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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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三人の王妃

リリアンヌ視点



「リリアンヌ様。このたびは、わたくしたちをお助けいただき、ありがとうございました」


第一王妃の屋敷へ案内されるなり、ユンファが深く頭を下げた。


娘のルオラも母に倣い、ぺこりと頭を下げた。



「ユンファ王妃、頭を上げてください。感謝のお気持ちは、受け取りました」

リリアンヌは、慌てて声を掛けた。



「それから…愚息が、大変失礼いたしました」

ユンファは頭を上げても、目は伏せたままだった。



「…ショウレン陛下から、すでに謝罪をいただいています」



「リリアンヌ様は、本当に懐が深い方です」



「ユンファ王妃…お体に、どこか違和感はありませんか?」

そっと話題を変えた。


この二人は、変紫病に罹っていない。


けれどショウレンに頼まれ、念のため三人の王妃を順に訪ねることになった。



「ええ。この通り、何も問題ございません」



「ルオラ殿下も、体調は大丈夫でしょうか」

リリアンヌは、ユンファの隣に視線を向けた。



「はいっ」


元気の良い返事だ。


とても可愛い。



「…リリアンヌ様。オウワンは、悪気があったわけではないのです」

ユンファはすぐに話題を戻した。



「ただ、貴女と純粋にお話をしたかっただけなのです」



「…ええ。少し驚きはしましたが、お気持ちは伝わりました」


こういう返しで、大丈夫だろうか。



「オウワンに、もう一度、挽回の機会を与えてくださいませんか?」



「えっ」

思わず声が漏れた。



「ユンファ王妃、差し出がましい真似をお許しください」

すぐに背後から、ムーラオが口を挟んだ。



「陛下より、リリアンヌ殿のご滞在中、オウワン王子とお会いになることはないと伺っております」



「本当に差し出がましいわね」

伏せられていたユンファの目が、すっとムーラオへ向いた。



「わたくしは、リリアンヌ様とお話ししているのです」



「…大変失礼いたしました」

ムーラオが頭を下げた気配がした。



「…ユンファ王妃。申し訳ありませんが、この場でそれを決めることはできません」

リリアンヌは、取りなすように口を開いた。



「…あら、どうしてでしょう」

こちらへ戻ったユンファの眼差しは、もう柔らかなものに変わっていた。



「婚約者がいますから。さすがに殿方と二人でお会いするわけにはいきません」



「二人で、とは申しておりません。もちろん、ブライアン王太子もご一緒で構いません」



「……」


何をしたいのだろう…


よく分からないけれど。



「…ブライアンに相談してから、お返事をさせていただきます」


もう、そう言うしかできない。



「リリアンヌ様は、慎まやかで謙虚なお方だこと」

ユンファは、ふっと目を細めて笑った。



それから少し言葉を交わし、ユンファたちに別れを告げた。


屋敷を出たところで、ムーラオが即座に切り出した。



「のちほど、陛下へ報告を入れておきます。貴女は、オウワン王子にお会いする必要はありません」



「…お手数をおかけします」


オウワンに対して、怒っているわけじゃない。


ただ、彼の方は、あれだけブライアンに怖い思いをさせられた。


きっと、もう会いたくないだろう。



「先に、第三王妃のもとへお連れいたします。…こちらへ」

ムーラオの先導で、次の屋敷へ向かった。



「…あとで、必ず説明してください」



「…!」

不意に耳元で囁かれた低い声に、ぎくりと肩をすくめた。



「…はい」

アランフォースへ小さく返し、ムーラオのあとを足早に追った。



しばらく道を進むと、別の建物が見えてきた。


先ほどの華やかな屋敷とは違い、こぢんまりとした可愛らしい建物だった。



「あなたが、リリアンヌ様っ!とてもお会いしたかったんです」


第三王妃は、物静かなユンファとは対照的に、朗らかな女性だった。



「クリョ王妃、ご体調はいかがでしょうか?」



「ふふふっ…クリョ王妃、だなんて」


なぜか、笑われてしまった。



「クリョで、結構ですよ!歳もきっと、近いでしょうし」



「そう…ですね」


一体、ショウレンと何歳差なのだろう。


…いや、白髪のせいで年上に見えるけれど、ショウレンはまだ三十代半ばだ。


思っているほど、歳は離れていないのかもしれない。


そんなことより。



「クリョ様。お食事は、召し上がっていますか?」



「ええ!療養中も、食べることだけは欠かさなかったの」



「とても良いことです」

クリョにつられて、自分まで笑顔になった。



「あんなにあった痺れが、ぴたりと止まって…リリアンヌ様のちからは、とってもすごいです!」


ずっとにこにこと笑っている。


とても可愛らしい人だ。



「…あの方は、獣人族ですか?」

クリョは扉の脇をちらりと見ながら、興味深そうに尋ねた。



「ええ、そうです。私の従者です」



「獣人族の従者…!格好良い」

わぁ、と嬉しそうに目を細めた。



「私は、タッセントの西領出身なのです。セスランディアにも近いので、そちらの噂はよく聞いていたんですよ」



「セスランディアの噂ですか…?」



「はいっ!精霊の申し子のお話はもちろん、最近では、紅玉の騎士の噂もよく耳にしていました」



「紅玉の騎士の噂って…?」

リリアンヌは、わずかに身を乗り出した。


また、アランフォースの二つ名が出た。



「…リリアンヌ殿下」



「…う」


静かな声に、そっと身を戻した。



「リリアンヌ様は、まだこちらにいらっしゃるのですか?」



「え…?はい、その予定です」



「それなら、またお話ししましょう」

クリョが顔を寄せ、声を潜めた。



「今度は…誰にも聞かれないところで」

そう言って、くすっと笑った。



「ええ。ぜひ、お願いします」

今度は、すぐに返した。



―――



「リリアンヌ様…!ああ、お会いしたかった!」


第二王妃――ウェレリエは、リリアンヌが席につくと同時に口を開いた。



「先日お会いした時は、病のお話ができなかったでしょう?仕方のないことなのでしょうけれども、もう、申し訳なくて。それにしてもリリアンヌ様は、本当に素晴らしいちからをお持ちですわね。お話は聞きましてよ」



「ウェレリエ王妃。ご体調は、大丈夫でしょうか?」

息継ぎの間を狙って、素早く尋ねた。



「私は、なんともありませんわ。息子たちを見てくださる?」

ウェレリエが、隣に座る息子たちに目をやった。



「フワド殿下、セイオウ殿下。どこか、いつもと調子が違うところはありませんか?」



「リリアンヌ様のおかげで、何も問題ありません」

兄のフワドが、姿勢を正して答えた。



「僕も、問題ありませんっ」

弟のセイオウが、なぜか目を輝かせてこちらを見ているのは、気のせいだろうか。



「リリアンヌ様!僕を、弟子にしてくださいませんか?」



「…んん?」


気のせいじゃなかった。



「いけません、セイオウ…!」



「母上、もういいではないですか。セスランディアには、すべてお伝えしなくてはいけないのでしょう」

フワドが静かに言った。



「そんなことを言ってもね、リリアンヌ様はお優しい方ですけれど、あちらの王は残虐王と呼ばれているのですよ。あなたたちのちからを知られれば、何をされるか分からないわ」

ウェレリエは顔を青くし、そのまま畳みかけた。



「ことによっては、処刑を命じられるかもしれないのですよ!」



「…え?」

リリアンヌは、きゅっと眉をひそめた。



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ついに500話! おめでとうごさいますっ!
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