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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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首都コウラン

リリアンヌ視点



「へぇ…タッセントでは、季節によって気温が違うのですね」



「ええ。春夏秋冬、すべて違う景色を楽しめますよ」

ハラが、前に視線を向けたまま答えた。



「もしかして…冬は、雪が降るのですか?」



「よくご存じで。ですが、雪が降るのは、首都コウランより北側だけです」



「不思議ですね…隣国なのに、そんなに違うだなんて」


王都は四季による気温の差もほとんどなく、一年を通して春から初夏のような気候だ。



「セスランディアでも、雪は降る」

後ろから、そっと指摘された。



「北の大都市ポータスでは、冬に雪が降る。その付近の領でも、同じだな」

ブライアンが、手綱を握ったまま続けた。



「あっ…そうだったのですね」


ずっと穏やかな気候なのは、王都だけらしい。



「つい先月、この辺りも雪解けしたばかりです。良い時期にいらっしゃいました」

ハラが、馬上から街道へ目を落とした。



「冬の間は、街道も雪で埋まります。商人や旅人も、冬は首都へ来ることを避けるのです」



「だから、人が少ないのですね」



「…はい?」

鋭い目が、リリアンヌに向いた。



「…?まだ雪解けしたばかりだから、街道を利用する人が少ないということですよね?」


ヘレンキを出立してから、七日が経った。


その間、ずっと大きな街道を通ってきている。


馬の歩きやすい道だけれど、あまりにも静かだ。


泊まるところも関所ばかりで、町や村の様子も分からない。



「…ああ」

ハラの視線が、再び正面に戻った。



「これは、少しばかり理由が違います」



「そうなのですか?」



「はい。西側で戦争が始まるため、多くの者が東寄りの領へ避難しているのです」



「…あっ」

思わず、声が漏れた。



「普段でしたら、雪解けと同時に多くの者が行き交いを始めます」



「……」

リリアンヌは、きゅっと口をつぐんだ。



ハラ大臣は、ずっと話に付き合ってくれている。


交わす話は終始穏やかだけれど…


その端々に、戦争が迫っている現実を感じた。



「リリアンヌ殿」



「…はい」



「あれが、我が国の首都でございます」



「…え」


ハラの視線に合わせ、正面に顔を向けた。



一行の前に、巨大な城が現れた。



東方の城を彷彿とさせる赤い屋根の城が、どんと中央に構えている。


長く横へ伸びる城壁が、その手前を塞いでいた。


レイセントは、丘の形に合わせて丸みのある城壁だ。


それに対し、コウランの城壁は、どこまでもまっすぐだった。



「あの城壁の中には、約五万人の民が暮らしております。その周辺まで含めれば、十万ほどになります」



「そうなのですね」


なかなかの大都市だ。



「城壁内はすべて、区画ごとに仕切られています。規則正しく並べられた建物が続く光景は、他所から来られた方にとっては、なかなか見ものだと思いますよ」



「そう…なのですね」


それしか、言えない。


一応、招待という形ではあるけれど、遊びで来ているわけじゃない。


それは楽しみですね、なんて言ったら、またブライアンに注意されそうだ。



大きな門が開き、都の景色が目の前に広がった。



門からまっすぐ伸びる、大通り。


その両脇に、赤い瓦の屋根が整然と並んでいる。


一番奥には、遠くからでも望めた城がそびえ立っている。



各家に提灯が取り付けられ、もう、灯りがともっていた。


まっすぐ続く通りを縁取る淡い光が、とても綺麗だ。


…だけど。



「……」



「どうした」


周囲を見渡すリリアンヌに、ブライアンがそっと尋ねた。



「人が…いません」


辺りには、人の姿がどこにもなかった。


かぽ、かぽ、と、馬たちの蹄の音だけが静かに響いている。



「…隠れているのかな」



「そこまでは分からないが…人の気配はするな」



「あ…そうなのですね」


敵国の者が来るのなら、外出禁止が言い渡されていてもおかしくはない。


もしくは…コウランの民たちも、大半がどこかへ避難している?



「あとで、ネウロに頼むか」



「ですが…ネウロはもう、たくさん頑張ってくれているから…」


ネウロはずっと、アッシカル領にいる味方陣営の動きを追っている。


他国を見るのは大変、と言っていたのに。



けれどおかげで、まだ戦争が始まっていないことが分かっている。


レックスは、恐らく一か月の開戦延期を受け入れた。


このまま、待っていてくれるかは分からないけれど。



でも、今は目の前のことだ。


まずは、ショウレン王が私を招いた理由を確かめなくては。


いきなり、本題に入るのだろうか。


それとも――



考えているうちに、城はもう眼前まで迫っていた。


大きな門をくぐり、そこで馬を降りた。



コウラン城は、大きく、高かった。


高く積み上げられた石壁の上に、赤い柱と幾重にも重なる屋根がそびえている。


正面には幅の広い石段があり、城へ向かって緩やかに伸びていた。



城の最上部には、見晴らし台らしき場所がある。


あそこに登れば、城下町を一望できるのだろう。



ハラに案内され、兵たちと長い石段をゆっくりと上がった。


上までたどり着くと、一度足を止めた。



「お疲れのところ恐縮ですが、このまま玉座の間へお越しいただけますでしょうか」


再び歩き出したハラのあとを、一行もついていった。


城内に入り、廊下を進んでいく。


町とは違い、人も行き交っている。


リリアンヌは歩きながら、そっとルイージの隣に並んだ。



「ルイージ宰相…何か、気を付けることはありますか?」



「本当は黙っていてほしいところですが…王から何か尋ねられるでしょうね」

ルイージが前を向いたまま、溜息混じりに答えた。


辛辣だ。



「リリアンヌ殿下。ここへ来る条件を、覚えていますか?」



「…!はい、もちろん覚えています」


ブライアンと、婚約していることにする。



「何かに誘われるようでしたら、必ず、婚約者と同席すると伝えてください」



「…?はい…」


何かに、誘われる…?


何かを頼まれる、ではなく?



首を傾げたまま、玉座の間へ着いた。



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