↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
507/515

王国軍の到来①

リリアンヌ視点



「とうとう…この日が来てしまいましたね…」



「ツォン…あんた、さすがにリリアンヌ様の前でその発言はやめなさい」



「だって…!これから大国の王がやってくるんだよ…!?」



「時間が経つのは、早いね…」

リリアンヌは使用人たちの前で、思わず苦笑を漏らした。



「リリアンヌ様、今日もこちらの服装でいいのですか?」

しっかり者のラーラが、武官のような衣装を持ち上げた。



「うん。それが一番、動きやすいから」



「今日も動かれるつもりですか?」

ヤオが目を丸くして尋ねた。



「さすがに今日は、城下町へ行っては駄目ってショウレン陛下に言われちゃった」

リリアンヌは、小さく肩をすくめた。



「それは、そうでしょう」


「今までだって、異常でしたよ」


「もうタッセントの兵も町にいるのだから、リリアンヌ様が行く必要はありません」


三人が一斉に返した。



「そう…だね」


昨日、ナブラン砦に出陣していたタッセント兵が、コウランへ戻ってきた。


ずっと手が回っていなかった収容所も、少しずつ確認が進んでいるらしい。



それから――今夜には、セスランディア軍がやってくる。


昨日から、町へ行くのはやめろと、いろいろな人に言われていた。


さすがにもう、言うことを聞くしかない。



「では、今日はどうするのです?」



「あ…ええと、クリョ様のところへ顔を出そうと思って」


そうは言っても、話をするくらいだろうけれど。



「それなら、やはりこの衣装はやめましょう」



「ええっ、でも、様子を見に行くだけだから」



「王妃の前で、この格好は駄目ですよ」

ラーラに叱られてしまった。



「……」


もうすでに、その格好で三人の王妃に会っている。



「そうですよ。それに、ずっとこんな格好をさせていたなんてセスランディアの王に知られたら、私たち、きっと罰を受けちゃいます」

ヤオはそう言いながら、重ねられた衣装の中から一着を取り出した。



「今日は、こちらを着ましょう?今までとはまた、雰囲気が変わると思います」


淡い緑の、綺麗な衣装だ。


胸元で襟が重なり、長い袖と裾がゆったりと広がっている。



「はい…」


もう、従うしかなさそうだ。


三人に手伝ってもらい、順に衣装を身につけていく。



「リリアンヌ様って…セスランディアの王の姪ってことですよね?」



「うん。そうだね」



「ブライアン様は、王の息子…」



「そうだね。王太子だから」



「…私たち、大国の姫様に、こんな軽口を叩いて…」

ツォンの顔が、どんどん青ざめた。



「あんた、いまさら気付いたの?」

ラーラが呆れたように溜息をついた。



「ど、どうしよう…本当に、無事でいられるかな」



「本当に、大丈夫だから」

リリアンヌは、慌てて口を挟んだ。



「何が、そんなに心配?」



「だって…あの外にいる騎士様のような方が、これから大勢いらっしゃるのでしょう…?」

ツォンが、おそるおそる尋ねた。



「う~ん、そう…かな?」


レックスが来るなら、きっと国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)も向かってきているだろう。



