最後の抵抗①
リリアンヌ視点
「セスランディアでは、見たこともない花だな」
「……」
「フォウファ、というのか。セスランディアに持ち帰るか」
「……」
「おい。国王にひとりで話をさせるな」
レックスが、睨みながら振り返った。
リリアンヌは慌てて駆け寄り、レックスの隣に並んだ。
「伯父上。お願いですから、私にも仕事をさせてください」
「お前は戦争を止めた。仕事は終わりだ」
そう言って、ふいっと視線を逸らした。
そのまま、フォウファが咲き誇る樹々の間を進んでいく。
すぐにそのあとを追いかける。
「コウランの町は、まだ復興しきっていません」
「だから、ブライアンが兵を派遣しているだろ」
「炊き出しの手伝いに、行きたいです」
「必要ねぇ」
「ではせめて、王子たちと話をさせてください」
セスランディア王国軍がコウランへ来て――もう、三週間が経った。
毎日、本当にレックスと一緒に過ごしているだけだ。
私が王都を脱走してから何をしてきたか、自供させられているだけだった。
他のみんなは、ずっと忙しそうにしているのに。
ブライアンやルイージとは、まったく会えていない。
こんなことをしている場合じゃないのに。
本当に――もう、時間がない。
「お前がタッセントの王族と関わることは、もうない」
「どうして…?」
思わず、声が漏れた。
「お前が会う必要がないからだ」
レックスは淡々と答えた。
「でも…まだ、話したいことがあります」
フワドとセイオウには、まだ教えたいこともある。
クリョとも、必ずまた会おうと約束している。
ショウレンとも――
「…来い」
レックスが、静かに腕を差し出した。
「……」
リリアンヌは、そっとその腕に手を添えた。
そのまま黙って、咲き乱れる花の下を歩いていく。
色とりどりのフォウファが、辺り一面を鮮やかに彩っている。
何度見ても、綺麗だ。
池に架かる小さな橋の上で、レックスが足を止めた。
護衛二人は、橋の手前に控えた。
「ここは、敗れた国だ」
レックスが、ふいに口を開いた。
「…はい」
「タッセントは、無条件降伏をした。セスランディアに何をされても文句は言えない」
「……」
「降した国を変えるためには、まず何をすべきだと思う」
レックスが、池に視線を落としたまま尋ねた。
「…二度と、戦争を仕掛けられないようにします」
リリアンヌは、目を伏せて答えた。
「どうやって」
「軍を…自由に動かせなくする?」
「どうすれば、動かせなくなる」
「指揮権を…取り上げる」
「そうだな。タッセント軍の指揮権を、セスランディアが握る。だが、突然指揮する者が変われば、兵たちはどう思う」
「…混乱します」
「混乱しないためには、どうする」
「…誰に従えばいいのか、兵たちに知らせます」
この話がどこへ行きつくか、もう分かっていた。
「その通りだ。誰が上に立つのかを、徹底的に知らしめる必要がある」
「……」
「ショウレンを殺すなと言わないのか」
「…分からない」
リリアンヌは、ぽつりと言った。
「分からない?」
レックスが繰り返した。
「頭では、分かっているのです。二度と戦争を仕掛けられないように、この国を変えなければいけないことは」
前世でも、似たような話を何度も聞いた。
戦いに敗れた王が、命を奪われる。
その家族まで、同じ道を辿る。
あの頃は、ただ遠い昔の出来事として聞いていた。
それが――今、目の前に突きつけられているだけだ。
「王を処刑すれば…その子供たちも、残しておけないことは分かっています。いつか、反乱を起こすかもしれないから…」
「……」
「だけど…心が、ついていかない」
リリアンヌは、静かに池へ目を落とした。
しばらく、水面を見つめる。
風に運ばれたフォウファの花びらが、ふわりと水面を漂っていた。
「…伯父上」
そっと顔を上げ、レックスを見つめた。
「私のお願いを…ひとつだけ、聞いてくれませんか?」




