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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十六章/護りたいもの
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道は分かたれた

リリアンヌ視点



浅瀬を渡り、中州の森へ入っていく。


前も、後ろも、誰の姿も見えない。


ブライアンと繋いだ手だけが、頼りだった。



「ブルックさんが、捕まりました」



「…!」


耳元に落ちたネウロの声に、肩が跳ねた。



「…もう限界だな」

ブライアンが、ゆっくりと足を緩めた。



「ビッケ、ここで頼む」



「…少し、吼えるけど」



「ブルックさんのところからなら…今なら、我々の方が先に出られます」


ネウロは、ずっと息を荒くしている。


もう、とっくにちからを使える時間を超えているはずだ。



「分かった。来たらすぐに発とう」



「とうとう、やるのか…」

ブライアンの言葉に、ルイージが息を詰めるように呟いた。



もう、打ち合わせは終わっている。


あとは――ぶっつけ本番だ。



「ガォォォッ…」

ビッケが、空に向かって吼えた。


いつもより、ずっと控えめだ。



「…やはり、気付かれました」

間を置かず、ネウロが告げた。



「少しでも前に進むべきだ」

暗闇の先から、キリの声が届く。



「そうだな」

ブライアンが、再びリリアンヌの手を引いた。



「ネウロ、ありがとう。もう、大丈夫」



「…そうですね。あとは、逃げ切れるかどうかです」

ネウロの目から、ふっと光が消えた。



暗い森の中を、駆けていく。


聞こえるのは、川の流れる音と、風に擦れ合う樹々の葉音だけだ。


そのまま森を抜けると、視界が開け、切り立った崖の上へ出た。



その時――


静寂の向こうから、微かに蹄の音が響いた。


手を握るブライアンの指に、一瞬、力がこもる。



「来た…!」

ビッケが、小さく叫んだ。


直後、三羽の大鷹が夜空から舞い降りた。



ブライアンはすぐさまリリアンヌを抱き上げ、そのまま一羽の背へ飛び乗った。


もう、周囲を確かめる余裕すらない。



大鷹が羽ばたき、辺りに風が巻き起こる――


頭を覆っていたマントが、ぱさりと外れた。



鷹は高度を上げず、川面すれすれを飛んでいく。


先頭を行くのは、キリとビッケ。


すぐ横には、ルイージとネウロを乗せた鷹が並んでいた。



対岸のタッセントまでは、まだ遠い。


一刻も早く、セスランディアから離れなきゃ――



ふいに、キリが背後を振り返った。


流れるように弓を構え、矢を放つ。



「!?」


矢は、リリアンヌたちを乗せた鷹のすぐ脇をかすめていった。


慌てて、その軌道を目で追った。



――カッ…!


矢が、何かを弾いた。


銀色の光が宙を舞い、そのまま川へ落ちていく。



「あいつ、本気か…!?」

背後を見たまま、ブライアンが低く呟いた。



「…あ」


その向こう――


つい先ほどまで自分たちがいた崖の上に。



アランフォースが、立っていた。



背中の大剣を、引き抜いた。


そのまま、大きく振りかぶる――



「…!」

考えるより先に、右手を突き出した。



――カッ…!


眩い緑の光が、崖の上を覆った。



同時に、大鷹が一気に加速した。


風が頬を叩き、崖がみるみる遠ざかっていく。



「……」


もう、アランフォースの表情までは見えない。


ただ、大剣をゆっくりと下ろす姿だけが、遠ざかる崖の上に残っていた。


その後ろから、馬に乗った三人が駆けてきた。



「――…リィッ…!」


途切れた叫びが、風に乗って微かに届いた。


それきり、もう声は聞こえなかった。



「…リリアンヌ」


耳元に、静かな声が落ちた。



「…泣くな」



「…っ…」


行き場を失った右手を伸ばしたまま、涙が頬を伝っていく。



「…アランフォースは、君に攻撃したわけではない。鷹を狙い、速度を落とそうとした」

ブライアンはその右手をそっと下ろすと、リリアンヌの体を前へ向けた。



「わっ、分かって、います」

右手が、微かに震えた。



「…わ、私が」



「君がやらなければ、鷹は怪我では済まなかった」



「っ…」


アランフォースが、私に攻撃したわけではない。


私が、アランフォースに攻撃した。



閃光の中で、アランフォースの顔が見えた。


あんな表情、今まで一度も見たことがなかった。



『ずっとお傍にいます』



優しく、笑ってくれた人を。


いつでも、傍にいてくれた人を。


何度も、自分を護ってくれた人を。



私は、裏切った。



「…まだ、戻ることはできる」



「……」

リリアンヌは前を見たまま、静かに首を振った。



「もう、振り返りません」


――絶対に。



ショウレン王が、何を企んでいようとも。


首都コウランで、何が待っていようとも。



これは、自分自身が選んだ道だ。


もう、あの手を求めたりしない。



たとえ――もう、二度と会えないかもしれなくても。



第十六章・完

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― 新着の感想 ―
うぅ、めっちゃ胸が苦しくなるぅ・・・。 第十六章も面白かったっ!!!
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