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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十七章/隣国タッセント
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新たな試練

ルイージ視点



リリアンヌたちが階段を上がっていくと、ネウロが欠伸を漏らした。



「今日、僕は不寝番なんて無理ですからね」


相当、ちからを使っていた。


冗談のように言っているが、限界に近いのだろう。



「構わない。私とルイージ宰相で十分だ」



「ブライアン殿下。私は体力も余っていますから、ひとりで平気です」


ブライアンも、相当限界なはずだ。


ずっと神経を張り巡らせていた。



「交代でやりましょう。先に寝かせてもらいます」

ブライアンはそう言いつつも、椅子を引いて腰掛けた。



「これからが本番のはずなのに…どうにも、調子が狂いますね」

ネウロが、ぽつりとこぼした。



「ハラ大臣には、こちらに対する裏は何もありません。隠しごとはあるようですが、陥れるつもりはまったくないようです」



「…本気かよ」

ルイージは呆れ混じりに呟いた。


ネウロのちからが本物なのは、この旅で身に染みて分かった。


それなら、本当にハラはこちらを陥れる気はない。


あれだけ、裏があるように聞こえる発言をしていたというのに。



「リリアンヌを、どうしてもコウランへ連れて行きたいのだろうな」

ブライアンが、茶をこくりと飲んだ。



「やはり、要人の治療が目的でしょうか」


リリアンヌを呼びたい理由は、分かりきっている。


白のちからを求めているか、異形の存在(ゼノプーパ)の討伐を頼みたいか。


後者なら、こんな悠長なことをしている余裕はないはずだ。


それに、どの国もこれまでは自力で討伐してきた。


となれば、王か、それに連なる者が重病なのか。



「その可能性が濃厚でしょう」

ブライアンが静かに頷いた。



「確かに、ショウレン王は病気みたいに細いですねぇ」



「お前はもう寝ろよ」

ルイージは眉を寄せ、眠そうなネウロを見やった。



「そうさせていただきますよ。おやすみなさい」


ネウロは、さっさと階段を上がっていった。



「ブライアン殿下も、そろそろお休みください」



「ええ…」

ブライアンは考え込みながら、指先でテーブルをとんとんと叩いた。


父親と同じ癖だ。



「ショウレンは…リリアンヌに、どうやって白のちからを使わせる気なのか…」

小さく呟いている。



「……」

ルイージは、静かに茶を口に運んだ。



先ほど、リリアンヌには白のちからを絶対に使うなと言ったが――


こちらの切り札として使うなら、話は別だ。



本当に白のちからを求めているなら、こちらが圧倒的に優位に立てる。


だからこそタッセントは、交渉の場に持ち込まれる前に、どうにかリリアンヌに白のちからを使わせようとするだろう。



『…お噂通り、お優しい方ですね』


リリアンヌなら、頼まずとも自ら病人を治してくれる――


そう考えているのか。


安直な考えだが、実際、それが彼女には通用してしまう。


彼女に、駆け引きはできない。



白のちからを先に使えば、それだけでこちらの優位は崩れる。


下手をすれば、こちらが頼み込む立場になりかねない。


ショウレンも、何かしら仕掛けてくるはずだ。


例えば――



「…私は、こちらとの交渉を避けるつもりかと」

ルイージは、ぽつりと口を開いた。



「あちらには、確か王子が三人ほどいたはずです」



「…王子を近づけ、リリアンヌとの縁談に持ち込むつもりだとでも? その気なら、ショウレンは随分と悠長ですね」



「いえ…そうではなく。リリアンヌ殿下を王子の誰かに惚れさせ、頼みを聞かせるつもりなのでしょう」


惚れた相手からの頼みなら、交渉をせずとも、白のちからを使ってくれるかもしれない――と。



「…随分と馬鹿げた話ですね」

ブライアンが、嫌そうに顔をしかめた。



「…まあ、その心配は、あなたがいる限り必要ないでしょう」


リリアンヌ自身は、絶対に王子たちへ興味を持たないだろう。


だが、隙の多い彼女ひとりでは何があるか分からない。


婚約者役のブライアンが傍にいれば、下手な真似もできないはずだ。



「もしくは…彼女の情に訴えるか」


むしろ、こちらの方が厄介だ。


まだ誰が病人かは分からないが、実際に苦しんでいる者の姿を見たら、彼女はすぐにでもちからを使おうとするだろう。



「とにかく…彼女を、コウランでひとりにしてはいけない」


必ず、ブライアンか自分が傍にいなければ。



「…分かっています」

ブライアンは静かに立ち上がり、階段へ向かっていった。


その手前で足を止める。



「…王子の話は、リリアンヌにはしないでください」

それだけ言って、階段を上がっていった。


やがて扉の閉まる音が聞こえ、辺りがしんと静かになった。



「…はぁ」

ルイージは、ひとり溜息を漏らした。



本当に、タッセントへ来てしまった。


本当に――追手から、逃げきってしまった。



大剣を振りかぶったアランフォースの姿が脳裏をよぎり、背筋がぞくりと震えた。


あの距離からでも、確実に大鷹だけを狙う自信があったのだろう。


味方の時は頼もしいだけだったが、敵となれば、あれほど怖い者はいない。



ブルックは…生きているだろうか。


最後に微かに聞こえた声――あれは、サイラスのものだ。


あの二人に捕まったなら、生きていればましな方だろう。


巻き込まれて同情してやりたいところだが、元々は、リリアンヌを敵対視したあいつが悪い。



…ここまで来たなら、何としても交渉を有利に進めなくてはならない。


リリアンヌほど、政治の駆け引きに向かない者はいない。


それなのに、彼女はコウランへ行き、戦争まで止める気でいる。


一体、どこまで理解できているのか――



ショウレンだけでなく、リリアンヌの出方まで読まなくてはいけない。


だが、彼女の出方を読む方が遥かに難しいことは、


もう、分かっている。



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