試合の表側
レックス視点
「…今の、ご覧になりまして?」
「アランフォース様が、霊拝師たちのいる天幕から…」
「霊拝師たちのあの声…絶対、誰かに祝福を貰っただろう」
「毎年王妃にしか祝福を貰わない、あの、アランフォース様が…?」
観客席では、長い間どよめきが起こっていた。
「おいっ…あれ!」
「ぶっ…ブライアン殿下が、霊拝師と退場している…!」
誰かの叫び声に、さらに騒めきが広がった。
「誰、あの霊拝師!?」
「どうしてブライアン王太子が、霊拝師と手を繋いでいるの…!?」
「……」
レックスは、肘掛けを指先でとんと叩いた。
あの、馬鹿どもが。
「ねぇ、レックス…!どういうこと!?」
隣に座るエレメアが、公の場ということも忘れ、興奮したように囁いた。
「アランフォースが祝福を貰ったのも、あの霊拝師なの?それに、どうしてブライアンまで…!」
「……」
「だってブライアンには、リリアンヌがいるでしょう?ねぇ…!?」
「……」
あれは、リリアンヌだ。
いっそ、言ってしまおうか。
霊拝師たちの天幕にリリアンヌがいることには、早い段階で気付いていた。
いつもなら軽傷だと追い返されるはずの騎士たちが、首を捻りながら完治して出てきた。
負傷したはずの馬まで、元気に嘶いている。
そんなことをするのは、あいつしかいない。
アランフォースは試合を終えるなり、まっすぐリリアンヌのいる天幕へ向かっていった。
それを見て、会場中が静まり返った。
静寂の中、霊拝師たちの黄色い悲鳴が響き渡った。
その直後、アランフォースは何事もなかったかのように天幕から出てきて、さっさと退場した。
今度は、ブライアンが席を立った。
階段を駆け下り、同じ天幕へ飛び込んでいく。
すぐにそこから、霊拝師姿のリリアンヌを連れ出した。
…あの、馬鹿どもが。
観客たちは、まだどよめいている。
会場の下では、ロデオがこめかみを押さえていた。
「アランフォース様が想いを寄せる人が、霊拝師の中にいる?」
「ブライアン王太子って、リリアンヌ様と婚約しているんじゃないのか?」
「だが…どう見ても、さっきの霊拝師と良い雰囲気だったぞ」
「ひとりの霊拝師を――二人で取り合っている…?」
「レックスってば…!ブライアンは、ちゃんとリリアンヌと結婚する気はあるの!?」
「……」
レックスは答えず、三人が消えていった出入口を睨みつけた。
リリアンヌの成人まで、あと半年――
それまで、あの馬鹿どもに振り回されなくてはいけない。
…早くしろ、ブライアン。
――国で一、二位の人気を誇る二人が、ひとりの霊拝師に心を奪われているという噂に、
それぞれ苦しめられることになるのは、もう少し先の話。




