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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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ぶつかり合う為政者たち①

リリアンヌ視点



「エルフが、いないようだが」

ショウレンが、やってきた一行を鋭く見渡した。



「申し訳ありません…エルフは自由な種族のため、無理に参加を求めることはできませんでした」

リリアンヌは眉を下げ、申し訳なさそうに答えた。



「貴女に付き従うと聞いていたが…」



「それは噂です。実際は、そんなことはありません」



「…まあ、よい。座ってくれ」


上座のショウレンの背後には、何人もの兵が控えている。



「ここから見る城下の景色が美しくてな。貴殿らにも見せたくて、この場所を選んだ」


ショウレンが案内したのは、城の最上階の広間だった。


広間は太い柱に囲まれ、四方が大きく開けた造りになっている。


一角には、城下を一望できる見晴らし台が外へ張り出していた。



ショウレンに近い方から、リリアンヌ、ブライアン、ルイージ、ビッケ、ネウロの順に腰掛けた。


向かい側には、ハラだけだ。



「ハラ大臣。先日は、ありがとうございました」

リリアンヌは、座ったままお辞儀した。



「…いえ、こちらこそ」

ハラの声は、相変わらずつらそうにかすれていた。



使用人たちが、テーブルに茶と茶菓子を並べていく。


この国の茶の香りは、どこか懐かしい。



「彼が、貴女の従者か…」

やがて使用人たちが去っていくと、ショウレンが静かに口を開いた。


その目は、じっとビッケを見据えていた。



「はい、そうです」

リリアンヌは、さっと答えた。



「どういう経緯で獣人族を従者にできるのか、詳しく聞きたいものだな。セスランディアでは、まだ奴隷制度が残っているのか?」



「いいえ。現王により、とっくに撤廃されています」



「ああ…そうだったな。そういえば貴女が、獣人族の避難した先の村を訪ねたとも聞いた」



「その話を、ご存じなのですね」



「…私は、貴女の物語に興味があってな」

ショウレンの声色が、わずかに変わった。



「私の…物語ですか?」



「貴女の話は、ここまで届く。不思議なことだな。交流を断っていてもなお、入ってくる」



「…不思議ですね」


そうとしか、返せない。



「異形の存在(ゼノプーパ)を一撃で倒し、王都では、白のちからを毎日送っていると聞いた」



「それは、だいぶ誇張されています」



「エルフや、あの有名な紅玉の騎士とは常に行動を共にしているそうだが、それも違った」



「紅玉の騎士…」


アランフォースの二つ名だ。



「獣人族を率いて山賊を倒し、村中に広がった毒を消し去ったという話もある。だが…これも所詮、噂なのだろう」



「……」

リリアンヌは口を閉ざし、じっとショウレンを見つめた。



「私は、貴女の話を聞きたい」

ショウレンは、静かに繰り返した。



「この世で唯一、精霊の加護を持つ者。貴女の物語を、私は聞きたい」



「……」


私の、物語。


そっと目を閉じ、息を吐く。



それなら――話すことは、決まっている。


少しの間を置いて、ぽつりと口を開いた。



「…私は、王城に閉じ込められていました」



「…それは、いつの話だ?」



「閉じ込められていた理由は、私を護るため――戦争が起こることを、私に知らせないためです」

リリアンヌは、ショウレンの問いに答えなかった。



「陛下から直接知らされたのは、皆が出立する前日のことでした」



「……」

ショウレンの目が、すっと細くなった。



「初めは、悲しかった。大切な人たちが戦場へ行ってしまう。たくさんの人が、亡くなってしまうかもしれない。それなのに、私は何もできない。それがもどかしくて…ただ、泣いていました」

