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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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密やかな作戦会議

リリアンヌ視点



「お着替えの手伝いに参りました」


夕食後、またラーラたちがやってきた。



「ありがとう。助かります」


昨夜は、もしかしてオウワンに言われて来なかったのだろうか。


髪飾りをうまく取れなかったから、今日は来てくれて良かった。



「失礼します」


「髪に触れますね」


リリアンヌが鏡台の前に座ると、ラーラとツォンが手際よく髪飾りを外し始めた。



「…フォウファの花は、とても綺麗だったわ」

鏡越しに、二人へそっと話しかけてみる。



「それは、良かったです」

ラーラは小さく微笑んで答えると、再びリリアンヌの髪へ目を落とした。



髪を解き終わると、今度は黙々と着替えを手伝ってくれた。


今朝、一番話しかけてくれたヤオは、目を合わせようともしなかった。



「そういえば…この町へ入る時、人が少ないように感じたのだけれど」

再び、そっと話を振ってみた。


聞いたら、答えてくれるだろうか。



「みんな、どこかへ行っているのかな?」



「……」


三人から、何も返ってこない。



「…私は、何か余計なことを言ってしまったのね?」

リリアンヌは、悲しそうに眉を下げた。



「…!」

ヤオが、ぱっと顔を上げた。



「違います…!」

後ろから、ツォンの慌てた声が続いた。



「…リリアンヌ様。本当に、申し訳ありません」

ラーラが、苦しげに目を伏せた。



「私たちは余計なことを話さぬよう、言いつけられております」



「そう…なの」



「申し訳ありません」

三人が、深々と頭を下げた。


それ以上、口を開くことはなかった。



ラーラたちが部屋を出ていくと、入れ替わるようにキリが窓から入ってきた。


リリアンヌは、すぐに窓辺へ駆け寄った。



「キリ…私、みんなと話したい」


さっきの騒ぎが、ずっと気になっている。


夕食もこの部屋に運ばれてきたから、まだ誰とも話せていない。



「分かっている」

キリは短く答えると、窓を大きく開けた。



「窓から向かうの?」



「その方がいい」



「…そうだね」


棟の入り口には、見張りの兵がいる。


止められることはないだろうけれど、今は余計な目につかない方がいい。



背中に、そっと羽織りものが掛けられた。


振り返ると、傍にビッケが立っていた。



「オレも、すぐに追いかけるよ」



「ありがとう」

リリアンヌは羽織りものを胸元へ寄せ、窓の縁へ足を掛けた。



「一気に行く」


キリはリリアンヌを抱きかかえると、ふわりと浮かび、隣の棟へ跳び移った。



「…!」


何が起こったのか分からないうちに、隣の棟の窓まで来ていた。


窓の縁へ足を掛け、飛び降りる。



「気を付け…ああ、余計なお世話でしたね」


室内へ着地した途端、頭の上からルイージの声がした。



「さすがですねぇ。僕たちがこっそり行くより、断然早い」

ネウロが、ひらひらと手を振った。



「あまり長くは不在にできない」


その声に振り向けば、ブライアンも来ていた。


昨日と同じように、表から来たのだろう。


ほどなく、ビッケもとんっと隣へ着地した。



「その男は、助けてくれと言っていた」

キリは、すぐに切り出した。



「助けてくれ…?」

リリアンヌは、きゅっと眉を寄せた。


その男とは、騒ぎを起こした者のことだろう。



「もう限界だ、とも言っていた」



「限界…?何の話だ?」

ブライアンがわずかに首を傾げた。



「この国の王が、早く連れて行けと兵に指示を出していた」

キリは淡々と答えていく。



「助けを求めている者を、ショウレン陛下は無視したわけか…」

ルイージは腕を組み、小さく呟いた。



「今はもう…城内は落ち着いていますね」

ネウロが右目を光らせながら言い添えた。



「ショウレン陛下はどうだ?」



「自室にひとりでいますよ。椅子に座り、何かずっと考えている」

ルイージに答えながら、ふっと光を消した。



「日中も探ってみましたが、大したことは分かりませんでした。どうやら、見慣れない土地を視るのはいつもより体力を使うようです」



「ネウロ、無理しないでね」

リリアンヌは心配そうに眉を下げ、ふと首を傾げた。



「明日の会談でキリたちまで呼んで、何をするつもりなんだろう…」



「…まだ、何もしないと思います」

ルイージが、静かに答えた。



「まだ…?」

思わず、声が強くなった。



「まだ、何も言ってくれないのでしょうか」


助けを求めている人が、いるのに。



「助けてくれ…もう限界――か…」

ブライアンが、静かに呟いた。



「戦争の話か…?セスランディア側が動こうとしているのか?」



「レックス陛下やロデオ総長に、動きはありませんよ」

ネウロがすぐに否定した。



「叫んでいる奴は、軍人ではなかった」

キリも続けた。



「老人だ。何か病気のように見えた」



「…病気!」

リリアンヌは、はっと繰り返した。


全員の視線が、一斉に集まる。



「……」

そのまま目を伏せ、黙り込んだ。


病気…


