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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十六章/護りたいもの
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大国の王の本気②

レックス視点



「…ちっ」


文句を言っている場合ではない。


あいつがやろうとしていることなど、分かりきっている。



「…お前ひとりで敵国へ乗り込めば、取り返しのつかないことになる」

レックスは、アランフォースを鋭く見下ろした。



「そんなことも分からねぇのか」



「…っ」

アランフォースの拳が、さらにきつく握られた。



「伯父上!説明してください!」



「アランフォース。お前が行くのは、タッセントじゃねぇ」

レックスは、サイラスを無視した。



アッシカル領から、気付かれずに国境を越えることはできない。


それらしい報告も、まだ上がってきていない。



「まだ国内にいる可能性がある。まずは、どこにいるかを考えろ」

レックスはゆっくりと立ち上がった。



「追うのは、お前だ。俺の話を聞く気になったか?」



「…申し訳ありませんでした」


その言葉を合図に、騎士たちが一斉にアランフォースから手を離した。


ロデオがまっすぐ詰め寄ってくる。



「兄上、お願いだ。どういうことか説明してくれ」



「……」



「――陛下!」


レックスが口を開くより先に、鋭い声が割って入った。



「舟が、タッセント側から渡ってきます!」



「!」

男たちは、一斉に川へ目を向けた。



小舟には、鎧姿の男が二人。


船首の男が、青い旗を高く掲げている。


――軍使の印だ。



「…リョーマ、軍使を迎えろ」

舟に目を向けたまま、報告に来た騎士に命じた。



「分かりました」

リョーマは頷くと、兵を数人引き連れて川へ向かっていった。



「…陛下。もう、行ってもよろしいでしょうか」



「……」

レックスは、ゆっくり足元へ視線を向けた。


アランフォースが跪いたまま、食い入るようにこちらを見ていた。



「…軍使の用件次第だ。待て」



「…兄上!」

ロデオまで、焦れたように声を上げた。



「…エドガー。天幕をひとつ空けさせろ」



「はっ」


エドガーがすぐに兵を呼びつけた。


ほどなくして、ひとつの天幕が空けられた。



「ロデオ、サイラス、来い。エドガー、アランフォースもだ」

レックスは返事を待たず、天幕へ向かった。


説明するのは、こいつらまでだ。


これ以上、冷静さを欠く騎士を増やす気はない。



「タッセントからアッシカル領に毒が持ち込まれたかもしれない話は、したな」

天幕に入るなり、すぐに切り出した。


四人全員が、静かに頷いた。



「いつものやり口だ。どうせ嘘だが、俺はその喧嘩を買うことにした」

レックスは腕を組み、荷箱に寄りかかった。



「…だが、その前にもうひとつ、書状が届いていた」



「…まさか」

ロデオが、はっと息を呑んだ。



「リリアンヌを、首都コウランへ招きたいというものだ」



「…はぁ?」

サイラスが剣呑な声を上げた。



「タッセントの王は、頭がおかしいのか?敵国にリリィが行くわけないだろ」



「俺は、すぐに断った。すると今度は、すでにアッシカル領へ毒を持ち込んでいる。いつでも撒ける――そう書かれた書状が届いた」



「…まるで脅しじゃないか」



「まるで、じゃねぇ。はっきりとした脅しだ」

レックスは、淡々とロデオに答えた。



「それでなぜ…リリアンヌ殿下が、敵国に接触を図ったのです?」

今度は、エドガーが先を促した。



「あいつ自身が、タッセントから招かれていたことを知ったからだろう」


それしか、考えられない。



「あの馬鹿王子が言ったのか!?」

サイラスがすかさず吠えた。



「ブライアンには何も言ってない。…自力で見つけ出したはずだ」


ルイージは、命を脅されても口を割らない。


だが、あれに直接迫られても同じとは限らない。


それにリリアンヌの傍には、どこにでも忍び込めるキリと、どこでも見通せるネウロがいる。


挙げ句、王太子のブライアンまでいる。



…あの、馬鹿どもが。



「陛下、軍使の用件を伝えに参りました」

天幕の外から、リョーマの声が響いた。



「入れ」



「軍使からの口上です。…この場でお伝えしても?」

リョーマは入るなり、素早く天幕内を見渡した。



「いい。言え」



「タッセントより、開戦を一か月延期したいとの申し入れがありました」



「…はぁ?」

ロデオが顔をしかめた。



「……」


開戦を、一か月延ばす――



その間に、互いに軍備を整えられる。


だが、これだけの兵をここに留め続ければ、食糧がもたない。


こちらには、一か月も待つ理由はない。


…普通なら。



「…もうひとつ、言伝を預かっています」

リョーマが躊躇うように続けた。



「…言え」



「この申し出を受ける方が、セスランディアのためだ…とのことです」


その言葉に――天幕の空気が張り詰めた。



「軍使の首を斬って、送り返しましょう。すぐに開戦を――」



「落ち着け、馬鹿が」

レックスは、ぎろりとサイラスを睨みつけた。



「リョーマ、外で待っていてくれ」


「はっ」


エドガーに促され、リョーマが天幕を出ていく。



「アランフォース」

レックスは、今度は天幕の端に佇む男へ目を向けた。



「あの鷹は、リリアンヌが操ってんのか」



「…いいえ」



「リリアンヌのために、すべて言え。時間もない」



「…あれは、従者のビッケのちからです」

アランフォースは小さく息を吐き、静かに答えた。



「彼は、動物を従わせることができます」



「…あいつの周りは、化け物だらけだな」


リリアンヌを筆頭に、全員、特別なちからを持つ者(アニマソムニア)ということになる。



「…動物を操れるのは、せいぜい数十分か」



「獣人族は、我々と体のつくりがまったく違います。数時間使えても不思議ではありません」

エドガーがすぐに言い添えた。



「……」

レックスは組んだ腕を、指でとんとんと叩いた。



あれほど大きな鷹だ。


以前にもナブラン砦付近を飛んでいたなら、とっくに報告が上がっている。


それがないということは、今回が初めてか。


その直後に、タッセントから軍使が来た…



リリアンヌは、まだ向こうへ渡っていない。


ブライアンが一緒なら、敵国内へ入ってから鷹を飛ばすような真似はさせないはずだ。


入国するための手助けでも求めたか。



仮にビッケが数時間ちからを使えるとしても、王都からでは遠すぎる。


鷹を往復させる間、使い続けられるはずがない。


王都は発っている。


だが、まだ国境は越えていない。



どこだ。



頭の中で、素早く王都から北の道を辿っていく――


…ザンビア山脈。



「…地図を」


レックスがテーブルへ向かうと、エドガーがすぐさま地図を広げた。



「ザンビア山脈の東側から越えて、タッセントへ向かっている…」


鷹が飛んだのは、南。



レックスは、ナブラン砦に指を置いた。


そのまま、ガーデラ川を南へなぞる。



アッシカル領内は、すべてこちらの兵が押さえている。


さらに、南――



「……」


指が止まった。



「…ホウレンベルク領」


ガーデラ川の一部が、わずかに領内へ掛かっている。



「あの阿呆の故郷か」

サイラスが隣で呟いた。



「リリアンヌは今、ザンビア山脈の東側を抜けて、ホウレンベルク領へ向かっている」

レックスは、確信を持って言った。



「ホウレンベルク領からガーデラ川を渡り、タッセントへ入るつもりだ」



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