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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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たどたどしい外交②

リリアンヌ視点



「ブライアン王太子、リリアンヌ殿。晩餐会へようこそ」

長いテーブルの上座に、ショウレンが座っていた。



「できる限り貴国の作法に倣ってみたのだが、すべて聞き伝えでな。不備があっても許してくれ」



「ショウレン陛下。このたびは晩餐会へお招きいただき、ありがとうございます」

リリアンヌは、ブライアンと並んで一礼した。



「堅苦しい挨拶は不要だ。こちらへ」


ショウレンの片側には三人が並び、その向かい側に二人分の席が用意されている。



「息子のオウワン、妻のユンファ、娘のルオラだ」

席の前まで進むと、ショウレンが三人を紹介した。


三人が、それぞれ深く頭を下げる。



「オウワン殿下、ユンファ王妃、ルオラ殿下。お初にお目にかかります。リリアンヌ・エラドリオールと申します」



「セスランディア王太子、ブライアン・セスランディアです。お初にお目にかかります」

ブライアンも続いて一礼した。



ユンファは、とても綺麗な女性だった。


けれどずっと目を伏せていて、恐らく、こちらを一度も見ていない。



オウワンは、私と年齢が近そうだ。


ショウレンともユンファとも似ていなくて、なかなか…ふくよかな体だ。



ルオラは、まだ幼い。


隣に座る母をちらちらと見上げ、不安そうな顔を浮かべている。


プージのところの孤児院にいる、ココを思い出した。



扉から使用人たちが入ってきて、テーブルに次々と料理を並べていく。


あっという間に、目の前が色とりどりの料理で埋まった。



こんがりと焼き上げられた大きな鳥に、湯気の立つ海鮮のスープ。


大きな海老は頭や殻まで豪快に盛りつけられ、蒸した身が美しく添えられている。


どれも、食欲をそそる良い香りだ。



「今宵はタッセントの料理を楽しんでくれるとありがたい」

その言葉を合図に、晩餐会が始まった。



思った以上に、和やかな時間だった。


主に、ショウレンの質問が続く。


料理はセスランディアと比べてどうだとか、海の幸はあまり食べないだろうとか。


当たり障りのない話ばかりだ。



「二人は、従兄妹同士なのだろう?」

ふいに、ショウレンが別の話を切り出した。



「はい、そうです」

リリアンヌが代表して答えた。


ショウレンの視線は、こちらに向けられている。



「従兄妹同士で、婚約か。セスランディアでは珍しくないのか」



「えっ、そうなのですか?」

オウワンが、ぱっと顔を上げた。



「セスランディアでは、従兄妹同士の結婚を許しているのですか?」



「…こちらでは、そこまで珍しいことではありません」

リリアンヌは、わずかに間を置いて答えた。



「私にも従兄妹がおりますが…あれとは、とても結婚できませんね」

オウワンは一瞬、馬鹿にしたように笑った。



「オウワン、やめろ。お前の価値観でものを話すな」

ショウレンが軽く窘めた。



「すまない、愚息はまだこういった場に慣れないものでな」



「いいえ。私も、慣れていません」



「そうだろうか。貴女は、随分堂々としている」



「そう…でしょうか」


堂々としているなんて、初めて言われた。


ずっと、肩が丸まっているとか、自信を持てとか言われてきたのに。



話題は再び、料理や互いの国の文化へと戻った。


オウワンも、それ以上は何も話さない。


ユンファとルオラに至っては、最後まで一言も口を開かなかった。



「長旅で疲れているであろう。今夜はもう、ゆっくり休んでくれ」


やがて食事も終わり、使用人たちがリリアンヌとブライアンの椅子を引く。



「ああ…そうだ。城の裏庭にあるフォウファという花が見頃でな。明日、花見会でもどうだろうか」

二人が席を立つと、ショウレンが思い出したように言った。



