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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十五章/大好きな人たちと大切な時間を
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馬上槍試合①

リリアンヌ視点



馬上槍試合は、第二城壁内にある大きな訓練場で行われる。


会場の周りには多くの席が用意され、すべてが観客で埋まっていた。


若い女性の姿も目立つ。


きゃっきゃっと楽しそうな声が、すでに天幕の中まで聞こえていた。



「リリアンヌ殿下、大丈夫ですよ!試合の様子は、ちゃんと入り口の隙間から覗けますから」



「マコは、試合を見たことがあるの?」



「はい。遠征が重ならなければ、必ず!迫力があって、本当にすごいんです」



「それは、楽しみだな」

リリアンヌは、ふふっと笑った。


マコは、すでに楽しそうだ。



「リリアンヌ殿下は…どうして今日、こちらにいらっしゃるのでしょう?」

後ろから、きょとんとした声が聞こえた。



「ハンナ…!」

ハンナの隣にいた霊拝師(オランス)が、つんと脇をつついた。



「ソフィ、いいの。私の方こそ…いきなり、本当にごめんなさい」

リリアンヌは、申し訳なさそうに振り返った。



今日は、霊拝師たちとお揃いの格好をさせてもらっている。


霊拝師として参加したいと伝えたら、ゴーシュ大教主は快諾の返事をくれた。


それだけじゃなく、霊拝師の衣装まで準備してくれた。


ゴーシュがどんな人なのか、まだよく分からないけれど。


もう、これだけで好きになってしまいそうだ。



「でも、ちゃんと仕事はするから…」



「あっ、違います!そういう意味ではなくて」

ハンナは、慌てて胸の前で両手を振った。



「リリアンヌ殿下なら、きっと多くの騎士からお声が掛かると思ったから…!こんなところにいらっしゃるのが、もったいないなって思ってしまいまして」



「今日は、お父様との約束でお忍びなの。本当に、みんなの邪魔だけはしないから…」



「私は、大歓迎ですっ!」

ミュラが目を輝かせて言った。



「本当に!殿下と一緒に仕事ができるなんて、嬉しいっ」

ルノーラが嬉しそうに声を弾ませた。



「私だって、嬉しいもの」

ハンナは小さく口を尖らせると、ちらりとリリアンヌに目を向けた。



「でも、リリアンヌ殿下。全然お忍びになってませんけど」



「えっ」

リリアンヌは、咄嗟に身につけている衣装に視線を落とした。



「黒髪も隠したのだけれど…駄目かな」


白の長衣に、薄絹の外套。


被りものの中に、髪はすべて隠してある。


スノウは今頃、キリと一緒にどこかで観戦しているはずだ。



「うーん…私たちがリリアンヌ殿下を知っているからかな…」


「いや…雰囲気で分かるのかも」


「私たちと、同じ格好に見えないというか」


霊拝師たちはリリアンヌを凝視して、口々に呟いた。



「それに、守衛隊兵の付き添いがいますからね」

マコは言いながら、ちらりと横に視線を向けた。


天幕の隅で、三人の兵士が少し所在なさげに立っていた。



「…テッド、カイル、トウマ。いきなり付き合わせてしまって、ごめんなさい」

リリアンヌは、三人に向かってもう一度謝った。



「いえ…気になさらないでください」


「楽しいので、大丈夫です!」


「殿下、霊拝師の格好も似合いますね」


三人が、次々と答えた。



テッドたちには、申し訳ないことをしてしまった。


恐らく、王城内の付き添いだけだと思っていたはずだ。


それが、馬車に乗って大聖堂へ行き、霊拝師たちと一緒にここまで来てもらうことになった。



事情は伝えたけれど、尋ねたいことは山ほどあるだろう。


ただ、正直…三人が来てくれて、助かった。


私の突飛な行動に、ラジャタ村で少しは慣れているだろうから。



ふいに、天幕の外から、わっと歓声が上がった。



「王家の皆様が、入ってきたようですね」

天幕の入り口から覗いていたハンナが教えてくれた。



「えっ、本当?」


「ブライアン王太子も?」


他の霊拝師たちも、すぐに隙間から覗いた。



「リリアンヌ殿下。ここからどうぞ」

ソフィが、一番下の場所を譲ってくれた。



「ありがとう」

