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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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迷いのない決断

ショウレン視点



「遅かったな」


ショウレンは、誰もいない広間へ入ってきたムーラオへ顔を向けた。


ムーラオは、ひとりで座る姿を見るなり眉を寄せた。



「…誰も護衛をつけなかったのですか」



「お前たちがいなかった時も、つけていなかった」


兵をつけたところで、昨日のようなことが起きれば同じだ。


今は、それより――



「こんな時間まで、あの娘は収容所にいたのか」



「…ええ。収容所にいた者をひとりずつ確認し、町へ戻すのを最後まで見届けておられました」



「そこまでしたのか」



「…あの方を自由にさせておいて、本当によろしいのでしょうか」



「どういう意味だ?」



「リリアンヌ殿が善意で我々に力を貸してくださっていることは、今日一日、共に行動してよく分かりました」



「…そうだな」


俺は気付くまでに、三日かかった。



「ですが…混乱した者の矛先が、彼女へ向きました」



「…なに?」

ショウレンは、ぴくりと眉を動かした。



「彼女に、理不尽な言葉を浴びせる者が出ました」

思い出したのか、ムーラオの声がわずかに低くなった。



「…どんな言葉だ」



「どうしてもっと早く助けに来なかったのか、もっと早く来れば、こんな大勢が死ぬことはなかった――と」



「それは、俺のせいだろう…!」

ショウレンの拳が、テーブルを強く打った。



「…分かっていらっしゃるなら、彼女に謝罪してください」



「…明日、必ず謝罪する」

溜息が漏れた。



「…俺の考えが浅はかだった」


混乱している民の気持ちまで、考える余裕がなかった。



「明日も、リリアンヌ殿は町へ出る気でいます」



「…正気か?」



「その前に、陛下から民へ布告を出すべきです」



「分かっている。伝えることは決めてある。そこに、彼女への非難は一切許さないと書き加えておく」



「何をお伝えになるつもりですか」

ムーラオがすぐに尋ねた。



「セスランディアへ無条件降伏すること。変紫病が、リリアンヌ殿のちからによって終わりを迎えようとしていることだ」


これを告げれば――また、町は混乱を起こすだろう。



「…本当に無条件降伏をなさる気ですか?」



「もう、早馬を出した。ハラがレックス王を迎えに、ナブラン砦へ向かっている」



「…セスランディアの王は、リリアンヌ殿やブライアン王太子のように甘くはないでしょう」



「そんなこと、分かっている」


リリアンヌは異常だが、ブライアンやルイージもまたぬるい。


自分が無条件降伏を受ける側なら、まず老いぼれどもの首を刎ねる。


無条件降伏とは、そういうものだ。


何をされようと、こちらに口を挟む権利はない。



領土を奪われるかもしれない。


王家が潰されるかもしれない。


タッセントという国そのものが、なくなる可能性すらある。



明日、町への布告と共に、国中へ早馬を走らせる。


無条件降伏を知れば、当然、各地は荒れる。


だが、それも避けては通れない。



「陛下…あなたの命も、どうなるか分からないのですよ」

ムーラオは、言葉を選ぶように告げた。



「覚悟のうえだ」

ショウレンは即座に答えた。


セスランディアが戦争を選んだ時点で、自分の死は決まっていた。


いまさら、どうとも思わない。



「俺や老いぼれどもの命は、どうでもいい。…ただ」

わずかに身を起こし、まっすぐムーラオを見た。



「もし、息子たちの命まで求められたら――逃がしてやってくれないか」


フワドとセイオウは――特別だ。



「……」

ムーラオはしばらく黙ったあと、深く頭を下げた。



「承知しました。その時は、最善を尽くします」



「…だが」



「…なんでしょう」



「…いや」

ショウレンは目を伏せ、ふっと息を吐いた。



「“残虐王”か…」


俺よりも、二年早く王位に就いたセスランディアの王――


そのやり口は、大臣どもから何度も聞かされてきた。



逆らう者は容赦なく切り捨てる。


必要とあれば、古くから続く決まりさえ平然と覆す。


そうして国を作り変え、セスランディアをさらに豊かにした。


傲慢で、苛烈な王。


そう聞かされてきた。



だが――


その男が、たったひとりの娘のために戦争を決めた。



一体、レックスとはどんな男なのか。


どちらが、本当の姿なのか。



自分の首を取りに来る男かもしれない。


それでも、決断を変える気などない。


あとは――この目で確かめるだけだ。



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