「それは…嬉しいお誘いです。ぜひ、ブライアンと参加させてください」

リリアンヌは、たどたどしく応えた。



「…裏庭は、王族以外の男子は立ち入り禁止でな。すまないが、貴女だけで参加してもらいたい」

ショウレンは申し訳なさそうに続けた。



「……」


これは。


どうすればいいのだろう。



「ご安心ください、リリアンヌ殿。私が責任をもってご案内いたします」

オウワンがテーブルの向こうから、ぐいっと身を乗り出した。



「ショウレン陛下。さすがにそれは、少々やりすぎではありませんか」

ブライアンが、すっとリリアンヌの隣に並んだ。



「慣れぬ地で婚約者をひとりにするなど、私には到底できません」

怖いくらい、にこやかな笑顔だった。



「ですから、私が――」



「貴国ではどうか分からないが、我が国では、婚約者を他の男に任せることなどできない」

ブライアンは、オウワンへ冷やかな視線を向けた。



「嫉妬で、手元が狂うかもしれないな」



「はぁ…?」

オウワンが、怪訝そうに眉を寄せた。



「…冗談だ。ブライアン王太子」

ショウレンがふっと笑った。



「男の立ち入りに制限があるのは本当だが、貴殿らは別だ。ルイージ宰相も招待しよう」



「お誘いいただき、光栄です」

ブライアンが、すぐに礼を返した。



「…行こう、リリアンヌ」



「…!」


腰に手を回され、そのままぐっとブライアンの方へ引き寄せられた。



「ショウレン陛下。素晴らしい馳走でもてなしていただき、感謝いたします」



「…あ、ありがとうございました」


ブライアンは腰に手を添えたまま、リリアンヌを連れて食堂をあとにした。



「…驚いた顔をするなと、言っただろう」

廊下に出た途端、耳元で囁かれた。


何事もなかったように腰から手を離し、いつものように腕を差し出した。



「…何を言っても、とのことでした」

リリアンヌは小さく口を尖らせ、その腕に手を添えた。


ブライアンの言葉には、驚かなかったはずだ。



「あれは、予想以上に頭が悪そうだな…」



「…あれ?」



「……」

ブライアンは黙り込んだまま、何か考え込んでいる。



「あの、ブライアン…このあと、話す時間はありますか?」


今日中に、みんなとこれからのことを話しておきたい。


けれど、案内の者がいる今は、このまま部屋へ戻るしかない。



「……」


返事はない。


そのまま、割り当てられた棟へ着いた。



「私は、こちらにて失礼いたします。何かございましたら、門番へお申しつけください」

案内の者が一礼し、去っていく。



棟の入り口には、先ほどまでいなかった見張りの兵が立っていた。


中は自由に動けそうだけれど、これではネウロたちのいる隣の棟へ勝手に行けそうにない。


ブライアンは、難しい顔をしたまま部屋へ向かった。



「ネウロとルイージ宰相とは、お話しできないでしょうか?」

堪らず、もう一度尋ねた。



「禁止はされていないだろうが…」


部屋の前まで来て、ようやく返事がきた。



「私が二人のところへ行ってくる。君は部屋にいてくれないか」



「分かりました」



「それから…――」

ブライアンが顔を寄せ、耳元で囁いた。



「…え?」

思わず、ブライアンの顔を見返した。



「ほ、本当に…?」



「私の考えでは、恐らくな。…少し、分からせる必要がある」



「も、もしそうなったら、言われた通りにします」



「くれぐれも気をつけろ」

ブライアンは踵を返し、再び入り口の方へ向かっていった。


その背を見送り、部屋へ戻る。



ベッドの上には、寝間着らしい薄手の長衣が用意されていた。


それを持って備えられた浴室へ向かうと、大きな檜風呂まであった。



久しぶりにゆっくりと湯に浸かり、長旅の疲れを落とした。


風呂から上がり、髪を梳かしていると、部屋の扉がノックされた。



「リリアンヌ殿、オウワンです! 少し、お時間をいただけないだろうか」



「……」


…本当に、来た。



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