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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十五章/大好きな人たちと大切な時間を
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特別な一日②

とある貴族が見たもの



大広間内には、何百人もの招待客がいた。



壁際には、大広間を警固する黒の騎士が並んでいる。


彼らは、国随一の精鋭部隊、国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)だ。


王城で開かれる祝宴では、よく見る光景だった。



主役の両親であるロデオとアヴェリーンが、客からの挨拶を受けている。


兄のサイラスも、妻と共に並び、笑顔で応対していた。



国中から、多くの貴族がこの祝宴のために王都へ集まった。


ほとんどの者が、今日、リリアンヌを初めて見る。



リリアンヌ・エラドリオール――


精霊の加護を授かってから、何かと話題の絶えない、王弟ロデオの娘。



八歳にして、異形の存在(ゼノプーパ)を討伐。


犠牲者を、ひとりも出さなかった。



巨大な異形の存在を討ち、その代償として三年間眠りにつくことになった。


肩には、白のちからでも消せない傷跡が残っていると言われている。



十三歳で目覚めてすぐに、精霊を探すため、獣人族が住む村へ旅立った。


村を襲撃した山賊を倒し、獣人族たちと協力して精霊を見つけてみせた。



国で一番強い騎士を護衛につけ、傍には、常にエルフがいる。


あの有名なパルミア侯爵の息子と仲が良く、獣人族の従者を引き連れている。



最近では、王太子と共に城下町へ繰り出し、貧民区の改善を図っているという。


正式な発表はまだないが、二人は婚約者同士だと、まことしやかに囁かれている。



国一番の霊拝師(オランス)ですら遠く及ばないほどの、驚異的な白の使い手。


何度も精霊王と言葉を交わした、精霊の申し子。



肩に鳥の精霊をとまらせ、微笑む姿は、まるで精霊のよう。


誰も並ぶ者がいないほどの、別格の美しさ。


まさに、国の宝ともいうべき存在だ。



――すべて事実だったら、だが。



国は、昔から王族を美化して語る。


加護を持っていることは間違いなく、護衛や従者の話も、どうやら本当らしい。


多くの者が、実際に目にしている。



だが…どれかひとつくらい、嘘だろう。


この目で、見定めてやろう。


そして――やはり噂は噂だったかと、皆に陰口を叩かれることになるのだろう。



「リリアンヌ殿下、ならびにブライアン王太子殿下のご入場です!」

案内の者の声に、大広間中が静まり返った。


入り口の両扉が、ゆっくり開かれる――



「…!」


扉の向こうから現れた二人の姿に、客たちは一斉に息を呑んだ。



この大国の王太子、ブライアン・セスランディア。


偉大なる初代王と同じ、“光のちから”を持ち、あのアランフォースさえも認める強さだという。


現王レックスとはまた違う、王太子としての威厳を漂わせている。


白い正装の上からでも、逞しい体つきが分かる。


女性たちが、ほぅ…と感嘆の溜息をつき、頬を染めた。



そして…その王太子の腕に、手を掛けているのは――



…なぜだろう。


彼女が、輝いて眩しい。


肩に…本当に、光る鳥が乗っている。


あれが、精霊だ。



綺麗な黒髪は片側へ流され、胸元まで垂れている。


お辞儀に合わせて飾りが揺れ、全身がきらりと輝いた。



彼女が伏せた目を上げ、まっすぐ正面に視線を向けた。


父ロデオと同じ、紅い瞳。


彼女のドレスと、隣に並ぶ王太子のマントと揃いの色だ。



前だけを見るその顔は…凛々しくもあり、どこか儚げだ。


本当に…自分たちと同じ人間なのか。



吸い込まれそうな大きな瞳も、


両手で包めてしまいそうな小さな顔も、


透き通るような白い肌も、


すべてが、別格だった。



中央に向かい、二人がゆっくりと歩き出す。


誰も、何も話さない。


ただ、王太子と精霊の申し子の一挙一動を見守っていた。



ブライアンが先に階段を上がり、リリアンヌに向かって手を差し出した。


彼女はその手を取ると、数段のゆるやかな階段を上がっていった。



その先には、豪奢な椅子が二脚置かれている。


その前で、二人が客たちの方へ振り返った。



ブライアンがリリアンヌの耳元で何か囁くと、彼女が、はっと顔を上げた。


二人が、見つめ合う。



ブライアンは優しく微笑みかけると、彼女の背中にそっと手を添えた。


リリアンヌは表情を引き締め、顔を前に向けた。



「皆様…本日は、わたくしのためにお集まりいただき、ありがとうございます」

小さな口が、ゆっくりと開いた。



「皆様のおかげで、わたくしは、無事に成人を迎えることとなりました」


どこか不安げだが、決して小さい声ではない。


静まり返る大広間に、澄み渡る綺麗な声が心地よく響いた。



「まだ若輩者ではありますが、ここにいらっしゃる素晴らしき先輩方に負けぬよう、精進してまいります」


だが突然、このような場では聞いたこともない言葉を口にした。



「…どうぞ、温かく見守っていただけますと幸いです」

最後に、目を細めて微笑んだ。



隣に並ぶブライアンが一瞬、笑いを堪えるような表情を浮かべた。


だが、それに気付いた者はほとんどいないようだった。


皆、ただリリアンヌをぽかんと見つめている。



王太子と精霊の申し子が、ゆっくりお辞儀する。


挨拶が、終わったのだ。



そのことに気付いた客たちは、慌てたように手を叩いた。


しばらくして、拍手が歓声に変わった。



二人が着席すると、あっという間に挨拶の列ができ、リリアンヌの姿は見えなくなった。


誰もが、彼女と一言でも話したかった。


彼女の目に留まってほしかった。



リリアンヌの成人後初めての公の舞台は、大成功だった。



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