構わず、ゆっくりと言葉を紡いでいく。



「けれど、戦争のきっかけが私だと知って…今度は、強い怒りを覚えました」



「自惚れるな」

間髪入れず、鋭い声が飛んできた。



「戦争は、いくつもの要因が積み重なって起こるものだ」



「これは、私の物語です」

リリアンヌはすぐに言い返した。



「伯父である王に背き、多くの人を巻き込み、仲間を傷つけ…私は、敵国に乗り込みました」

言葉を重ねるごとに、声が強くなっていく。



「それも――すべて、戦争を止めるために」



「はっ…何を、馬鹿なことを」

ショウレンが嘲笑を浮かべた。



「それなら、開戦を延期してまで私をここへ招いたのは、なぜですか?」



「…だから、貴女の話を――」



「ショウレン陛下。私に、何をしてほしいのですか?」



「…何を言っている?」

声から、温度が消えた。



「手紙でも、事情があるのならお話ししてほしいと伝えたはずです。私に、何か頼みごとがあったのでしょう?」

リリアンヌは、怯まなかった。



「…話にならないな」

ショウレンは、がたりと立ち上がった。



「ハラ、もういい。彼女たちをセスランディアへ送り返せ」



「ショウレン陛下。まだ、話は終わっていません」



「精霊の申し子は…どうやら周りに褒めそやされて、調子に乗っているようだな」

ショウレンは、ぎろりとリリアンヌを見下ろした。



「お前に頼みたいことなど、何もない」

きっぱりと言い放つ。


しばらく、二人は無言で睨み合った。



「…もう、いいです」

やがて、リリアンヌはふっと目を伏せた。



「そうだな。決裂だ。帰ってくれ」



「もう、強硬手段で行きます」

その目が、再びショウレンを捉えた。



「…あ?」


――その瞬間。


見晴らし台に、二つの人影が現れた。



「陛下!」


「何者だ!」


兵たちが、すぐにショウレンを庇うように前へ出た。



「驚かせて申し訳ありません。彼に敵意はありません。どうか、手を出さないでください」

リリアンヌは、座ったまま淡々と言った。



見晴らし台に立つひとりは、キリ。


そして、その足元には――



「お前っ…!」

ショウレンの顔が、一瞬で怒りに歪んだ。



ひとりの老人が、キリの前に小さく身を縮めていた。


両手を地につき、額がつきそうなほど深く頭を下げている。



「陛下…!どうか、お助けを…!」

震える声が、広間に響く。



「もうっ…我々は、限界だっ…」



「お前っ…何をしているのか、分かっているのか…!」

ショウレンが、怒りの形相でリリアンヌを振り返った。



「こんな勝手なことをして、ただで済むと思うな!」



「あなたは、ホーレイ大臣とお伺いしました。お間違いないでしょうか?」

リリアンヌはショウレンを無視し、老人に尋ねた。



「そうです…!リリアンヌ殿とお見受けします。どうか、我々を――」



「あいつを、捕らえろ!」

ショウレンの声に、兵たちが一斉に躍り出た。



――キィンッ…!



「ひいっ…!」


ホーレイへ迫った刃を、キリの細剣が弾き返す。


次の瞬間、その姿が消えた。



「なっ…」


キリはひとりの背後へ回り込み、腕を捻り上げた。


そのまま片手を振る。



「がっ!」


「うわっ」


巻き起こった風に、後続の兵たちがまとめて弾き飛ばされた。



「ぐっ…!」


すぐ傍でも、短い呻き声が重なった。


ショウレンの傍に残っていた兵たちが、床へ倒れている。


最後のひとりが、がくりと膝から崩れ落ちた。



――カラン…ッ



手を離れた剣が、床を転がっていく。


その向こうに、ブライアンが立っていた。



「ハラ、今すぐ兵を呼べ!」



「……」

ハラは座ったまま、動かなかった。



「…ハラ!」

ショウレンの焦れた声が飛ぶ。



「…いいえ、呼びません」



「!?」



「ショウレン。座りなさい」



「お前っ…俺を、裏切るのか…!?」



「裏切る…?私が祖国を裏切ることなど、あり得ません」

ハラは、ゆっくりとショウレンを見上げた。



「本当に国のためを思うなら、我々は、さっさとリリアンヌ殿に願い出るべきだった」



「…っ」



「もう、探り合っている場合ではないでしょう…!」


その言葉を最後に、再び広間に静寂が落ちた。


ホーレイの小さく呻く声だけが、微かに響く。



「…ホーレイ大臣。状況を、教えていただけますか」

リリアンヌは、そっと口を開いた。



「毒が…この町に、漏れているのですか?」



「違う…!毒ではない!」



「やめろ、ホーレイ!」


ショウレンの制止を振り切るように、ホーレイが声を張り上げた。



「病だ…!人を病にするものが、町中に広がっている!」



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