ここにいる者たちに…白のちからを送ってくれないか」



「もちろんです」

リリアンヌは、すぐに頷いた。


次の瞬間、辺り一帯に白い光が広がった。



「きゃああっ」

キリの肩にのるスミレが、嬉しそうに笑った。



「…!」


「なんだ…?」


「火傷の痕が…」


エルフたちが、小さく声を上げる。



「…!目が」

先ほどのエルフが、自分の左目に触れた。


潰れていた目は、傷跡も消え、綺麗に開いていた。



「…?」

フレイザは、不思議そうに自分の頭に触れている。



「ここにいる方たちで、全員でしょうか?他に、まだいらっしゃいますか?」

リリアンヌは、何事もなかったかのようにエルデンへ尋ねた。



「……」

エルデンは眉を寄せたまま、こちらを見つめていた。



「何か、見返りを求めたりしません」

慌てて付け足した。


頼まれたことが嬉しくて、すぐに送ってしまった。



「ここに…百人近くがいる」

エルデンが、ようやく声を発した。



「それを、一気に送ったのか?」



「…はい」


そういえば、これだけの人数に送っても、まったく疲れなくなった。


八歳の頃は、この半分の人数でも、あんなに体力を削られたのに。


やっぱり、自分の器はちゃんと成長している。



「本当に…貴女には、頭が上がらない」



「オーリア様のために…どうか、デューゼの森へ行ってあげてください」


見返りは求めないと言ったけれど、


一日でも早く、オーリア様のもとへ行ってほしい。



「…貴女のおかげで、エルフにも久方ぶりに加護を持つ者が現れた」

少し間を置いて、エルデンが静かに続けた。



「キリ自身のおかげです」

リリアンヌは嬉しそうに答えた。



「加護を得た者は、他の者とは比べものにならないほどのちからを持つ」



「?…はい」


それは、エルデンたちもよく知っていることだろう。



「キリは今や、我らエルフの中で最も強い者となった」



「…!」

はっと、息を呑んだ。


里の長は――一番強い者がなる決まり。



「今日から、彼がエルフの長だ」

エルデンの目は、まっすぐキリに向いていた。



「…すごい!」

リリアンヌは、ぱっと振り向いた。



「すごいよ、キリ…!」

キリの手を取り、ぎゅっと握る。



仲直りどころか、エルデンに認められた。


一気に、キリとエルフたちの関係が変わった。



「……」

キリは、何か言いたそうに見つめ返していた。



「…話は、以上だ」


それより前に、エルデンが話を締めくくった。



「ええ、分かりました」

リリアンヌは返事をして、そっと立ち上がった。


繋いだままの手が、ぴんと伸びた。



「…キリ?」



「…私は、もう少し話すことがある」

キリがゆっくりと顔を上げた。



「君と話したいこともある。すまないが、待っていてくれないか」



「もちろん」

こくんと頷き、キリと手を離した。



「それから、出立は明日でもよいだろうか」

エルデンが、最後にひとつ付け加えた。



「ええと…」

ちらりと後ろを振り向いた。


アランフォースが、小さく頷いた。



「大丈夫です」


明日出発しても、約束の一週間以内にはガーデラ砦へ戻れる。



「出立まで、自由に過ごしてくれ。…特に何もないが」



「あっ…そうしたら、海へ行ってきてもいいですか?」

リリアンヌは、ぱんっと両手を合わせた。



「構わない。案内をつける」


エルデンは、特に理由を尋ねなかった。



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