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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十六章/護りたいもの
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振り返らない男

アランフォース視点



「…もう、大丈夫です」



「……」


ネウロの言葉を扉越しに聞き、アランフォースはそっと部屋を離れた。


静かな廊下に、足音だけが響く。


階段を下りる足が、自然と速くなった。



一体、俺は何をしている。


どこで、間違えた。



『ずっとお傍にいます』



本当に、そのつもりだった。


ずっと傍にいて、護るつもりだった。


なぜ、それができるなどと思った。



――タッセントに喧嘩を売られた。お前も連れて行く



戦争が公になる前に、レックスは自分を呼んだ。


まさか…戦場に行くことを躊躇うとは思わなかった。


まさか…レックスに釘を刺されるとは思わなかった。



『お前では、絶対に――』



「…っ」

咄嗟に、拳を握りしめた。


爪が掌に食い込んでも、気にもならなかった。



どこで、間違えた。



ザンビア砦でのことを境に、自分なりに考えてきたつもりだった。


彼女が眠っていた三年間も、ずっと。



彼女の専属護衛となり、すぐにそれだけでは足りないと知った。


強いだけでは、護れない。



嫌われてもいい。


自分に怒りをぶつけてもいい。


それでも彼女には、本気でぶつかる役が必要だった。



それなのに――


彼女は、俺を嫌うどころか。



嬉しそうに、にっこりと笑う顔も。


むっと、頬を膨らませる顔も。


誰かを想って、涙を流す姿も。


真っ赤になって、恥ずかしそうに俯く姿も。



誰よりも傍で、見守っていたかった。



彼女が、自分に向ける気持ちに気付いてなお――


それを、嬉しく思ってしまっていた。



応える気など、なかったくせに。



結局、俺があんなに苦しめた。


俺が一番、彼女の感情を揺らがせた。


絶対に護ると、約束したはずなのに。



…俺の手は、とっくに汚れている。


戦場に出れば、嫌でも思い出す。


人を殺しても、何も感じない。



――仲間。


思い上がるな。



こんな人間が、彼女の傍にいていいはずがない。


今度こそ、忘れるな。



俺がいなくても、彼女を護れる者はいる。


あの三人が彼女の傍にいれば、もう大丈夫だ。


それから――



「父上は、もう話し終えたのか」



「……」

声のした方へ目を向けた。



「もう、戦争の件を伝えたのか」


階段の下から、ブライアンがこちらを見上げていた。


ここまで駆けてきたのか、肩で息をしている。



「…ええ」

アランフォースは、静かに頷いた。



「…リリアンヌは」



「もう、落ち着いています」



「分かった」

ブライアンは額を拭い、階段を駆け上がってきた。


そのまま、アランフォースの横を通り過ぎ――


足を止めた。



「…今夜、父上がリリアンヌに話しに行くことを隠していたな」



「…何の話でしょうか」



「あなたは、明朝に伝えると言ったはずだ」



「……」



「絶対に…リリアンヌを、お前には渡さない」



再び、階段に足音が響く。


ブライアンは振り返ることなく、上階へ消えていった。



『お前では、絶対にリリアンヌを幸せにできない』



「……」


アランフォースは、再び階段を下り始めた。


今度は、足を止めなかった。



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