↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十六章/護りたいもの
463/559

精霊の申し子の本気④

ルイージ視点



「一番の問題は…王城から出ること、かな」


小さな声に、顔を上げた。



「…?あなたたちにとって、それが一番簡単でしょう」


リリアンヌが跳躍のちからを持っていることは、もう知っている。


それにブライアンやキリがいれば、城から抜け出すことくらい造作もないはずだ。



「私たちが脱走することで…誰か、罰を受けるでしょうか?」

リリアンヌは不安そうな表情で尋ねた。



「……」


罰を受けるなら、それは――



「…人の心配より、自分の心配をしなさい」

ルイージは、リリアンヌをじっと見据えた。



「罰を受けるのは、あなたです」


タッセントまで行けようが、行けまいが。


王都から脱走した時点で、レックスは許さないだろう。



「王都を追放されても、構いません。それで戦争を止められるかもしれないのなら」



「レックスが、あなたを追放するわけないでしょう」


まだ、この子は理解していないのか。



「じゃあ…身分剥奪?」



「それも、あり得ません」


考えられることは、ひとつしかない。



「…もう、王城から出してもらえないかな」



「その可能性が大いにあります。それでもあなたは、行くと言うのですね?」



「はい。私は必ず、コウランへ行きます」

リリアンヌの意志は、固かった。



「……」

ルイージは、静かに息を吐いた。



俺には、無理だな。



「…分かりました。あなたがコウランへ行けるよう、協力しましょう」



「…!」



「ただし。条件が二つあります」

表情をぱっと明るくしたリリアンヌに、ルイージはすかさず付け足した。



「まず、ひとつめ」



「はい…っ」


姿勢を正して、真剣に耳を傾けている。



「あなたは、ブライアン殿下と婚約していることにしましょう」



「!?」

リリアンヌは、目を丸くしてブライアンを見上げた。



「……」

ブライアンは何も言わない。



「もし首都コウランへ行く場合、その盾があなたを護るはずです」

ルイージは、静かにモノクルを押し上げた。



「婚約しているということがですか?」



「ええ。ブライアン殿下との婚約が、です。少しでも不安要素を減らしましょう」



「……」

まだ戸惑った顔で、ブライアンを見上げている。


理由を、はっきりとは理解していないのだろう。



「…君がいいなら」

ようやくブライアンが口を開いた。



「分かりました。もうひとつは、何でしょうか?」

リリアンヌは視線をルイージに戻し、急くように先を促した。


あっさり承諾したことに内心驚いたが、俺にとっては次が本題だ。



「私を、連れて行ってください」



「…えっ!?」

大きな目が、さらに見開かれた。



「る、ルイージ宰相を…?」



「ええ。戦地へ赴いた経験もありますし、こう見えて、腕にも自信があります」


そうでも言わないと、化け物揃いのこの面々にはあっさり反対されるだろう。



「…危険です」

リリアンヌは、静かに首を振った。



「それを、あなたが言いますか…」


自身を差し置いて、何を言っているのか。



「あなたが行くなら、私も行きます。それが二つめの条件です」


リリアンヌたちが王都を抜け出したことが知られれば、罰せられるのはまず俺だろう。


もう、理由をすべて伝えた時点で、レックスへの裏切りだ。


ここに残ってただ成り行きを見守るより、この命くらい、彼女のために使った方がずっとましだ。



「…ですが、ルイージ宰相を巻き込みたくありません」



「……」


本当に彼女は、矛盾したことを言うのが好きだ。



「…いいえ。コウランへ行くというのなら、私を巻き込みなさい。あなたには、政治的な駆け引きがまるでできない」


ここは、絶対に譲らない。



「私の命まで預かる覚悟でいてください」



「…分かりました」

リリアンヌは、しっかりと頷いた。



「…それで、いつ出立する予定なのです」


予想はできているが。



「今夜、出ます」



「…やはり、そうですか」

ルイージは、溜息混じりに呟いた。



「ええと…どうやって王城から出ようか」

リリアンヌが、皆の顔を見回した。



俺がついて行くとなれば、王城からの抜け出し方も変わってくるだろう。


城壁を駆け登ることは、さすがにできない。



「…私の部屋の隠し通路を使うか」



「!」


一斉にブライアンへ顔を向けた。



「私の部屋に、第三城壁の外まで繋がる通路がある」



「…そんな大事なことを、教えていいのですか?」

リリアンヌが驚いた顔で見上げた。



「君には問題ない…お前はどうせ、ちからを使えば分かることだ」

ブライアンは、ちらりとネウロを見やった。



「リリアンヌ殿下が南館に立ち入れば…要らぬ噂が立ちますよ」


まして夜にブライアンの部屋へ入ったと知られれば、あらぬ噂を招きかねない。



「リリアンヌとビッケだけなら、屋根伝えに私の部屋まで来られるだろう。キリ殿、任せていいか」



「ああ」

窓辺で、キリが小さく頷いた。



「ルイージ宰相とネウロは、できる限り人に見られず私の部屋へ向かってくれ」



「……」


なかなかの無理難題を言ってきた。



「…ルイージ宰相。僕と向かいますか?」

ネウロがそっと提案した。



「…準備ができ次第、お前の部屋へ向かう」


不本意だが、自力では人目を避けてブライアンの部屋まで行くことは難しい。



「…そうと決まれば、私は、やることが山ほどあります」

ルイージは立ち上がると、執務机へ向かっていった。


いつ戻れるかは分からないが、自分がいなくとも政務が回るよう、手筈を整えておく必要がある。


最悪、二度と戻れなくても。



「ルイージ宰相…本当に、ありがとうございます」

リリアンヌは立ち上がると、ほっとしたような表情でこちらを見た。



「ルイージ宰相が一緒に来てくださるなら、とても心強いです」



「…分かりましたから、あなたも早く戻り、準備を進めてください」


この表情だけには…勝てない。



「また、あとでよろしくお願いします」


リリアンヌたちが、部屋を出ていく。


最後に、背後で窓の閉まる音がした。



「…はぁ」

ルイージは俯き、ひとり深い溜息をついた。



あんなの、止められるか。



…レックスに殺されるだろうな。


…そんなことは、今はどうでもいい。



ナイジェルを巻き込み、伝えておくべきか…


どうせ、抜け出したことは明朝になれば気付かれる。



隠密に動くなら、城の馬は使えない。


だが、できる限り早く王領を出てしまいたい。


追手がかかれば、捕まらないにしても、厄介なのは間違いない。


味方をまさか、攻撃するわけにはいかない。



…協力者を探すか。


兵の中に、口の堅い者はいたか…



「…ふっ」

思わず、苦笑がこぼれた。



先ほどまで、本気でリリアンヌがデューゼの森へ行ってもいいと思っていた。


それなのに、もうすっかり彼女とこれからのことを考えてしまっている。


俺なんかより、民の方が、よほどリリアンヌを知っていたのかもしれない。



精霊の申し子は、必ず民を助ける。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。