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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十八章/風の里
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重なる説教

リリアンヌ視点



空を飛んでいた精霊たちが、リリアンヌの手のひらに舞い戻った。



「お帰り」



「きゃぁ~」

スミレが、何かをころんと手のひらに落とした。



「…?」



「きゃきゃっ」



「…あ、戻りたいのかな」


キリを指さしている。


スミレを、そっとキリの手に戻した。


何気なく、スミレの落としたものを懐にしまった。



スミレはキリの肩まで駆け登り、ちょこんと腰掛けた。


そこが定位置になったらしい。



「リリアンヌ殿」


立ち上がったところへ、エルデンがやってきた。



「今までの数々の非礼を詫びる。許してくれ」

そう言って、頭を下げた。


後ろのエルフたちも、それに倣った。



「……」


今は、簡単に答えてはいけない気がした。



「身勝手な願いだとは承知している」

エルデンは顔を上げると、改めて口を開いた。



「貴女と、話がしたい。風の里へ来てくれないか」



「…!」



「貴女たち全員を歓迎する」



「……」

リリアンヌは、ようやく後ろを振り返った。



「…彼は、最初から嘘だけはついていないんですよねぇ」

ネウロが首を傾げて呟いた。



「…まだ、話し合う必要はあると思うが」

ブライアンが、ちらりと隣に目を向けた。



「……」

アランフォースは、静かに目を伏せていた。



「…あの、アランフォース」



「…リリアンヌ殿下が、望む通りにされるべきです」



「!」



「一週間の期限までは、まだ時間があります」



「…はい」

アランフォースから目を離し、再び前を見た。



「全員を、歓迎してくださるのですよね?」



「全員だ。攻撃することは二度とない」

エルデンはきっぱりと答えた。



「では、行きます。お邪魔させてください」

リリアンヌは、小さく頷いた。



みんなで、風の里へと戻っていく。


行きはあんなに遠く感じられたのに、周りを眺めながら歩いているうちに、あっという間に着いてしまった。


それでも里に着く頃には、陽が傾いていた。



夕陽に照らされた大きな風車が、ゆっくりと回っている。


家々に灯りがともり、どこからか牛の鳴く声が聞こえていた。


風車に近づいたところで、エルデンが足を止めた。



「今日は、ゆっくり休んでくれないか」

言いながら、エルフたちの方を振り返った。



「フィン、セシラ」


呼ばれた二人のエルフが、すぐにエルデンへ並んだ。


ひとりは、女性だった。



「この二人が、泊まる場所まで案内する。明日、改めて話をしよう。それまでは、ゆっくり休んでくれ」



「ありがとうございます」


礼を言い、二人のエルフの後を追った。



フィンとセシラは、ゆるやかな丘を上がっていった。


その先に、横長の木造りの家がぽつんとあった。


煙突が屋根から伸び、窓からは暖かな灯りが漏れている。



中に入ると、すぐに広い食堂のような場所に出た。


中央には大きな木のテーブルが置かれ、壁際には暖炉もある。


フィンがブライアンたちに声を掛け、食堂の奥にある扉を開けた。



「こっちが寝室だ。廊下の突き当たりには浴室がある」

廊下を指して説明していく。



「貴女は、こっち」

セシラが、二階へ続く階段を上がっていった。


キリとビッケと一緒に、その後に続いた。



「キリは、どこに泊まるの?」

隣を歩くキリに、何気なく尋ねた。



「ここを使う」



「そうなの?キリの家は?」


もしかして、ここはキリの家だろうか。



「…もう、ない」



「……」

ぎゅっと眉を寄せ、キリを見上げた。



「…ちゃんと、エルデンと話し合ってね?」


まだ、二人は何も話していない。


もう斬り合うようなことはないだろうけれど、仲直りもしていないように見えた。



「分かっている。このあと向かう予定だ」

キリは前を見たまま答えた。



「あれだけでは、君に償ったとは言い難い」



「えっ、そうじゃなくて」



「貴女は、この部屋を使って」


前から聞こえた声に、はっと顔を上げた。


セシラが、丸い窓のついた扉を開けるところだった。



屋根裏のような部屋だ。


斜めに伸びる太い木の梁が、天井を支えている。


低いベッドが置かれ、その奥にはなぜか女性ものの服が掛けられていた。


どこか温かみのある部屋に、ほっと肩の力が抜けた。



「この部屋にあるものは、自由に使って構わない。一階とは別に、ここにも風呂がある」



「この服も使っていいの?」



「構わない」



「…お風呂まで?」



「もちろん」



「ありがとう、セシラ」



「!」

セシラが、ぱっとこちらを見た。



「あ…ごめんなさい」


急に呼んで、驚かせてしまったかもしれない。


でも、せっかく知った名前だ。



