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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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最後の時間①

リリアンヌ視点



「これが、フォウファのお酒…!」

ひと口含んだ途端、顔が綻んだ。



「甘くて、とても美味しいです」


どこか懐かしい味に、泣きそうになった。



「気に入ってくれて、何よりだ」

ショウレンが、ふっと笑った。



「土産に持って帰るといい」



「ありがとうございます…!」


いいお土産ができた。



「…貴女は本来、よく笑うのだな」



「そう…ですね?」


そんなに、笑ってしまっていただろうか。



「それを私は悲しませ、怒らせた」

ショウレンは、苦い表情を浮かべた。



「本当に…貴女には申し訳ないことをした」



「ショウレン陛下…」

リリアンヌは、困ったように眉を下げた。



「せっかくの会食です。楽しい話をしませんか?」



「そうだな。ようやく叶った、貴女と二人きりの時間だ」

ショウレンはさらりと言うと、手元の料理へ視線を戻した。



「それは、大袈裟ですけれど…」


それに、後ろにはそれぞれの護衛が立っている。



「明日…もう帰ってしまうのか」



「そうですね…。ハラ大臣も、ずっと大忙しです」

思わず、苦笑いが漏れた。


またハラは、ナブラン砦まで自分たちに付き添ってくれる。


ほとんど、コウランに滞在していない。



「彼もまた、貴女と話したがっていた。相手をしてやってくれないか」



「私の方こそ。ハラ大臣とは、またお話ししたいことがたくさんあります」



「息子たちのことも…本当に感謝している」



「フワドとセイオウは、素晴らしい白の使い手です」


自分のちからに真摯に向き合い、民たちのために使うことを躊躇わない。


どちらも、心優しい王子たちだ。



オウワンは結局…母方の親族が治める領へ去ってしまったらしい。


ユンファ王妃は、娘のルオラを置いていった。


ルオラは今、クリョ王妃の屋敷で暮らしていると聞いた。


残念だけれど――こればかりは、仕方がない。



「気に入ったなら、どちらか連れ帰ってもいい」



「…へ?」

きょとんとして、顔を上げた。


フワドとセイオウの話だろうか。



「どちらか、婿として持って帰るか?」

ショウレンが、にやりとして言った。



「…あ」


これは、冗談だ。



「…いいえ。私には、素敵な婚約者がいますから」

リリアンヌは、にこっと笑って返した。



「婚約者?保護者ではなく?」



「…婚約者です」



「もう、嘘は要らないだろう」



「なぜ、嘘をつく必要があるのです?」



「それは貴女がよく分かっているだろう」



「…駆け引きは、もういいですから」

誤魔化すように、フォウファの酒が入ったグラスを口につけた。


このままいくと、ショウレンの調子に呑まれてしまいそうだ。



「王子たちのどちらも、この国に必要な方たちです」


王子としても、白の使い手としても。


タッセントに必要な存在だ。



「そうだな。次代を担う大切な者たちだ」

ショウレンが、穏やかに頷いた。


出会った頃のやつれた様子は、もうほとんどない。


白髪はそのままだけれど、頬にも張りが戻り、本来の整った顔立ちがよく分かる。



「それから、貴女もだ」



「…私ですか?」



「貴女は、世界を変える力を持っている」

ショウレンが、まっすぐな目を向けた。



「…私は、そんな力を持っていません」

リリアンヌは、静かに首を振った。



「タッセントを救ったんだ。自信を持て」



「私は…ただ、目の前のことに必死なだけ」

そっと、目を逸らした。



「ここまで来るのだって、ひとりでは絶対に無理でした」


みんながいたから、こんなふうに収まった。



「それもまた、貴女の力だろう」



「…ちからの話ですか?」



「違う。貴女の魅力の話だ」



「魅力…!?」

声が裏返ってしまった。



「人を惹きつける力もまた、上に立つ者として必要な力だ」

ショウレンは淡々と続けた。



「上に立つ者…」


クリョと、同じ言葉。



「そうだろう?本当にブライアン王太子と結婚する気なら、貴女は将来王妃となる」



「そう…ですね」


王妃――


ずしりと、胸が重くなった。



「貴女に足りないのは、未来図を描く力だ」

ショウレンは、さらに言葉を重ねた。



「自分の将来像が、ぼやけ過ぎている。自分のことに興味がなさすぎる」



「……」


その言葉は…ぐさりと刺さる。


でも…自ら毒を飲んだ人に言われるのは、なんだか複雑だ。



「貴女は、次代に必要な人だ」

ショウレンが、静かにグラスを傾けた。



「当代を生きる者として、ひとつ助言しよう」

グラスを置き、まっすぐこちらを見据える。



「生を、諦めるな」



「…諦めてなんて、いません」

リリアンヌはグラスを手に取り、酒を一気に飲み干した。



「命を粗末にするなと言ったのは、貴女だろう?」



「だから、諦めていません」

空になったグラスを、タンッと置く。



「今を生きるのに、精いっぱいなだけです」



「…そうだな。貴女はいつでも忙しそうだ」

ショウレンの口元が、わずかに緩んだ。



「今も大切だが、これからのことも考えてくれ」



「…分かっています」


どうして、説教を受けているのだろう。



「せっかく同盟国となったのだからな。この国がどうなっていくかも、気にかけてくれないか」



「それは、もちろんです」


レックスの決断は、驚くほど穏やかなものだった。


私の作戦が活きたのかは、分からない。


もともと、そうするつもりだったのかもしれない。



それでも――


セスランディアとタッセントは、同盟国となった。


百年、互いに争わないことを誓い合った。


そして、どちらかが他国から攻められた時には、共に戦う。


長く争ってきた二つの大国が、手を結んだ。



歴史が、変わる。



「…ショウレン陛下。私と、文通をしませんか?」

ふと、思いついた。



「…文通?」



「お手紙のやり取りです」



「言葉の意味は分かるが…文通で、何をする?」



「なんでもいいのです。お手紙なのだから」

くすっと笑って答えた。



「ショウレン陛下の、日常を教えてください」



「貴女と文通か…セイオウたちが羨ましがりそうだ」



「それなら、フワドとセイオウにもお手紙を書きます」

リリアンヌはすぐに声を弾ませた。



「クリョ様にも書いたら、返してくれるかな」



「すぐに返事を書くだろうな」


今度は、ショウレンも声を立てて笑った。



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