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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十五章/大好きな人たちと大切な時間を
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馬上槍試合②

リリアンヌ視点



試合は、若手騎士たちから始まった。


どうやら、ひとり一試合だけらしい。


確かにこの人数で勝ち抜き戦をすれば、日が暮れてしまいそうだ。



左の奥で、顔見知りの騎士が準備を進めていた。


…イヴリだ。


緊張しているのか、ここからでも顔が強張っているのが分かる。



それでも兜をかぶり、馬に乗ると、もう立派な騎士にしか見えなかった。


五年前、一緒に芋を剥いた従騎士と同一人物とは、とても思えない。



一度に、三試合を行うようだ。


三本の長い仕切り柵を挟み、奥側に三人の騎士が並んだ。


その向かい側にも、それぞれ対戦相手が馬を進めていく。



会場が、しんと静まり返った。



「突撃!!」


ロデオの合図と共に、六頭の馬が一斉に駆け出した。


手前と奥から駆ける騎士たちが、速度を落とさないまま、柵越しに長槍を構えた。



――ガッ…


ドォォン…ッ!


激しく槍がぶつかり合い、騎士が地面へ叩きつけられる轟音が響いた。



「きゃっ…」


「うわ!」



「…!」

リリアンヌは小さく叫ぶ霊拝師(オランス)たちの下で、ぎゅっと目を瞑った。



そこかしこで、砂ぼこりが舞った。


想像以上の迫力だ。



一拍置いて、観客席から、わっと歓声が上がった。


勝った騎士たちが、槍を突き上げていた。


イヴリも、槍を上げている。



格好良い。


けれど、落馬した騎士たちが心配だ。



「…さて、忙しくなるよ」

ハンナが、ぐいっと袖を持ち上げた。



「まずは、三人…でも、大きな怪我はなさそうかな。療師(メディクス)に任せていいかも」

ソフィが、外の様子を見ながら呟いた。



「その判断は、私がするわ」

ルノーラが、気合いを入れるように腕を回した。



「リリアンヌ殿下は、良かったらそのまま観戦していてください」

ミュラが、穏やかに声を掛けた。



「いいえ。私も、手伝う」

リリアンヌも立ち上がり、霊拝師たちに並んだ。



「ああ、駄目駄目!」

マコは、すぐにリリアンヌの腕を引いた。



「えっ…」



「殿下は、ここ」


入り口脇に積まれた木箱の横まで移動させられた。


テッドたちの、さらに後ろだ。



「ここで、じっとしていてください」



「でも、今日は手伝いに来たのだから…」



「私たちだって、今日はそこまで白のちからは使わないんです。軽傷者は、隣の天幕にいる療師たちに任せていますから。やることは、出血を止めるくらいですよ」



「ええと…馬は?」



「うまぁ?」

マコが素っ頓狂な声を上げた。



「だって、馬だって怪我をするかもしれないし…」

リリアンヌは、ちらりと入り口の方へ目を向けた。



「突撃!!」


外から、父の声が聞こえてきた。


二試合目が始まったようだ。



「騎士たちだけで、手一杯です。馬まで面倒見きれませんよ」



「怪我人を頼む!」


マコが言うと同時に、騎士が、別の騎士に抱えられて入ってきた。



「足が折れてるわね」


「これは、白のちからを送った方がいいでしょう。腫れだけでも引かせないと」


「あなたは、額が少し切れているだけです。出血の勢いを止めたから、あとは療師に手当てしてもらってください」


霊拝師たちが、てきぱきと動き出す。



「……」

リリアンヌはその隙に入り口まで近づき、そっと外を見回した。


右手の出入り口から、馬が退場していくところだった。


つらそうに、足を引きずっている。



その馬に向かい、こっそり白のちからを送った。



「ヒヒィン…ッ!」


馬が驚いたのか、前足を上げて嘶いた。


馬を引く従者が驚き、慌てている。



…ごめんなさい。


心の中で、謝った。



「はい、終わり!移動してください」


一試合目で怪我をした騎士たちが立ち上がり、入り口へ向かってきた。



「いてて」

折れた足を癒してもらった騎士は、まだ痛そうに足を引きずっている。


別の騎士も腰を押さえ、もうひとりも、血で赤く染まった布で額を押さえていた。



「……」

リリアンヌは入り口から出ていく三人に、さりげなく白のちからを送った。



「えっ…?」


「あれっ…歩ける」


「あ、血が止まった…」



「腕の出血がひどい!診てくれないか」


天幕の外で戸惑う三人と入れ違いに、次の怪我人が運ばれてきた。


霊拝師たちがそちらへ駆け寄る隙に、リリアンヌはまた外を覗いた。


怪我した馬を見つけ、すぐに白のちからを送った。



そのあとも、怪我をした騎士たちがひっきりなしに運ばれてきた。


もう、試合を見る余裕もない。



時間が進むにつれ、重傷者の数も増えていった。


肩を外し、痛みに呻いている者、


頭から血を流している者、


腕があらぬ方に曲がっている者…


