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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十八章/風の里
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懐かしの掛け合い

リリアンヌ視点



「タッセントは、どうだった?誰かに何かされていないか?」



「あの…お兄様」



「タッセントの民を救い、戦争を止めたと聞いた。本当にお前は、自慢の妹だ」



「お兄様…っ」



「仕事なら、部下に任せてきた。今夜は、お前とゆっくり話せる」



「お兄様!下ろしてください…!」



「どうしてだ?妹を抱き上げることの何が悪い?」

サイラスは、笑顔で妹を見上げた。



「ここは、エラドリオール邸ではありません…!みんなが見ています」

リリアンヌは、真っ赤になって返した。



舟から降りた途端、目の前に兄が現れた。


あっという間にいつものように抱き上げられ、そのまま砦へ向かって歩き出してしまった。


もう夜だというのに、辺りはランタンや篝火で明るい。


これでは、嫌でも目立ってしまう。


周りの兵たちも、ぽかんとしてこちらを見ている。



「それはお前を見ているだけだ。気にするな」



「もう…お兄様っ…」


肩や背中を叩いても、びくともしない。



「…っ」

誰か助けてくれないかと、辺りを見渡した。



ビッケが、そっと首を振った。


アランフォースとは、目が合わない。


ネウロは、我関せずとばかりに砦の方を眺めている。


キリは、とっくに姿を消していた。



「サイラス。リリアンヌを下ろせ」



「あ?」

サイラスは足を止め、横に並んだ人物をぎろりと睨みつけた。



「なぜ、お前に命令されなくてはいけない」



「お前は、父上から仕事を任されていたはずだろう。なぜガーデラ砦にいる」

ブライアンが、呆れたように目を細めた。



「部下に任せたと言っただろ。お前の耳は飾りか?」



「そういった振る舞いが、王族の品格を落としていることが分からないのか」



「…本当に言うようになったな」



「誰かのおかげだな」



「……」

リリアンヌは口を挟めないまま、二人を見比べた。


小さい頃もよく言い合っていたけれど、こんなに不穏な空気が流れていただろうか。



「…胸糞の悪い噂を聞いたんだが」

サイラスの声が、一段低くなった。



「それは噂ではない」



「俺は何も知らない。許可なく、勝手な嘘を流すな」



「なぜ、お前の許可がいる」

ブライアンが薄く笑った。



「いるに決まってんだろ。俺は、リリアンヌの兄だ」



「えっ、私のこと?」



「……」

二人が同時に、呆れたような目を向けてきた。



「“二人目”、リリアンヌを下ろせ」



「!」

三人揃って、声の方を振り返った。



「他領で、これ以上王族の恥を晒すな」

レックスが、エドガーを伴ってこちらへ歩いてくる。



「伯父上!その不名誉な呼び名を、今すぐやめてください」



「やめてほしいなら下ろせ」

そのまま三人を通り越し、砦へ続く階段を上がっていった。



「お前は、明朝ロドロスト領へ行け」



「!?なぜです、伯父上」

サイラスはリリアンヌを下ろすと、レックスを追いかけた。



「今回の遠征では、あそこから多くの物資を受けた。王族として直接礼を伝えてこい」



「そんなの…息子にでも行かせればいいでしょう!その方が、ロドロストの者も喜ぶ」



「駄目だ。ブライアンには別の役目がある」



「リリアンヌ。行こう」

ブライアンがそっと背を押した。



「あっ…はい」

促されるまま、階段を進んでいった。



「大丈夫か?」



「お兄様は…あんなふうに、みんなと話すのですね」


“俺”なんて言うの、初めて聞いた。


仕事の話をしている兄を見るのも、初めてかもしれない。


…ずっと前に、貧民区で偶然出会ったのを入れなければだけれど。



「…まあ、いつも通りだな」

ブライアンが、ちらりと前を見て答えた。



「二人目って呼び名は、一体…」


一人目も、いるのだろうか。


まさか…私のこと?



「そういうことだ、リリィ!」

前を行くサイラスが、くるりと振り返った。



「え?どういうこと?」



「お前は、これから私と夕食だ」

サイラスは階段を駆け下りると、二人の間へ強引に割り込んだ。


ブライアンが押されるように一段下がる。


振り返ろうとした途端、サイラスに肩を抱かれ、ぐいっと前を向かされた。



「お前の馬と荷物を、ホウレンベルク領から運んできている」



「えっ…」



「なぜ、あんな奴に頼ったりした」



「あんな奴?ブルックのことですか?」



「あれは、お前を傷つけた奴だ」



「まさか…ブルックに、何かしていませんよね?」


ブルックは、アランフォースたちに捕まえられたと聞いていたけれど。



「何もしていない」

サイラスは、やけにあっさりと答えた。



「…本当ですか?」



「心配するな」



「……」


帰りにホウレンベルク領へ寄って、ちゃんと謝ろう。


それに、褒美のことも聞かなければ。



「あいつから、伝言を受けている」



「!なんでしょうか」


褒美の話だろうか。



「二度と自分に関わらないでくれ」



「へ?」



「それが、褒美として欲しいそうだ」



「……」



「弁えているな」



「……」


ブルックは…相当、私のことが嫌いらしい。


本当に、申し訳ないことをしてしまった。



長い階段を上がりきると、目の前に砦の大きな門が現れた。


その前には、大勢の兵たちが整列し、敬礼している。



「奴の話はどうでもいい。お前の話だ」

サイラスは、足を止めることなく門をくぐった。



「私の話ですか…?」



「鷹に乗って空を飛ぶなんてな。次は、竜にでも乗ってみせるか」



「竜って…」

つい、くすっと笑った。


さすがに、空想上の生き物には乗れない。



「今夜は、たっぷりお前の話を聞くからな」

サイラスは、嬉しそうに目を細めた。



「…はい」

リリアンヌは、曖昧に微笑んだ。



できれば、早く部屋に戻ってキリと話したかったのだけれど。


そんなこと、言えるはずもない。


兄には、すでにたくさん心配をかけてしまっている。


部屋で二人になることすら、反対されてしまいそうだ。


…キリに、待ってもらうしかない。



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