潜む企み
「…私はもう、あいつらと関わりたくない…!」
薄暗い部屋で、男が強く首を振った。
「怖気づいている場合ですか。貴方は、処刑されるかもしれないのですよ」
女が、男を窘める。
「嫌だ…!死にたくない!私は、何もしていない!」
「ですから、動くべきでしょう。第二王妃の王子たちは、城下町で精霊の申し子と共に顔を売っています。貴方も行くべきです」
「なんで私が、そんなことをしなくてはいけないんだ…!」
――ガンッ…!
男が、傍にあった座椅子を蹴り倒した。
「とにかく、私は動きたくないし、死にたくない!母上がなんとかしてくれ!」
座椅子を倒したまま、どすどすと部屋から出ていった。
やがて足音が聞こえなくなると、女は深い溜息をついた。
「…まったく」
「あれは、駄目だな」
傍で様子を見ていた老人も、同じように溜息を漏らした。
「私の役に立ちそうもない」
「父上…どうしましょうか。逃げますか?」
女は顔色ひとつ変えず、老人へ尋ねた。
「わたくしはこの生活を気に入っていましたが…命をとられるかもしれないなら、別ですわ」
「お前とルオラは大丈夫だろう。だが…私は、このままでは間違いなく処刑される」
「どうしてでしょう。父上は、国に貢献してきたでしょう?」
「先代王の御代の話だ。この病が広まった責任は、私に負わされるだろう」
「まあ…少しばかり、第三王妃が苦しんだだけでしょう?父上も病に罹り、おつらい思いをしたわ」
「あれは…あそこまで事が広がるとは思わなかった」
老人のこめかみを、冷たい汗が伝った。
「本当に…精霊の申し子がああいう娘でなければ、私は死んでいたかもしれん」
「そうですわね…確かに、自分では何の判断もできないような子でしたわ」
女が、くすりと笑った。
「…?違う。何の判断もできないどころか、周りが彼女の言いなりだ」
「あら…そうは見えませんでしたけれど」
「だから、精霊の申し子に情けをかけてもらえれば、まだ…」
「ですが、その精霊の申し子に近づかせてもらえないのでしょう?」
「そうだ…もう、あと数日しかない」
老人は、苛立たしげに爪を噛んだ。
「頼みの毒も、ほとんど処分された。あとは、ここにあるわずかばかりしか残っていない…」
「…それなら、この毒を使えばよいのではありませんか?」
女は、さらりと言ってのけた。
「使ったところで、すぐに精霊の申し子に治されてしまうだろう」
老人も、淡々と返す。
「この毒は、すぐに命を奪うのでしょう?精霊の申し子が白のちからを使う暇もないはずです」
「一体、誰に使う気だ?ショウレンを消したところで、何も変わらんぞ」
「王違い――ですわ」
「王違い…?」
「狙うのは、我が国の王ではありません」
「…まさか」
老人が、はっと息を呑んだ。
「うまくいけば――まだ、セスランディアを負かすことだってできるかもしれませんわ」
女は、薄暗い部屋でひっそりと笑った。