まるで戦場かと思うほど、ひどい怪我ばかりだ。



中には、首に槍を受け、荒い呼吸を繰り返す者までいる。


リリアンヌは、すぐに白のちからを使った。



「…嘘だろ。治ってる」

騎士が、首をさすりながら体を起こした。



「一体、誰が…」



「治ったなら、戻ってください!」

マコが、辺りを見渡す騎士をすぐに追い出した。



きっと、霊拝師がいるからこんなに思いきり試合に挑めているのだろう。


観客たちは盛り上がっているけれど…


…複雑だ。



ようやく落ち着いてきた頃に、ふと天幕の入り口へ目を向けた。



「あれ、バーン副隊長か?」


「落ち着きがないから、すぐ分かるな」


「みんな、格好良いね」


テッド、カイル、トウマが、隙間から外の様子を窺っている。


リリアンヌはその三人に近づき、こっそりと外を覗いた。



「すごい迫力だよね」



「…!」


「あいて!」


テッドがリリアンヌから慌てて一歩離れ、カイルの顎に強打した。



「リリアンヌ殿下。今日は随分と白のちからを使っているようですが、大丈夫ですか?」



「…やっぱり、私が使っていること分かる?」



「馬を治そうとするのは、リリアンヌ殿下くらいですから」

トウマが言いながら、退場していく馬を指さした。



「だって…馬だって頑張ったのに、可哀想じゃない」

リリアンヌは同じように馬を指さし、白のちからを送った。


馬が嘶き、従者が慌てて宥めた。



「あっ…!サイラス殿下だわ」

いつの間にか、一番下でルノーラが覗き込んでいた。



「えっ?」

リリアンヌは、急いで会場へ視線を戻した。


中央の柵の奥側で、兄が、従者に渡された兜をかぶるところだった。



「あれ…一組だけ?」


左右の柵には、誰もいない。



「ここからは、上位者による試合みたいですね」

ルノーラの肩に手を置いたソフィが、リリアンヌに答えた。



「隊長格や功績者は後半にまとめられて、一組ずつ試合が行われるんですよ」



「へぇ…!そうなの」


兄はもう、功績者としてここにいる。


すごい。


本当に自慢の兄だ。



「うわ…相手は、ロルフ副隊長だ」

カイルが、手前側で馬に乗る人物へ視線を向けた。



「普段、うっ憤が溜まってるだろうからな…気合が入ってる」



「お兄様は、うっ憤を溜められるようなことをしているの?」

リリアンヌは、ぎょっと目を丸くした。



「…あっ」


「いいえ。サイラス殿下がお強いから、ロルフ副隊長も気合いが入っているだけです」


ぱんっと口を塞いだカイルの横で、テッドが慌てて付け足した。



「ロルフ副隊長って、守衛隊の方?」



「ええ、そうです」



「……」


つまり兄は、元上司に迷惑をかけているらしい。



「…ごめんなさい」


とりあえず、謝罪した。



「僕たちには、なんにも関係ない話ですから。安心してください」

トウマが、のんびりと笑って言った。



「突撃!!」


相変わらず大きな父の声に、会場へ視線を戻した。



サイラスが馬の腹を蹴り、一気に駆け出した。


片手で長槍を大きく振り抜き――



――ドッ…


ロルフが、サイラスの一撃目を防ぐ。


次の瞬間。



――ガァァァン…ッ!



大きな音が響き、ロルフが馬上から吹き飛んだ。


速すぎて、ほとんど見えなかった。



「サイラス殿下ぁ!」


「きゃーっ!」


「いいぞーっ!」


男女どちらからの歓声も、わっと上がった。



サイラスは奥側に戻ると、軽やかに馬から降り、兜と槍を従者に手渡した。


そのまま観客席まで進んでいき――ガブリエルの前で跪いた。


こちらに背を向け、様子は分からない。


兄が義姉へわずかに身を寄せると、観客席から拍手が沸き起こった。



…なるほど。


これが、マリドーナたちの話していた慣わし。


いいところを今まで見逃してきてしまったようだ。



次は、エドガー団長の試合だった。


槍を二度、カァンッ、カァンッと交えたあと、危なげなく勝った。



エドガーは、まっすぐにひとりの女性のもとへ進んでいった。


女性の隣にはミリセントがいるから、奥様だろう。


とても綺麗な女性だ。



エドガーが妻の手を取り、口づけをする。


周りから、温かい拍手が送られた。



次に行われた試合の勝者は、若くて人目を引く騎士だった。


「さすがユアル様…」とカイルが呟いていたから、きっと守衛隊の騎士だ。



その騎士が、ひとりの令嬢の前で跪くと、どよめきが起こった。


令嬢は、嬉しそうに両手で口元を隠した。



「きゃああっ…」


「素敵っ…!」


霊拝師たちが、小さく黄色い声を上げた。



「……」


一緒に騒ぎたい気持ちを、ぐっと堪えた。


まるで恋愛小説のようで、見ているこちらが照れてしまう。



「きゃーーーっ!!」



「わっ」


突然、会場が割れるほどの悲鳴が上がり、小さく肩をすくませた。



「アランフォースさまぁ!」


「格好良いっ…!」


「紅玉の騎士様ーっ!」



「…こうぎょくの騎士?」


初めて聞く、アランフォースの二つ名だった。



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