必死の説得②
リリアンヌ視点
「で、誰を連れて行く気だ」
レックスが唐突に切り出した。
「えっ」
「エルフは、確かにお前を傷つけないと言った。だが、他の奴らについては触れていなかった」
「……」
さっと、血の気が引いた。
「父上…!なぜ今、そんなことを言うのです」
ブライアンが眉を寄せた。
「大事なことだろ。タッセントへ乗り込むより危険だ」
「それは、ここにいる全員が分かっています」
「特にお前のことだ。ブライアン」
「…!」
「こいつは、もともと王族を護る騎士だ。あとの二人も、ついていくなら自分の責任だ」
レックスが、アランフォースを指し、続いてビッケとネウロへ目を向けた。
「だが、お前は違う。お前は、王太子だ」
「…護衛としての許可を出したのは、父上でしょう」
「旅の護衛をするのとは訳が違う。相手はあのエルフだ。話の通じないキリが、何十人もいると思え」
「……」
「それでもお前は、ついていくと言うのか」
「当たり前でしょう…!」
ブライアンは即答した。
「自分で選んだことです。とっくに命を懸ける覚悟はできています…!」
「……」
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
「…だ、そうだ」
レックスは、ゆっくりとリリアンヌに目を向けた。
「お前は、それでもこいつらを連れて行くのか」
「……」
タッセントへ行く時も、私は、当たり前のようにみんなを頼った。
今回も、みんながついてきてくれると思っていた。
いつでも、危険と隣り合わせなのに。
「…リリアンヌ。分かっているな?」
ブライアンが、静かに念を押した。
「はい。分かっています」
リリアンヌは、まっすぐレックスを見上げた。
「私が、絶対に死なせたりしません」
「……」
誰も、すぐには言葉を返さなかった。
「…一週間だ」
やがて、レックスが口を開いた。
「一週間以内に、帰ってこい」
「…!?ここから風の里へ行くだけでも、数日はかかります…!」
「お前が里の場所をなぜ知っているのか、戻ってきたら必ず説明しろ」
「…っ」
しまった。
「お前は、ついていくとは言わないのか」
レックスはそのまま、サイラスに目を向けた。
「私はリリィが無事に帰ってくれば、それで満足です。妹が行きたいと言うなら、私は邪魔しません」
サイラスはすぐに答えた。
「エルフは、リリィだけはここへ送り届けると約束している。あとは、どうでもいい」
「…明朝、予定通りロドロスト領に行け。お前も、一週間以内に戻ってこい」
「…!」
「一週間後に、全員で王都へ戻る。分かったか」
レックスは、全員を鋭く見回した。
「…分かりました」
リリアンヌは小さく頷いた。
「その前に、お前は説得が待っている」
「分かっています」
「他の奴らは、さっさと準備をしてこい」
「…すぐに戻ります」
「行ってくる」
アランフォースとブライアンが階段を上がっていった。
二人とも、私服のままだった。
「僕も、着替えなきゃですねぇ」
「リリアンヌ。最低限のものしか詰めてこないからな」
ネウロとビッケも、すぐにそのあとを追った。
その場に、王族三人とエドガーだけが残る。
「お前は、二度とエルフに近づくな」
レックスが、サイラスに目を据えた。
「今のうちに、リリアンヌへ挨拶しておけ」
「!妹を見送るなと言うことですか」
「剣を抜いたことを、部屋で反省していろ」
「あのエルフが、リリィに近づこうとしたからでしょう…!」
「それでもだ。“一人目”ですら我慢した」
「あいつと一緒にしないでください!」
「……」
どうやら一人目は、私のことではなかったらしい。
「それが別れの挨拶でいいのか」
「…リリィ。本当に、気をつけて行ってこい」
サイラスはすぐにリリアンヌへ向き直った。
「お兄様…巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
「なぜそんなことを言う。あいつらは良くて、私は駄目なのか?」
「…お兄様が、無茶をするから。もう、お兄様ひとりの命ではありません」
「分かっている。だが、それはお前もだ」
リリアンヌの両手を握り、額をこつんと合わせた。
「一緒に王都へ帰るぞ。そのあとは、シリウスにも会いに来い」
「もちろんです」
至近距離で、小さく笑い合った。
「…重症だな」
「何か言いましたか」
「挨拶が済んだら、部屋へ行け」
レックスが、追い払うようにサイラスへ手を振った。
「また、お前の冒険話を聞かせてくれ」
サイラスは、リリアンヌを膝の上からそっと下ろした。
「愛している」
「私もです、お兄様」
最後に額にキスをして、その場から去っていった。
「…毎回あんなことしているのか」
「…家族の挨拶とは、こういうものではないのでしょうか?」
「あれを基準にするな」
レックスはわずかに顔をしかめ、座ったままリリアンヌを見上げた。
「お前には、まだ話がある」
「…は、はい」
さっと姿勢を正した。
「俺が、お前を行かせることを許す理由は分かるか」
「…え?」
「あの四人がついていくなら、お前を護りきれると判断したからだ」
「……」
きゅっと、唇を結んだ。
「アランフォースとブライアンなら、さっきのようにエルフどもに囲まれようが、そう簡単には負けない。ネウロの目があれば、エルフの動きも事前に察知できるだろう」
レックスは構わずに続けた。
「ビッケがいれば、大鷹でここまで帰ってこられるな。一週間で戻れそうになければ、大鷹を使え」
「…そんなことしたら、きっとエルフたちがここまで追いかけてきます」
キリだって、どうなるか分からない。
「エルフがここまでお前たちを追いかけてきたら、俺たちは迎え撃つ」
「…!?」
「そうなれば、もう無血では済まない」
レックスは淡々と告げた。
「あの四人を絶対に死なせないと言うのなら、エルフの長に全員の無事を保証させろ。交渉を誤れば、ここで戦になることも覚えておけ」
「…それは、もちろんです」
「いいか。お前ひとりの問題じゃねぇ。何人もの命が懸かっていることを忘れるな」
一言ずつ、胸の奥に重く響いてくる。
「その覚悟で行け」