なんだっけ…


何か、引っかかる――



「…キリさん。その者が、どこへ連れて行かれたか分かりますか?」

やがて、静かにネウロが尋ねた。



「王城から追い出された。それ以上は分からない」



「城下町ですか…町の方までは、まだ探りきれていないんですよねぇ」



「…ね、キリ。その老人を見つけることは、できる?」



「…できるが」

キリは、リリアンヌをちらりと見ながら答えた。



「それなら、その老人に会いに行こう」

リリアンヌは、ぱっと顔を上げた。



「駄目だ」

即座にブライアンの声が飛んできた。



「さすがに、君が許可もなく城を出ることは認められない」



「でも、絶対に何かの糸口にはなります…!」


その老人に、話を聞ければ。


もう、ただ食事やお茶会をすることに、何の意味も感じられない。



「…あのさ」


遠慮がちな声が、ぽつりと落ちた。



「毒が撒かれてるってことは、ない?」



「…!」

はっと、ビッケへ目を向けた。



「ここでは、毒の研究をしているかもしれないんでしょ?その毒が撒かれた可能性は、ないの?」

全員から視線を向けられたビッケが、躊躇いがちに続けた。



『タッセントの首都、コウランでは、今も毒の研究が続けられていると言われています』


『吸い込むだけで命を奪う毒。白の使い手が調合した解毒薬さえ効かない毒――そういったものを、長年にわたって作り続けています』



「…あ」

ルイージが小さく声を漏らした。



「そ、そうだ…」


忘れていたのは、これだ。



「…でも、そんな危ない状況でこいつを招かないよな。村のことを思い出して言っただけだから、全然違うかもしれないけど」

ビッケが、自信なさげに肩をすくめた。


山賊が撒いた、神経毒の話だ。



「あながち間違っていないかもしれない。撒いたのではなく、毒が漏れた可能性はある」

ブライアンも、その考えに頷いた。



「毒が城下町に広がった…?それなら町民たちは、どこかで隔離されているのですかねぇ…」

ネウロも考え込むように呟いた。



「それが本当なら…こんなことしている場合じゃない」

リリアンヌは、胸の前で拳を強く握りしめた。


今すぐに、毒を消す必要がある。



「…リリアンヌ殿下。落ち着いてください」

ルイージが、静かに制した。



「まだ、可能性の話に過ぎません。実際は、見当違いということもあり得ます」



「では…ショウレン陛下は、私に何をしてほしいのでしょうか…!」


何か困っていることがあるから、私をここへ招いたはずだ。



もし私が、ラジャタ村で毒を消した話がここまで届いているのなら――


だからこそ、私を呼びたかった。


大いにあり得る。


もう、そうとしか考えられなかった。



「…どこで毒が漏れているのかな」



「君は白のちからを使ってはいけない。そう言っただろう」



「…!」

リリアンヌは、ブライアンをきっと見返した。



「ルイージ宰相の言う通り、すべて憶測の話だ。君が今、白のちからを使っても徒労に終わるだけかもしれない」

ブライアンは臆さず、淡々と返した。



「でも…命を奪うような毒なのかもしれないのでしょう?」



「だから、それもまだ推測に過ぎない」



「だって、誰かが苦しんでいるかもしれないのに…!」


少なくとも、今日押しかけてきた老人か、その周りの誰かが苦しんでいるはずだ。


助けてほしい状況なのは、間違いないのに。



「それが、ショウレンの選んだ道だ」



「…!」


容赦のない言葉に、ぎくっと肩が跳ねた。



「仮に、そういう状況で苦しんでいる者がいたとしても、それは王であるショウレンの責任だ」

ブライアンは、冷静に言い切った。



「そんな…」


仮に、毒が漏れていたとして。


町の人たちが、巻き込まれたとして。



その状況を選んだのは、町の人たちではない。


国の長である、ショウレンだ。



「……」


町の人たちは――


どこに、いるのだろう。



「…大丈夫か」

キリが、そっと顔を覗き込んだ。



「…大丈夫」

リリアンヌは、まっすぐに顔を上げた。



「ブライアン。それでも私は、明日の会談で無駄に時間を過ごしたくありません」



「…ショウレンに探りを入れたいと言うことか?」



「はい。なぜ私を招こうとしたのか、絶対に話をさせたいです」



「それは…今の段階では、相当難しいでしょう」

ルイージが静かに口を挟んだ。



「手がなくはないですが…それをやれば、確実にショウレン陛下は逆上します」



「……」

リリアンヌはしばらく黙り込み、そっと口を開いた。



「…もう、こちらから仕掛けるしかありません」



「随分、物騒なことをおっしゃいますねぇ」

ネウロがわずかに目を見開いた。



「もともと、タッセントからも何度も挑発されてきたのでしょう?」


もし、民たちを何かに巻き込んでいるのなら。


黙って見過ごすことなんて、できない。



「…何を求めているのか、口を割らせることには賛成です」

ルイージが、小さく息を吐いた。



「ですが、どうするつもりですか?」



「…考えていることが、あります」


これもまた、ショウレンの怒りを買ってしまうだろうけど。


私だって、怒っている。


リリアンヌは、ゆっくりと皆を見渡した。



「…私に、協力してくれますか?」



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