「セシラ、案内ありがとうございました」



「…あとで、一階の食堂に夕食を運ぶ」



「分かりました」



「一度、失礼する」


すぐに部屋から出ていった。


扉が閉まるまで、その背中を見送った。



「格好良い人だね」


背が高くて、凛々しい。


まるで女戦士みたいだ。



「明日、そこに掛かってる服を着るなら、あとでお前の服洗っとくよ」

ビッケは壁際の服にちらりと目を向け、荷解きを始めた。



「うん、ありがとう」



「私はこれからエルデンのところへ行ってくる」

キリがこちらへ向き直った。



「…キリ」

リリアンヌは、すぐに傍へ寄った。



「エルデンは確かに、みんなにひどいことを――」



「今まで私は、君の好きなようにすればいいと言い続けてきた」



「…え?」

きょとんと目を瞬いた。



「君の意思を尊重し、私はただ君についていくだけだ。そう言ってきた」



「…うん」



「だが、君の味方だからこそ、反対しなければならないこともある。ようやく、それに気付いた」

キリは、まっすぐリリアンヌを見下ろした。



「君が私を追いかけてきたことに、私は納得していない」



「っ…」

胸が、きゅっと締めつけられた。



「ごめんなさい…」


キリを――怒らせてしまった。



「…だけど、あんな形でキリと別れるなんて、絶対に嫌だったから」



「私なら、王都へ戻る方法はいくらでもあった」



「…でも」


そうしたら、キリもスミレも。



「きゃああ」

ふいにスミレが声を上げた。



「!」


何かを訴えるように、光を膨らませている。



「…彼女を責めているわけではない」

キリが肩に目を向け、静かにスミレに答えた。


再びこちらに目を向ける。



「リリアンヌ。君は、私にすべてを与えてくれた」



「……」

どう答えればいいのか分からず、ただキリを見つめ返した。



「だからこそ、私なりのけじめをつけなければならない」



「…けじめ?」

そっと首を傾げた。



「まずはエルデンと話す」

キリが振り返り、窓辺へ向かっていった。



「今日は、ゆっくり休め。もう、危険はない」

それだけ言うと、ふわりと窓から出ていった。



「……」



「…ご飯の前に、風呂でも入る?」

ビッケが、そっと提案した。



「…先に、みんなと話をしなきゃ」

リリアンヌは、ゆっくりと扉へ歩き出した。


ビッケと一緒に階段を下り、一階の食堂へ入る。


話をしていたアランフォースとブライアンが、すぐに振り向いた。


遅れて、テーブルの前にいたネウロもこちらに向き直った。



「キリ殿は出かけたのか?」



「…はい。エルデンと話をしにいきました」

リリアンヌはブライアンに答えながら、姿勢を正した。



「みんな、本当にごめんなさい」

その場で、深く頭を下げた。



「……」


誰も何も言わない。



「オーリア様の言う通り…一歩間違えれば、取り返しのつかないことになっていました。…向かう前にも、アランフォースに言われたのに」

頭を上げても、みんなの顔を見ることができなかった。



「あの異形の存在(ゼノプーパ)だって、自分で消しますなんて言っておいて…結局、ひとりじゃ倒せなかった」


――情けない。


ひとりで突っ走って、みんなを巻き込んで。


自分自身が異形の存在になりかけて。


それなのに、洞窟を出た時には、解決したなんて思い込んでいて。


オーリア様に言われるまで、みんながどれほど怒っていたかも気付けなかった。



本当に――情けない。



「……」

少しの沈黙のあと、ブライアンが静かに口を開いた。



「…君は、私たちが何に怒っているか分かるか?」



「…もちろんです。あんな閉じ込められ方をして――」



「そこからまず、違う」



「…え」

ゆっくりと顔を上げた。



「ここへ向かう前にも、言ったはずだ。私たちは、自分の命を懸けて君についていくことを選んだ。それに私たちは、君に護られるためにここへ来たわけではない」

ブライアンは、静かな口調で続けた。



「だが、あの洞窟へ入る前に、君には言うべきことがあっただろう」



「……」



「確かに、舟では無理だったかもしれない。砦でも、話しづらかったかもしれないな。…だから、もっと前だ」

その目が、こちらを捉えた。



「リリアンヌ。君は、いつまで隠しているつもりだ?」



「……」


何も――言えない。



スミレの存在を明らかにしたことで、こうなることは覚悟していた。


そのはずなのに。


今は、何も思い浮かばない。



「…エルフたちが戻ってきました」

アランフォースが、入り口の方を見ながら告げた。



「…食事を運んできてくださったのでしょうね」

ネウロがそっと付け足した。



「あ…私、あとで食べます」

気付いたら、口に出していた。


みんなの視線が、再びこちらへ集まる。



「…先に、お風呂に入ってきたいので」

誤魔化すように、小さく笑った。



「…ごめんなさい」


誰とも目を合わせられないまま、階段を上がった。



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