↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
512/526

最後の抵抗②

ショウレン視点



「…残念だな。今日も、リリアンヌ殿に会わせてくれないのか」



「すまないな。これ以上、俺の可愛い姪がタッセントの人間に振り回されないか、心配でな」

レックスはふっと笑い、グラスを傾けた。



「ブライアン王太子と言い、実にリリアンヌ殿は愛されているな」

ショウレンは表情を変えず、淡々と返した。



「私の息子たちが、リリアンヌ殿と会えなくて寂しがっている」


その言葉を受けて、フワドとセイオウが緊張した面持ちのまま頭を下げた。



「王子は三人いると聞いたが。ひとり足りないようだな」



「…父上。話したでしょう。第一王子は、二度と我々の前には現れないと」

レックスの隣に座るブライアンが、眉をしかめて口を挟んだ。



「ああ、そうだった。俺の姪に夜這いを仕掛けたんだったな」



「父上…!」



「……」

フワドとセイオウが、気まずそうに身じろぎした。



「リリアンヌ殿には、大変悪いことをした」

ショウレンは静かに言った。



「もう一度、直接謝りたいものだ」



「そうだな。貴殿の最後の晩餐には、会わせてやろう」

レックスが目もくれずに返した。



その間にも、タッセントの魚料理が、次々と五人の前に置かれていく。


ショウレンは、何事もなかったかのように料理へ手をつけた。



…この挑発に、乗るつもりはない。


リリアンヌと、もう一度会うことを望んでいるわけでもない。


レックスは、ただ自分を怒らせたいだけなのだろう。


そうして、こちらが一線を越えるのを待っている。


堂々と、この首を刎ねられるように。



確かに…これは、くだらないな。


リリアンヌの言う通りだ。



レックスはコウランに来てから、会議にすら参加していない。


何度かこうして、ただ食卓を囲むだけだ。


いつ処刑されるのかも告げられないまま。


ただ、命を弄ばれている。



「フワドとセイオウと言ったか」

ふいにレックスが切り出した。



「はい、そうです」


「セイオウと申しますっ」


二人が同時に返事をした。



「この国は、好きか?」



「僕たちは、まだコウランの町しか知りません」

セイオウが、たどたどしく答えた。



「ですが、僕は、この町が好きです」



「私もです。笑顔の民たちを見ると、こちらまで元気になります」

フワドも続けた。



「…そうか」

それだけ言って、レックスは魚料理にナイフを入れた。



「リリアンヌが、二人のことを褒めていた」

ブライアンが、そっと話を拾った。



「彼女の教え方は、独特だろう?」



「そう…ですね」


「…少なくとも、前に教えてくださった方とは大きく異なります」


二人が戸惑ったように答えた。



息子たちは、どちらも白のちからを持っている。


ただ、そのちからは決して強くない。


痛みを和らげることはできても、病や怪我を治すまでには至らなかった。



「でも、師匠…リリアンヌ様のおかげで、ちからが強くなった気がします」

セイオウが嬉しそうに続けた。



「私たちは、毎日二人で白のちからを送り合っているのです。使うほど、ちからは鍛えられるとリリアンヌ様がおっしゃっていましたから」

フワドが言い添えた。



「精霊の申し子から直々に教わるとは、お前たちは幸運だったな」

レックスが、静かにフォークを置いた。


かちゃりと、小さな音がやけに響いた。



「だが、二度とないと思え」


その言葉に、息子たちがぴたりと黙り込んだ。



「父上…リリアンヌは、自ら進んで二人にちからの使い方を教えたのです」



「分かっている。だから、今までの件は許すと言っている」

レックスはグラスを手に取り、残っていたワインを飲み干した。


すぐさま給仕が歩み寄り、空になったグラスへワインを注いだ。



「敗れた国の王子に教える意味など、ないというのにな」



「……」

ブライアンが、ちらりとショウレンへ視線を向けた。



…分かっている。


さすがのレックスも、白のちからを持つ息子二人まで殺すつもりはないのだろう。


狙いは、俺だ。


タッセントが失われていく様を見せつけ、絶望させた末に、俺を処刑する。



…だが。


やられっ放しで終わるのは、性に合わない。



「…レックス王。ひとつ、お伝えしたいことがあってな」

ショウレンは、ゆっくりと立ち上がった。



この息子二人は、ムーラオが何としてでも逃がす。


オウワンは――可哀想だが、あれは助けてやれない。



「…あ?」

レックスはグラスへ伸ばしかけた手を止め、ショウレンを見上げた。



「…?」


「父上…?」


フワドとセイオウが、不思議そうに父親を見上げた。



「……」


この二人には、凄惨な光景を見せることになる。


だが――敗れた国の王子である以上、いつかは目を背けずに見なければならないことだ。



「私もひとつ、“ちから”を持っている」


まったくの嘘だ。



どうせ、処刑は免れない。


この男に命を弄ばれ続けるくらいなら――


自分で、決着をつける。



「…だから、なんだ」

レックスが眉をしかめた。


答える代わりに、目の前のグラスを奪い取る。



「!」

護衛が即座に動き、レックスを庇うように割り込んだ。



「お前の命を、助けてやることができる」

ショウレンは、護衛の向こうにいるレックスを見据えた。



「…!やめろ、ショウレン陛下!」

ブライアンが椅子を鳴らして立ち上がった。



構わず、奪ったグラスのワインを一気に飲み干す――


次の瞬間、喉の奥から生温いものが込み上がった。



「……ごふっ」


口元から、赤黒い血が溢れ出た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。