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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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最後の時間②

リリアンヌ視点



食事を終えると、ショウレンは扉の前まで見送ってくれた。



「最高の時間だった。今夜はありがとう」



「こちらこそ、素敵な時間をありがとうございました」

リリアンヌは膝を曲げ、丁寧にお辞儀した。



「ショウレン陛下…もう、私たちは友人ですね?」



「ふっ…文通するほどの仲だからな」



「今度こそ…助けが欲しい時は、すぐに言ってくれますね?」

念を押すように尋ねる。



「友として、誓おう。貴女が困っている時は、すぐに駆けつけると」

間髪入れずに答えが返ってきた。



「…私は、ショウレン陛下が困っている時の話をしたはずですが」



「分かっている」

ショウレンが、力強く頷いた。



「もう、駆け引きをしないという話だろう?」



「はい。もう、駆け引きはなしです」

リリアンヌは、にっこりと笑った。



ショウレンに見送られ、部屋をあとにした。


ゆっくりと廊下を歩いていく。


この城で過ごすようになって、もう一か月以上が経った。


今では案内がいなくても、借りている部屋まで迷わず戻れる。



「…棟への道は、そちらではありません」



「……」


後ろから声を掛けられ、階段の途中で足を止めた。



「…少しだけ」

リリアンヌは、上目遣いに振り返った。



「少しだけ、付き合ってください」



「……」



「酔いが醒めたら、戻るから」


返事を待たず、再び階段を上がっていく。



「…酔っている自覚はあるのですね」

アランフォースは小さく呟き、そのあとを追った。



階段を上がりきると、見晴らし台のある広間に出た。



「わっ…」

リリアンヌは小さく声を漏らし、欄干の方へ歩いていった。



整然と並ぶ街並みに、無数の提灯が灯っている。


その灯りが赤い屋根を淡く照らし、夜の町を幻想的に浮かび上がらせていた。



「……」

欄干に手をつき、そのまましばらく夜景を眺めていた。



王都を抜け出し、やってきた首都コウラン――


ここで過ごした日々は、長かったようで、あっという間だった。



心残りがないと言えば、嘘になる。


病で亡くなった人たちのことを思えば、すべてを良い思い出にはできない。



それでも、ここへ来て、本当に良かった。


何も知らなかった隣国のことを、たくさん知った。


加護の、真のちからを知った。


…“枷”の危険も、知った。



何より――ここにも、大切な人たちができた。


一緒に、かけがえのない時間を過ごしてきた。



あと、ひとつ。


ここで、やり残したことがある。


どうやって切り出そうか――



ふいに強い風が吹き、羽織りが肩を離れて、ふわりと宙へ舞った。



「!」

咄嗟に手を伸ばす。


羽織りを掴んだ手に、指先が重なった。



「…失礼しました」

アランフォースは、すぐに手を引いた。


リリアンヌは羽織りを肩に掛け直し、ゆっくり振り返った。



「…もう、大丈夫だから」

欄干に背を預け、アランフォースを見上げる。



「アランフォース。私はもう、大丈夫だから」



「…何の話でしょうか」

間を置いて、アランフォースが尋ねた。



「……」

羽織りを胸元で握り、ぽつりと口を開いた。



「…私は、アランフォースに頼りすぎていました」



「……」



「頼りっぱなしで…縋っていた」



『ずっと、一緒にいてください』


そんなこと…あり得ないのに。



「私は、勘違いしていた」


本当に…馬鹿だった。



私に向けてくれる優しさに、


笑顔に、


ずっと、甘えていた。



アランフォースは、ものではない。


どうして縛りつけようなんて、思ったのだろう。



「もう…勘違いしたりなんて、しないから」


ずっと、言いたかった。



アランフォースはきっと、私の気持ちに気付いていた。


だから、遠ざけようとした。


私に嫌われようとしていた。



そんなことをしても――嫌いになるはずなんてないのに。



「だから…」


改めて、もう一度。



「だから、仲間として、これからもよろしくお願いします」



「……」


返事は、なかった。


ただ、そっと夜風が通り過ぎていく。



「あの…ね」

リリアンヌは、静かに目を伏せた。



「私は…もう、とても幸せだから」



「そういう意味で言ったのではありません」



「…え?」


顔を上げると、アランフォースはまっすぐこちらを見ていた。



「今の話ではありません。これからの、あなたの話です」



「……」



「これからも、お支えしますから……仲間として」



「……」



「ご自身の未来に、目を向けてください」



「…手伝ってくれると、嬉しいな」

目を細め、精いっぱい微笑んだ。



これからの、自分のこと。



セスランディアに戻れば、成人前のように、きっと自由には動けない。


王族としての自分に、真剣に向き合わなきゃいけない。


いつまでも誤魔化していては駄目だ。



だから…せめて、あとひとつだけ。


どうしても、行っておきたい場所がある。



そのあとは、もう目を逸らさないから。



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