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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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精霊の申し子の企み

リリアンヌ視点



「だって、そうでしょう?私たちは降伏したのですから。陛下がただでは済まないことくらい、分かっています。大臣たちも、きっと同じでしょう。けれど、息子たちだけはどうか――」



「ウェレリエ王妃、そこまでです」

すかさずムーラオが、低い声で制した。



「あら…私ったら、つい」

ウェレリエが、はっと口元を手で押さえた。



「ムーラオ武官長…どういうことですか?」

リリアンヌは座ったまま、すぐにムーラオを振り返った。



「私の口からは、何もお伝えすることはできません」

きっぱりとした答えが返ってきた。



「……」


ショウレンが、ただでは済まない――?


フワドたちも、処刑を命じられるかもしれない?


…ああ、だから。



『わ、我々がどのような目に遭わされても、構わないとおっしゃるのですか…!』



「そんなこと…あり得ない」



「ほ、本当かしら…?」

ウェレリエは視線を走らせ、リリアンヌとムーラオを見比べた。



「…何もお答えすることはできません」



「でも、フワド殿下たちは、何も悪いことなんて」



「リリアンヌ殿下」



「!」


ひやりとした声に、びくっと肩が跳ねた。



「……」

アランフォースが、静かに首を振っている。


これ以上、この話をするなと言うことだろう。



「リリアンヌ様…私たち兄弟は、どちらもちからを持っています」

フワドが、そっと口を開いた。



「…そうなのですね」

リリアンヌは、ゆっくりと顔を正面に戻した。


でも、今はそれどころじゃない。



「二人とも、白のちからを持っています」



「…!」

はっと、フワドに目を向けた。



「この国に今、白の使い手は、私たち二人しかいません」



「ふ、二人…」


あまりにも――少ない。



「それなのに…私たちは、変紫病に罹ってしまった人を治せなかった」

フワドの声が、わずかに沈んだ。



「…第三王妃のことです。治ったのだから、あなたが気にすることはないのよ」

ウェレリエが、そっと言い添えた。



「僕たちにちからの使い方を教えてくれた方は、亡くなってしまいました」

セイオウが悲しそうに続け、まっすぐリリアンヌを見上げた。



「ですから、リリアンヌ様。どうか、僕たちに白のちからの使い方を教えてくださいませんか?」



「……」

リリアンヌは口を結び、王子たちを順に見つめた。


二人とも、真剣な表情だ。



「…もちろんです」


私の知識が役に立つのなら、いくらでも伝えたい。


ただ――



「…ただ、白のちからは、たくさん使わないと鍛えることはできません」


この国では、王族以外に白のちからを使ってはいけない。


けれどそれでは、できることは増えていかない。



「だから…お二人には、王族以外の方にも白のちからを使ってほしいです」



「…!」


フワドとセイオウが、同時に目を見開いた。



「王族以外へ使うことに…抵抗がありますか?」

リリアンヌは、二人の目をまっすぐ見つめ返した。



「リリアンヌ様、お待ちになって」

ウェレリエが、慌てて身を乗り出した。



「王族以外へ使ってはいけないことは、この国の法で決まっているのですよ」



「ですが、私は使うことを許されています」



「それは…その、このような状況ですからね」



「では、もし私がショウレン陛下に許しをいただけたら、お二人と一緒に、町でちからを使ってもいいでしょうか?」


ひとつ――思いついた。



「まっ、町に、この子たちを出すと?」

ウェレリエの声が裏返った。



「町に行ってもいいのですか…!?」

セイオウの目が、ぱっと輝いた。



「いけません…!あんな危険なところなんて――」



「母上…コウランは、父上が治めている町でしょう?どうして危険と決めつけるのですか」

フワドが、静かに問い返した。



「む、む…」

ウェレリエは小さく口を動かし、言葉を詰まらせた。



「町の状況を知ることも、我々王族の大切な務めだと思います」


フワドの言葉に、思わず深く頷いた。



「リリアンヌ様、よろしくお願いしますっ!」



「ま、待ちなさい、セイオウ!」

はっと、ウェレリエが声を上げた。



「リリアンヌ様。この子たちに白のちからの使い方を教えてくださることは、賛成です。ですが、もし町に出て、この子たちに何かあったらどうするのです…!」



「何かとは、何でしょうか?」



「それは、あれです…怪我とか、何か変な病に罹ってしまったりとか」



「そうなったら、私がすぐに治します」



「…武官長!」



「…リリアンヌ殿。これ以上のことは、陛下への確認が必要となります」

ウェレリエに助けを求められたムーラオが、そっと窘めた。



「ええ、分かっています。勝手に話を進めて、ごめんなさい」

リリアンヌは、素直に頭を下げた。



「リリアンヌ様。父上のところへ確認に行く時、私もついて行ってよろしいでしょうか?」

フワドが真剣な表情で尋ねた。



「…私は、構いません」

