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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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隣国の王

リリアンヌ視点



コウラン城の玉座の間は、レイセント城のものとまったく違っていた。


天井はそれほど高くない。


けれどその代わり、広間は左右へ大きく広がっている。



太い柱が等間隔に並び、その奥――


数段高くなった場所に、金の装飾が施された玉座が据えられていた。



広間の左右には大勢の人がずらりと並び、他国から来た一行をじっと見つめていた。


その視線を受けながら、玉座に向かって進む。


やがて玉座の前に着くと、ブライアンとルイージが流れるように膝をついた。


リリアンヌも二人を真似て両膝をつき、そっと目を伏せた。



「面を上げよ」


低くかすれた声が、頭の上から降ってきた。


ゆっくりと顔を上げ、初めて玉座の王を見た。



「…っ」

その瞬間、小さく息を呑んだ。



「私がタッセントの王、ショウレンだ。我が国へようこそ。長旅ご苦労であった」


ブライアンから、ショウレンは三十代半ばと聞いていた。


けれど、とてもそうは見えない。



白い髪は、年齢によるものではないだろう。


頬はひどくこけ、落ちくぼんだ目元には深い影が落ちている。


ただ、その眼差しだけは異様なほど鋭い。


後ろに並ぶキリたちまで、順に見渡している。



ブライアンの腕が微かに触れ、リリアンヌは慌てて口を開いた。



「セスランディア王国、王弟ロデオ・エラドリオールの娘、リリアンヌと申します。ショウレン陛下、お目にかかれて光栄でございます」



「お初にお目にかかります、ショウレン陛下。セスランディア王国王太子ブライアンと申します」



「セスランディア王国宰相、ルイージ・アートンと申します。ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます」


すぐにブライアンとルイージが続いた。



「鷹に乗って入国したと聞いたぞ。さすが、精霊の申し子だな」



「…ショウレン陛下、入国の際にはお力添えいただき、ありがとうございました」

咄嗟に、当たり障りのない返事をした。



「なに、大したことはしていない。それにしても、まさか本当に我が国へ来るとは思わなかった」



「……」


これは…どう返せばいいのだろう。


簡単でした、とでも冗談を言うべきなのだろうか。



「本当に、精霊がいるな」

黙っていると、ショウレンが先に切り出した。



「はい。スノウと申します」

リリアンヌは答えながら、肩にとまるスノウの頭を優しく撫でた。



「常に肩にいるのか?」



「…はい、そうです」


本当は、他の人の肩や頭にもとまることもあるけれど。


今、そこまで説明する必要はないだろう。



「…そうか」

ショウレンの視線が、ゆっくりと隣に移っていった。



「ブライアン王太子。噂以上の貴公子だな」



「光栄なお言葉です」

ブライアンは目を伏せ、すぐに言葉を返した。



「精霊の申し子と大国の王太子が、わずかな供だけで敵国へ来るとはな…」

ショウレンの目が、ゆっくりと細くなっていく。



「…貴殿らを、心から歓迎しよう」



「……」


この言葉が本心かは…分からない。



「長旅でさぞ疲れているだろう。食事は部屋へ運ばせよう。今夜はゆっくり休め」



「お心遣い感謝いたします」

リリアンヌは膝をついたまま、深くお辞儀した。



「リリアンヌ殿には、今宵の晩餐会に参加してもらいたい」



「え」


本当に、誘われた。



「なに、晩餐会と言っても、私の家族だけだ。身内に、貴女を紹介したい。いかがだろうか」



「…大変光栄なお誘いですが、私は、正装を持ってきておりません」


持ってきたのは、旅の装束だけだ。


セスランディアの王族として、さすがにこの格好で晩餐会には参加できない。



「ああ…そこまで気が回らず、すまなかった。いくつかの衣装を、貴女の部屋に持っていかせよう」



「…そ、それは…ありがとうございます」



「まだ、何か問題でもあるか?」



「……」


これはもう、参加が前提で話をされている。



「…では、婚約者と共に参加させていただいてもよろしいでしょうか?」


ルイージに言われたことを、ちゃんと思い出した。



「…婚約者?」



「はい。ブライアン王太子です」

リリアンヌは、さっと隣のブライアンへ手を向けた。


ざわりと、周りが騒がしくなった。



「…は、なるほど」

ショウレンは、じろりと二人を見下ろした。



「もちろん、構わない。ブライアン王太子、貴殿とも話してみたかった」



「それは光栄です」

ブライアンが、再びすぐに返した。



「まずは部屋へ案内させよう。ハラ、頼む」



「かしこまりました」


脇に控えていたハラが、入り口へ向かって歩き出した。


一行もショウレンに一礼し、そのあとに続いた。



「お疲れ様でした」

しばらくして、ルイージがそっと口を開いた。



「あれで大丈夫でしたでしょうか…?」

リリアンヌは、ちらりと隣を見上げた。



「…及第点と言ったところです」


相変わらず、厳しい。



「いいですか。あなたは、絶対にブライアン殿下から離れないでください」



「…分かりました」


晩餐会は、セスランディアと同じようなものだろうか。


分からないけれど、参加する以上、みっともない姿は見せたくない。



「あと…お願いですから、同性、異性問わず、みだりに触れないでください」



「!?そ、そんなことしません」


まるで、誰にでも触れて回っているような言い方だ。



「……」

ルイージは、無言でリリアンヌを見やった。



「…こちらの国では、夫婦や家族以外の異性に触れることは、慎むべきこととされています」



「セスランディアの貴族と、同じような礼儀ですね」


エスコートや敬意を示す手の甲へのキス以外、異性に触れることは失礼にあたる。



「分かっているじゃないですか」


また、睨まれてしまった。



ルイージに、ちからを試した時以外、触れたことがあっただろうか…


八歳からの記憶を辿ったけれど、思い出せなかった。



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