「リリアンヌ様を絶対にお守りする!みたいな騎士様が、たくさん来るんでしょう…!?」



「え、ええ…?」


ここの人たちには、そう見えているのだろうか。



「あんたねぇ…それが不敬だっていうのが、分かんないの」

ラーラがツォンを睨みつけた。



「私は、少しだけ楽しみだけどなぁ」

衣装を整えながら、ヤオがぽつりと呟いた。



「騎士様ひとりであれだけ格好良いのだから…大勢いたら、きっと、もっと格好良い」



「武官たちも、とても格好良いじゃない」


王子たちの前に立つ武官たちの姿が、ふっと頭に浮かんだ。



「はい、それはもう」

ヤオが、こくんと頷いた。



「リリアンヌ様。今日は、少し多めに髪飾りをつけましょう」

ラーラが、鏡台の上に飾りを並べた。



「ありがとう」



「リリアンヌ様は、いつまでご滞在されるのでしょう?」

後ろからツォンが尋ねた。



「どうだろう…今日次第かな…」


さすがに、今日中に連れ帰られることはないだろう。


…多分。



レックスは、怒っているだろうか。


…怒っているだろう。



ブライアンと王都を護れと言われたのに、それを破った。


しかも、ブライアンも一緒だ。



一発くらい…殴られるかもしれない。


確かに、武官の格好よりこの姿の方が、手加減してもらえるかもしれない。


小さく身震いをしながら、三人に髪を整えてもらった。



―――



「リリアンヌ様は、そういう格好も似合いますねっ」



「ありがとうございます。クリョ様も、とても素敵です」


クリョはこの二週間で、ほっそりしていた体に健康的な丸みが戻ってきた。


胸元からゆったりと広がる衣装が、とてもよく似合っている。



「そのあと、体調にお変わりはないですか?」



「ええ、おかげさまで。ご飯も、とても美味しく食べられているの」

クリョが目を細め、嬉しそうに答えた。



「リリアンヌ様。今日は、セスランディアの王がいらっしゃるのでしょう?」



「ええ、そう聞いています」



「そんなお忙しい日に、私のところへ来てくださってありがとうございます」



「あっ、いえ…私も、クリョ様とはまたお話ししたいと思っていたので」


本当は…ムーラオを通して、ショウレンから頼まれていた。


王妃の中で病に罹ったのは、クリョだけだった。


きっと、ずっと心配しているのだろう。



「私も、またリリアンヌ様とお話ししたかったの。…誰かと話している方が、気が紛れるから」

その表情に、わずかに翳りが差した。



「……」


何も…言えない。



「昨日ねっ、陛下が会いに来てくださったんです」

クリョが、ぱっと微笑んだ。



「たくさん、言葉をいただきました」



「…そうですか」

リリアンヌは、力なく微笑み返した。



「私も、たくさん話せた。この無事な体があったから、ちゃんと言葉を返すことができた。リリアンヌ様、本当にありがとうございました」



「…そう言っていただけて、良かったです」


そう答えた途端、胸がずきんと痛んだ。



レックスが来れば、ショウレンは。


きっと――



「本当よっ?」



「!」


クリョが身を乗り出し、ぐいっと顔を近づけた。



「本当に、本当。リリアンヌ様に元気にしてもらったこと、感謝しているの」



「はい…」



「そんな悲しそうな顔、しないでください」



「悲しそうな顔を、している…?」

咄嗟に、両手で頬を覆った。



「リリアンヌ様。私は、あの人と結婚した時に、すべてを覚悟していましたから」

クリョは、いつもよりずっと強い眼差しを向けた。



「人の上に立つ分、他の者より、ずっと命を懸ける必要があります。あの人も、私も」



「他の者より、命を懸ける…」


その言葉が、やけに強く胸に残った。



「王と結婚するって、そういうことでしょう?」



「……」



「他人事のような顔をしないでくださいっ」

クリョが、おかしそうに笑った。



「…そうですね」


きっと、ブライアンとのことを言っているのだろう。


でも…私だって、王族だ。


そんなこと、今まで考えたこともなかった。


人の上に立つって――



「失礼します!」

突然、部屋の扉が激しく叩かれた。



「!」

はっと、振り返る。



脇に控えていたムーラオが、すぐに開けて外へ出た。


扉の向こうから、微かに会話が聞こえる。


やがて、ムーラオが戻ってきた。



「リリアンヌ殿。セスランディア軍が到着しました」



「えっ、もう?」


到着は、夜だと言っていたはずなのに。



「早まったようですね」



「クリョ様…お話の途中で、ごめんなさい。もう、行かなきゃ」

リリアンヌは言いながら、急いで立ち上がった。



「リリアンヌ様。また、いらしてくださいね」

クリョも立ち上がり、優しく微笑んだ。



「私は、ここにずっといますから」



「…ええ、必ず」

小さく頷き、クリョの部屋をあとにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。