ちらりと、ウェレリエを見る。



「あなた…自分からお父様とお話ししようとしているの?」

ウェレリエは、目を潤ませてフワドを見つめていた。



「私たちのことでしょう?人に頼んでどうするのです」



「まあ…本当、あなたは立派になって…」



「僕も、行きます」

セイオウがまっすぐ手を上げた。



「……」

リリアンヌは、今度は後ろを振り向いた。



「…のちほど、陛下にお会いできるか確認しておきます」

ムーラオが、諦めたように言った。



「ありがとうございますっ」


リリアンヌとセイオウの声が重なった。



王子たちと話しているうちに、思ったより時間が経ってしまった。


そのあとは、地下で病に罹っていた人たちの様子を見て回り、


借りている棟まで戻ってきた頃には、すっかり遅い時間になっていた。


ムーラオは「陛下へ確認後、また参ります」と告げ、そのまま去っていった。


その背を見送り、棟の中へ足を踏み入れる。



「…一体、何を考えているのですか」


すぐに、後ろから冷やかな声が飛んできた。



「…どれのお話でしょうか?」

リリアンヌは立ち止まり、そっと振り返った。



「王子二人との話です」

アランフォースは、無表情で見下ろしていた。



「城下町へ一緒に行くことですね」



「ここはセスランディアではありません。なぜ、勝手に話を進めようとなさるのです」



「ショウレン陛下の許可がなければ、行きません」



「その前の話です。あなたが城下町に出れば、より混乱が起こると話したばかりでしょう」



「王子たちがいれば、話は別でしょう?」



「別ではありません。王妃のおっしゃる通り、王子たちに何かあったら、あなたは責任を取れるのですか」



「コウランの城下町は、危ないところではないです」



「たった数日いただけで、なぜ言い切れるのです」



「私が歩いても、危険はありませんでした」



「…あなたの危険に対する基準は、随分と低くなってしまったようですね」

アランフォースの目が、すっと細くなった。



「……」


少し離れたところにいたビッケが、さりげなくその場を離れた。



「私は、考えなしに言っているわけではありません」

リリアンヌは、アランフォースを見上げたまま言葉を続けた。



「私は…その、やりたいことがあって――」



「そのやりたいことのために、他国の者たちにまで迷惑をかけていることが分からないのですか」



「…分かっています」



「この国は今、降伏したばかりです。片づけるべき問題はいくらでもあります。あなたに構っている暇などありません」



「分かっています…!」

つい、声が強くなった。



「でも、私がやろうとしていることは、意味のあることだから」


王子たちが、城下町へ出ることも。


白のちからを、鍛えることも。


ちゃんと、考えがあって言ったことだ。



「…考えていることは、分かっています」


静かな声が落ちた。



「…え?」



「あなたがなぜこのような行動をしているかは、分かっているつもりです」



「…それなら、どうして止めるの?」

リリアンヌは、ぐっと眉を寄せた。



「あなたがすべきことではないからです」

アランフォースは迷いなく返した。



「私のすべきことって、何…?」



「陛下が来るまで、大人しく部屋で待っていることです」



「言ったはずです。私は、止まりません」

声が震えそうになるのを、ぐっと堪えた。



「大人しく部屋で待っているなんて…絶対に、嫌」



「アランフォース…!」

言い切ると同時に、入り口からブライアンが飛び込んできた。



「あのような呼び方をして、申し訳ありませんでした。来ていただいて助かりました」



「……」

アランフォースはリリアンヌから目を離し、ブライアンへ向き直った。



「ブライアン殿下、こちらこそ助かりました」



「…!」

ブライアンの表情が、わずかに強張った。



「…話があります。隣棟へ来ていただけますか」



「ええ、分かりました」

アランフォースは淡々と頷いた。



「君は、部屋でキリ殿とビッケと待っていてくれ」


ブライアンの後ろから、ビッケがこちらへ戻ってきた。



「分かりました」


ムーラオが戻ってくるまでは、まだ時間もあるだろう。


ブライアンとアランフォースに見送られ、部屋へ戻っていく。


ビッケが扉を閉めたところで、リリアンヌはくるっと振り返った。



「ビッケ、今日はたくさん頑張ってくれてありがとう」



「…何が?」

ビッケが、きょとんとした顔を向けた。



「何がって…朝から、鷹をアッシカルまで飛ばしてくれたこと」

思わず、くすっと笑った。



「おかげで、アランフォースが合流してくれたから」



「…呼んで、良かったの?」



「どうして?」



「…ずっと、怒られてるだろ」



「…それは、仕方のないことだから」

リリアンヌは、力なく微笑んだ。



「それに、私だって言い返してる」



「…ショウレン王に許可を貰ったら、本当に城下町に行くの?」



「もちろん」



「何のために?」

ビッケはぎゅっと眉を寄せた。



「あれだけ言い争ってまで行きたい理由って…何?」



「…絶対に、後悔しないため」


リリアンヌの瞳には、強い意志が宿っていた。



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