↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
480/558

たどたどしい外交③

リリアンヌ視点



リリアンヌは、そっと扉の前まで進んでいった。



「…オウワン殿下、どうされましたか?」



「まだ眠られないようでしたら、一杯いかがでしょう。美味い地酒を持ってきました」

扉の向こうから、オウワンのはきはきとした声が届いた。



「…申し訳ありません。もう、着替えてしまって」



「待ちますとも。この棟の裏に、月が綺麗に見える場所があるのです。ぜひ、貴女を案内したい」



「…こんな時間に殿方と二人きりになりましたら、私はブライアンに怒られてしまいます」



「なに、ブライアン殿下は今、隣の棟で連れの者たちと宴を開いている。あちらも楽しまれているのだから、貴女だって構わないでしょう!」

廊下に、わははっと笑い声が響く。



「…あの」

リリアンヌは扉を薄く開け、ちらりとオウワンを見上げた。



「本当に申し訳ありませんが…二人きりでは、私は行きません」



「……」

オウワンが、にやりと口元を歪めた。



「そんなに警戒なさらなくても、少し月を見るだけですよ」

そう言うなり扉に手をかけ、強引に押し開けた。



「…!」

リリアンヌは、咄嗟に後ろへ退いた。



「大丈夫です。行きましょう」

構わず、すっと手を差し出してくる。


その瞬間。



「――その手を、今すぐどけろ」


オウワンの首に、ひたりと剣先が突きつけられた。



「ひっ…」



「お前には忠告したはずだ。嫉妬で手元が狂うかもしれない――と」

ブライアンは、冷たい目でオウワンを睨み据えていた。



「お、お前っ…今、何しているか、分かっているのか…っ!」



「御父上に報告してもらって構わない。お前が何をしようとしたのか、私からも申し上げよう」

剣先は、微動だにしなかった。



「私はただ、彼女を楽しませようとっ…」



「それは、お前の仕事ではない」



「なんだと…!?招いた他国の者をもてなすのは、王子である私の役目だろう!」



「もてなすとは、招いた相手に礼を尽くすことだ。相手の意思も、その国の習慣も尊重できないお前には無理だ」

ブライアンは剣を鞘に収めると、オウワンを肩で押しのけ、リリアンヌの隣に立った。



「私以外が彼女に触れることは、絶対に許さない」

先ほどよりも強く、リリアンヌを抱き寄せた。



「お前こそ、この国の文化を知らぬだろう…!人前で、そんな、みだらな…!」

オウワンの顔が真っ赤になった。



「ああ…お前には、刺激が強かったか」

ブライアンは薄く笑うと、そっとリリアンヌの額に口づけをした。


ゆっくり視線を上げ、じっとオウワンを睨みつける。



「…まだそこで、私たちの邪魔をする気か?」



「…っ…本当に、野蛮な国だ…!」

オウワンは顔を真っ赤にしたまま、扉の前から去っていった。



「…だから、見ていろと――…!」


廊下の先から、誰かに文句を言う声が響く。


その声も次第に遠ざかり、やがて静かになった。



「……」

ブライアンはリリアンヌから手を離すと、扉の向こうを覗いた。



「…話にもならないな」

小さく呟き、険しい顔で振り返った。



「君も君だ。なぜ、扉を開けたりした」



「ご、ごめんなさい…」


リリアンヌの顔は、オウワンのように真っ赤だった。



「……」



「そ、その…扉を開けたのは、ブライアンが来ると、分かっていたので…」

言いながら、ちらりと部屋の奥の壁際に目を向けた。



「それに、キリとビッケも、いましたし」



「…キリ殿。協力に感謝する」

ブライアンもその先へ目を向けた。



「私は何もしていない」

キリは片膝を立てて座り、じっと扉を見つめていた。



「あいつ…護衛もいないと思ったのかな」

キリの隣に立つビッケが、呆れたように呟いた。



「ああいう馬鹿は、どこの国にもいる…」

ブライアンは小さく溜息を漏らすと、再びリリアンヌに視線を向けた。



「リリアンヌ」



「はいっ…」



「演技とはいえ、過剰だった。すまない」



「…いいえ!本当に、助かりました」


オウワンが、部屋に訪れる可能性がある。


だから、絶対にキリとビッケに部屋にいてもらえ――



ブライアンにそう言われた時は、まさかと思った。


何もなかったとしても、こんな時間に部屋で二人きりになるなんて、どう考えてもよくない。


しかも、こちらには婚約者がいると言っているのに。


本当に…ブライアンに、婚約者役をしてもらって良かった。



「…ネウロいわく、ここの者たちは全員、何かを隠しているらしい」



「えっ、全員…?」

リリアンヌは、ぱっと顔を上げた。



「それが戦争のことなのか、別のことなのかまでは分からない。だが、一様に焦っている」

ブライアンは腕を組み、扉脇の壁に寄りかかった。



「…何か、問題を抱えているのかもしれないのですね」」


一体、何だろう。


てっきり、私の白のちからを望んでいるのかと思っていた。



ショウレンは病気のようにも見えたけれど、しっかり食事もしていた。


王妃も子供たちも、顔色は良かった。


それなら一体、誰を治してほしいのだろう。



「この町に、人はいた」

キリが静かに口を開いた。



「だが、明らかに少ない」



「…五万人はいないってこと?」


ハラは、城壁の内側には五万人が暮らしていると言っていた。



「その半分ほどだ」



「そっか…避難しているのかな?」



「避難にしては、中途半端だ。王族までここに残っているとなれば、なおさら妙だろう」



「確かに…」


ブライアンの言う通りだ。



「あっ…戦場に行っているのかも」


町の人たちの多くが徴兵され、ナブラン砦へ向かったのかもしれない。



「町の人間を、半数も徴兵することはまずあり得ない」

ブライアンがすぐに否定した。



「じゃあ…町の人たちは、どこへ行ったのでしょう」


半数近くもの人が、町からいなくなっている。


一体、どこへ――



記憶の端に、何かが引っかかった。



「……」


何か――


大事なことを、忘れている気がする。



「まだ…こちらも手探り状態だ」


ブライアンの言葉に、思考を止めた。



「今はまだ、手の打ちようがない」



「では…明日も、ただ花見会に参加するだけでしょうか」



「そうなるだろうな」



「その間に開戦してしまったら、どうする気なのでしょう…」

リリアンヌは、ぎゅっと胸元を握りしめた。



焦っているのに、どうして晩餐会や花見会などしているのか。


戦争だって開戦を延期しただけで、終わったわけじゃない。


いつ、レックスが気を変えて戦争が始まるかも分からない。



「…恐らく、戦争よりも優先したいことがあるのだろう」



「だから…それを隠す意味が、私には分かりません」


困っていることがあるのなら、早く言ってくれればいいのに。



「…そうだな」

なぜか、ブライアンが困ったように微笑んだ。



「明日の花見会の間に、ネウロがいろいろ探ると言っていた」



「…はい」


頼ってばかりで申し訳ないけれど、今は、ネウロのちからがどうしても必要だ。



「また明日の朝、ここへ来る。…今日はゆっくり休め」


ブライアンは壁から背を離すと、すぐに扉を閉めて去っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。