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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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ぶつかり合う為政者たち②

リリアンヌ視点



「私も…症状が出始めた」

ホーレイが持ち上げた手は、小刻みに震えている。



「症状が出れば…治らず、死ぬ」

小さく呻き、力なく両手を床についた。



「…病に罹った方は、隔離されているのですか?」

リリアンヌは、静かに問いを重ねた。



「ま、まだ生きている者は、城下町の北西にある収容所にいる」



「収容所…?」


その言葉に、あまりいい印象は抱けない。



「城で症状が出た者は、城の地下に――」



「いい加減にしろ…!」

鋭い声がホーレイの言葉を遮った。



「お前は症状が出たなら、さっさと収容所か地下へ行くべきだ…!なぜ、いつまでもここにいる!」

ショウレンは吐き捨てるように言い、階段を指さした。



「陛下!私は、死にたくない!」

ホーレイは首を振り、その場を動かなかった。



「助かる手段があるのなら、早く…!我々を助けてください!」



「ネウロ」

騒ぐ二人には構わず、リリアンヌは名を呼んだ。



「…どちらも確認できました」

ネウロは右目を光らせ、小さく頷いた。



「城の地下には、数十人ほどが、いくつもの小部屋に分けて寝かされています。収容所の方は…」



「収容所の方は?」



「…収容所には、大勢の方がいます。かなり状況は悪いです」



「亡くなっている方もいるの?」



「…ええ。いらっしゃいます」



「分かった」

リリアンヌは立ち上がると、見晴らし台の方へまっすぐに進んでいった。



「リリアンヌ、待て」

ブライアンがすぐに続き、腕を掴んで引き止めた。



「どこへ行く気だ」



「どこ…?決まっているじゃないですか」

リリアンヌは、ゆっくりとブライアンを振り返った。



「病人たちを、治しに行きます」



「リリアンヌ殿下、落ち着いてください。まだ、駄目です」



「なぜですか…!」

今度はルイージを、きっと睨んだ。



「あなたが先に動いてしまえば、こちらが交渉する余地がなくなります」

ルイージは淡々と答えた。



「…ほら見ろ、ハラ。やはり、見返りを求めてきたぞ…!」

ショウレンが、座るハラをぎろりと睨んだ。



「ここまで好き勝手しておいて、まだ交渉するつもりでいる…!」



「……」

ハラは、何も言わなかった。



「…リリアンヌ殿下。そもそも、あなたがここで白のちからを使う義理などありません」

ルイージが、ショウレンを睨みつけたまま言った。



「義理…?そんなの、今、何が関係あるのですか…!?」



「なら、誓約書を書け!」

ショウレンの声が飛んだ。



「これからお前が勝手に白のちからを使うというのなら、我が国には何も要求しないと先に誓え!」



「…ショウレン陛下のおっしゃる通りですね」

ルイージは、少しも動じることなく答えた。



「我々はまず、この国に条件を突きつける必要があります」



「そんなのっ…勝手にやっていればいいでしょう!離して、ブライアン!」



「戦争を止めにきたのだろう…!」

ブライアンが、振りほどこうとするリリアンヌの両腕を強く掴んだ。



「君が先に白のちからを使えば、戦争を止めるための切り札を失うぞ!」



「戦争と病人を、天秤に掛けたりしたくない…!」


こんなことをしている間にも、病人たちは苦しんでいる。


早く。


早く、助けに行かないと。



「…なぜ、お前がそこまで必死になる必要がある」

ショウレンが、ゆらりと近づいた。



「そこまでして、何を求める気だ?」



「あなたの民のことでしょう…!?」

リリアンヌは、ぱっと振り返った。



「どうして民が苦しんでいるのに、平然としているのですか…!何のための王ですか!」



「俺が、平然としている…?」

声が、低く震えた。



「何のための王だと…!?」


――ダァンッ!


ショウレンの拳が、テーブルを激しく叩いた。



「お前に、王の何が分かる!」



「分かりませんよ!」

リリアンヌは一歩も引かず、ショウレンを睨み返した。



「あなたが、分からない…!」


何の意味もない催しを開いている間に。


くだらない駆け引きをしている間に。



どれほどの人が、苦しみ続けていたのだろう。


一体、どれほどの人が死んでしまったのだろう。



「助けてほしいのなら、助けてとだけ言ってください…!」

リリアンヌの目から、ぽたりと涙が落ちた。



「こんな回りくどいことをしなくたって、私は助けますから!」


コウランへ到着してすぐ、白のちからを使っていれば。


タッセントへ入国してすぐに、状況を教えてくれていれば。


書状で、初めから助けを求めてくれていれば。



助かった命は、必ずあった。



「…あっ…!」


不意に、左肩を鋭い痛みが貫いた。



「っ…!」


一瞬で、燃えるような熱が広がっていく。



「いけない…!ブライアン殿下、手を離して!」



「…!?」


ネウロの言葉に、ブライアンはすぐにリリアンヌから手を離した。



「ホ~…!」


スノウも肩から飛び立ち、慌ただしく周りを飛び回る。



「…つっ…う…」

リリアンヌは、ぎゅっと左肩を掴んだ。


その指の隙間から、黒い靄がじわりと溢れ出した。



「リリアンヌ!」



「キリさん、待って…!今触れれば、あなたも瘴気に巻き込まれる!」


伸ばされた手が、ぴたりと止まった。



「あ…」


黒い靄が、みるみる視界を覆っていく。


見えない。



「リリアンヌ…落ち着け」


「ゆっくり、呼吸しろ」


ブライアンとキリの声だけが、すぐ近くから届く。



「おい、一体何なんだ…!?」


「ひぃぃっ…!」


少し離れたところで、ショウレンとホーレイの声が重なった。



「いっ…!つぅっ…」

堪らず、ふらりと後ずさった。



痛い。


痛い――



それでも、まだ意識はある。


ここから、離れなきゃ――



咄嗟に、強く踏み切った。



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