リリアンヌは霊拝師たちの間にしゃがみ込み、そっと外を覗いた。



「ここからだと、全部見渡せるんですよ」


「本当に、特等席だよね」


マコとルノーラが言う通り、目の前には会場が広がっていた。



大きな会場には、長い仕切り柵が等間隔に三本設置されている。


その周りを囲むように、観客たちがぐるりと座っていた。



霊拝師用の天幕の対面側が、王家の観覧席だ。


そこだけ高い造りになっていて、入場してきた王家の人たちの様子がよく見えた。


中央で、レックスとエレメアが手を振っている。


その左右で、四人の王子たちも歓声に応えていた。



「ブライアン王太子~!」


「きゃー!ブライアン殿下ぁ!」


さすが、ブライアンだ。


ずば抜けて名前を呼ばれている。


この歓声の中に、きっとマリドーナたちも含まれているのだろう。



エレメアと王子たちが座り、レックスが一歩前に進み出た。


がやがやしていて、はっきりとは聞こえないけれど、開会の挨拶をしているようだ。



レックスが席に着くと同時に、再び大歓声が上がった。


会場の右手から、屈強な騎士たちが次々と姿を現した。



陽の光を受けて、銀色の鎧が一斉に煌めいた。


兜を脇に抱え、反対の手には、背丈より高い長槍。


ただ歩いているだけなのに、押されるような迫力だ。



「あっ、ほら…!先頭は、アランフォース様ですよ!」

一番上で覗いているマコが、興奮気味に言った。



「え…?」

リリアンヌは一番下から、マコの示す方へ目を向けた。



アランフォースが、先頭を歩いている。


鎧姿なんて、初めて見た。



鎧の上からでも、その屈強な体つきがはっきりと分かる。


燃えるような赤い髪が、風を受けて後ろへなびいた。



「…きゃぁぁっ!」


「アランフォース様ぁ!」


「素敵…アランフォース様~!」


一気に黄色い悲鳴が上がった。



「やっぱり、一番人気ですね」


「だって、格好良いもん」


霊拝師たちも、きゃっきゃと囁いている。



「……」


毎日一緒にいるから、つい忘れてしまう。


アランフォースは、国で一番有名な騎士だ。


そんな人が、私の専属護衛をしてくれている。



アランフォースは歓声など聞こえていないかのように、前だけを見て歩いている。


その後ろを、大勢の騎士たちが続いていく。



やがて会場の中央まで進むと、アランフォースは足を止めた。


そして――ふいに、天幕へ顔を向けた。



「…えっ」


まっすぐ、こちらを見ている。



「…えっ!?」


「アランフォース様が、こっちを見てる…?」


「うそ…どうして?」


霊拝師たちが戸惑いの声を上げた。



「リリアンヌ殿下…ここにいらっしゃること、アランフォース様に伝えていたんですか?」

マコが上から尋ねた。



「ううん…言ってない」


一瞬、どきりとした。


目が合った気がした。



…そんなわけない。


こんな細い隙間から、六人も覗いている。


一番下にいる私に、気付くわけがない。



だけど…どうしてまだ、こっちを見ているのだろう。



「…私、少し下がろうかな」



「あっ、リリアンヌ殿下、大丈夫です。移動しました」


ルノーラの言葉で、再び天幕の外へ目を向けた。



アランフォースが王家の前に立ち、こちらへ背を向けた。


その後ろから騎士たちが続き、横に広がるように整列していった。



広い会場が、屈強な騎士たちで埋まった。


すでに圧巻だ。



右手から、ロデオがゆっくりと入場してきた。


すぐに、並ぶ騎士たちで見えなくなった。



「整列!!」


それでも、父のよく響く声がここまで届いた。



「礼!!」


騎士たちが、一斉に王家へ向かって頭を垂れた。



「はぁ…格好良い」

ハンナが、うっとりと呟いた。



本当に、格好良い。


こんな屈強な人たちを指揮している父が、誇らしい。



「あ…三人も見る?」

リリアンヌは、はっと天幕の隅に顔を向けた。



「えっ、本当ですか?」


「お前なっ…」


「俺たちは、その…試合が始まったら、少しだけ見れれば…」


トウマ、テッド、カイルが、またそれぞれ答えた。



「じゃあ、あとで一緒に見ようね」

リリアンヌはくすっと笑うと、天幕の外へ視線を戻した。



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