三人の企み
ルイージ視点
「驚くほど、ぬるいな…」
ルイージは、ぽつりと呟いた。
「僕なんて、自ら罰を求めにいってしまいましたよ」
ネウロが、困ったように笑った。
「戦争を止めた働きを、多少は買ってくれたのですかねぇ」
「ぬるいと言うが…ルイージ宰相、あなたは少なくとも一年はセスランディアに戻れない」
ブライアンが、眉を寄せた。
「そもそも、戦争になっていれば、戦後は私がこの国へ派遣されていたでしょう。罰というより…当然の成り行きです」
罰でも何でもない。
ただの仕事だ。
「それなのに…あんなに意気消沈してしまって」
先ほどのやり取りを思い出し、思わず苦笑が漏れた。
リリアンヌは、目に見えて落ち込んでいた。
レックスの手前、これはただの仕事ですとは言ってやれなかった。
それに、反省してほしい気持ちも強くある。
可哀想だが、誤解を解かせる気はない。
「陛下は、明日からの会議も参加しないつもりなのでしょうかねぇ」
ネウロは、自分で淹れた茶を静かにすすった。
ここの茶を、相当気に入ったようだ。
毎日、三人で俺の部屋に集まって一杯飲む。
いつの間にか、それが習慣になっていた。
セスランディア軍が来た今日も、当たり前のように三人で集まっている。
レックスは今頃、ひとり酒でも飲んで寛いでいるのだろう。
「父上は、何を考えているのだろうな…」
「処刑の件ですか?」
ネウロがすぐに尋ねた。
「それもだが。明らかにリリアンヌを使っていただろう」
ブライアンが、不満げに言った。
レックスは、わざとショウレンの前でリリアンヌを抱きしめにいった。
タッセント側に、彼女がどれだけ大切な存在かを見せつけた。
確かに、リリアンヌが使われたことを面白くは思っていないはずだ。
だが、勝手にここへ来たのは、彼女自身だ。
『伯父上は、誰を試しているのですか?』
試しているのは――誰だ?
「大臣たちは…怖かったでしょうねぇ」
ネウロが思い出すように、ふっと笑った。
「あいつら、俺たちのことは散々舐めていたくせに…」
思わず、声に苛立ちが滲んだ。
「本当に殺されるかもと思ったら、彼らも黙るでしょう」
ネウロは小さく肩をすくめた。
「…一人くらい、逃げ出す奴がいると思ったが」
ブライアンは呟くと、くいっとグラスを傾けた。
「刑が決まってからか…?」
「コウランは今、敵味方の兵に囲まれています。逃げるつもりなら、もう手遅れでしょう」
その呟きに、ルイージは静かに返した。
「逃げようとしているかは分かりませんが…ひとり、悪巧みをしている者がいますねぇ」
「悪巧み?」
ネウロの不穏な言葉に、眉をひそめた。
「ええ。それも…かなり大胆なものをね」
「焦らすなよ」
「ブライアン殿下。ショウレン陛下が処刑される可能性は、どれくらい高いのでしょうか?」
ネウロは答えず、ブライアンに問いかけた。
「…かなり高いだろうな」
ブライアンの言う通りだろう。
あのレックスが、何度も喧嘩を売ってきたタッセントの王を許すとは思えない。
ただ――ショウレンが処刑されるとなれば。
…また、彼女の心に、傷がひとつ増えることになるだろう。
前のように感情が昂ってしまえば、それだけでは済まない。
レックスも、そのことは知っているはずだが――
「…まだ、別の道はあるかもしれません」
「どういうことだ?」
今度はブライアンが尋ねた。
「僕はね、陛下の企みが分かる気がするんですよ」
ネウロが、ふっと目を細めた。
「陛下は――生贄を欲しがっている」
絶対に、リリアンヌの前でしないような表情で笑った。




