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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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たどたどしい外交①

リリアンヌ視点



ハラは、城の前の長い石段を下りず、そのまま城壁の上を進んでいった。


しばらく進むと、反り上がった瓦屋根の建物が、二棟並んで見えてきた。


一棟にルイージとネウロが、もう一棟にブライアンと一緒に案内された。


まさか…婚約者と言ったから、同じ棟にされたのだろうか。



「では、リリアンヌ殿、ブライアン殿下。私は、こちらで失礼します」

ハラが、棟の入り口前で一礼した。



「ハラ大臣も、晩餐会へ参加されますか?」

リリアンヌは、何気なく尋ねた。



「いいえ。先ほど陛下がおっしゃった通り、今宵は王家の方々のみでございます」



「それでは、また明日でしょうか?」



「…何がでしょうか?」



「ハラ大臣とは、また明日お会いできるのかな、と」



「……」

ハラは黙ったまま、じっとリリアンヌに目を向けた。



「……」


何か…変なことを言っただろうか。



「…明日になるかは分かりませんが、貴国との折衝は、私が担っております。またお会いすることになるでしょう」

やがて、ゆっくりと口を開いた。



「それなら、良かったです」


せっかく仲良くなれた気がしたのに、これが最後だと言われたら、少し寂しい。



「…私は、常に城内におります」



「…え?」

リリアンヌは、ぱっと顔を上げた。



「それでは、失礼します」

ハラが再び頭を下げ、今度こそ去っていった。



「…?」


どうして今、それを言ったのだろう。



「リリアンヌ様、ブライアン様。部屋へご案内させていただきます」



「あっ…はい」

去っていくハラから目を離し、慌てて棟内へ足を踏み入れた。



使用人はキリとビッケを見て、一瞬迷った様子を見せたものの、そのまま部屋へ案内した。


リリアンヌは一番奥の部屋へ通され、ビッケはその隣になった。



部屋の中央には、天蓋の付いた豪奢なベッドが置かれている。


周りには彫刻の施された家具や、華やかな調度品が並んでいた。



「一度、オレ出る?」



「ううん、大丈夫」

リリアンヌは荷物を床に置くと、すぐにマントを外して上衣を脱いだ。



「ごめん…ビッケ、手伝ってくれる?」



「うん」


ビッケに手伝ってもらいながら、左肩を包帯で覆っていく。


傷跡は、ここの人たちには見せないように。


そう、ルイージから言われていた。



上衣を着直したところで、「失礼いたします」と使用人たちが入ってきた。


三人の女性が、それぞれ何着もの衣装を抱えていた。



「どれか、お気に召すものはございますか?」



「……」


正直…多すぎて、選べない。



「…左肩に包帯を巻いているので、そこが隠れる衣装がいいのだけど」


使用人たちは特に理由を尋ねることもなく、いくつかの衣装を選び出してくれた。


用意してくれたのはすべて、見慣れない形の衣装だった。


胸元で布を重ね、細い帯を高い位置で結ぶ。


その上から、薄い上衣をふわりと羽織った。



まるで、物語に出てくる仙女の衣装みたいだ。


…とても可愛い。


黒髪だから、思っていたより違和感なく馴染んでいる気がした。


着付けが終わると、鏡台の前に座らされた。



「髪型はどうされますか?」



「ええと…未婚でも問題のない髪型でお願いできますか?」



「え…?」

櫛を手にした使用人が、不思議そうな顔をした。



「そういう決まりは…ないのかな?」


セスランディアでは、髪型に特別な決まりはない。


けれど、この国にはそういう決まりがあるのかと勝手に思ってしまった。



「いえ、おっしゃる通りですが、よくご存じだと思いまして…」



「セスランディアでも、地域によってはそういった文化があるの」

咄嗟に嘘をついた。



「なるほど、そうですか…」

使用人は納得したように頷き、髪を梳かし始めた。



「衣装に合うように整えさせていただきます」



「ありがとう」


その言葉に、使用人の手がふと止まった。



「…綺麗な御髪ですね」

そう呟き、再び静かに櫛を通していく。



「そうかな…ありがとう」

思わず、苦笑いがこぼれた。


長旅で、ちゃんとお手入れもできなかった。


バッキラ香油は毎日使っていたけれど、陽に焼けて、ぱさぱさになってしまった気がしていた。



身支度を終わらせて部屋を出ると、すでにブライアンが待っていた。



「君は、何でも似合う。綺麗だ」

いつものように、すぐに褒めてくれた。



「ありがとうございます。ブライアンも、とっても格好良いです」


ブライアンも、こちらの衣装だ。


黒地に金の刺繍が入った衣に、幅広の帯を締めている。


不思議と、黄金色の髪にもよく馴染んでいた。



「リリアンヌ様、ブライアン様。こちらへどうぞ」

使用人が、二人を先導していく。



「行ってらっしゃいませ」

ビッケが、扉の前で見送った。



「……」



「こちらの様子が分からないからな。連れていかない方が無難だ」

後ろを振り向くリリアンヌに、ブライアンが囁いた。



「…あの、ブライアン。何か気を付けることはありますか?」


ルイージにも聞いたばかりなのに、不安になってもう一度尋ねてしまった。



「そうだな…私が何を言っても、驚いた顔をしないでほしい」



「…へ」



「その顔も、やめてほしい」

ブライアンはきょとんとするリリアンヌに、ふっと苦笑を浮かべた。



「…分かりました」


一体、何を言うつもりなのだろう。



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