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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十五章/大好きな人たちと大切な時間を
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無邪気な計画

リリアンヌ視点



「馬上槍試合のこと…何も知らなかった」

帰りの馬車の中で、リリアンヌはぽつりと呟いた。



「……」



「今まで、どうして教えてくれなかったの?」



「あなたの御父上が教えないことを、私が伝えるわけにはいきません」

正面に座るアランフォースが、静かに答えた。



「お父様に行ってもいいか聞いたら、許してくれるかな?」



「……」



「…明日、お会いした時に聞いてみます」

諦めて、窓の外へ目を向けた。


こういう時のアランフォースは、何も教えてくれない。


明日どうやって聞くかでも、考えていよう。



「…馬上槍試合は、王都にいる騎士の大半が参加します」



「…そう話していましたね」

リリアンヌは、ゆっくりと正面に視線を戻した。



「国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)は、全員出場します。私も…今回の試合には、参加しなくてはいけません」

アランフォースは、静かに続けた。



「その日、あなたが出かけるとなると、護衛をつけることができません」



「でも…キリがいるもの」



「ですから、キリ殿は…」

言葉が止まった。


ラジャタ村で言っていたことだろうか。



「…近衛隊や守衛隊の方は?」



「近衛隊や守衛隊の騎士たちも、同じく試合に参加します」



「…そう」


今までも、アランフォースが護衛につけない日は何度かあった。


そういう日は、大人しくエラドリオール邸から出なかった。


ただ…今は、王城に住んでいる。



「…ネウロに診てもらいに行くのにも、護衛は必要かな」



「そうですね。…少し、考えておきます」

アランフォースはそれだけ言うと、再び黙り込んだ。



「…ビッケ、今日はお疲れ様」

リリアンヌは、ぱっと隣に顔を向けた。



「お前、さすがにひとつの椅子で令嬢と座ろうとするなよ」

ビッケが、じとりと目を向けた。



「ごめんなさい」



「まあ…それ以外は、頑張ってたよ」



「…えへ、ありがとう」


あの時は興奮してしまって、つい素が出てしまった。


まさか、エドガーの娘が参加しているなんて思わなかった。


同じ橙色の髪で、顔もどことなく似ていた。


歳もきっと、私と近い。



…やっと令嬢の友人ができた。


強引だった気もするけど、最後には、二人でお茶会をしましょうという話にまで進んだ。



それにしても、みんな年頃だから仕方がないかもしれないけれど…


お茶会は、婚約の話ばかりだった。



…王妃教育。


父やネウロが言葉を濁していた噂は、これだったんだ。



王妃教育だなんて…


エレメア王妃とは、月に何度か、二人でお茶会をするくらいだ。


たまにそこへ、ブライアンも参加することはあるけれど。



…すごいなぁ。


みんな、ブライアンを狙っているのだろうか。


さすが人気者だ。



ブライアンも、馬上槍試合に参加するのだろうか。


兄は、どうなのだろう。



…アランフォースは。


誰に、祝福を貰っているのだろうか――



―――



「絶対、駄目だ」

ロデオは即座に首を振った。



「…まだ馬上槍試合、とまでしか言っていません」

リリアンヌは、小さく口を尖らせた。



「お前が観戦に行くことは、絶対にない」



「あら…それは、リリアンヌが可哀想ではなくて?」

アヴェリーンが、グラスを傾けながら口を挟んだ。



「この子と同じ年頃の令嬢たちは、とっくに試合観戦に行っているわ。そこで良い出会いがあるかもしれないもの」



「だからこそだ。この子がいたら、試合にならないかもしれない」



「え、どうしてですか?」

リリアンヌは、きょとんと尋ねた。



「……」



「あなたのもとへ、たくさんの騎士が集まってしまうからよ」

黙り込んだロデオに代わり、アヴェリーンがさらりと答えた。



「集まる…?どうして…?」



「どうしてって…あなたに祝福を貰いたいからに決まっているでしょう」



「ええ…?」


意味が分からない。


普通はマリドーナのような、綺麗で華やかな女性のもとに集まるだろう。



「…あなたは、王族で唯一の令嬢よ」

アヴェリーンが深い溜息をついた。



「身分の高い令嬢のもとへ行くのは、当たり前でしょう」



「…ああ」


なるほど。


それなら納得ができる。


だから、ミレーネは心配そうに尋ねていたのか。


騎士たちが身分を気にして、自分のもとへ祝福を貰いに来てしまうから。



「でも…そんな楽しそうな試合、見てみたいです…」

リリアンヌは、残念そうに手元のグラスへ視線を落とした。


人が集まって盛り上がるところを見るのは、好きだ。


今までその試合を知らなかったことが、残念すぎる。



「あなた、ブライアン殿下に連れて行ってもらうのはどうかしら」

アヴェリーンがそっと提案した。



「確か、今回の試合は参加しないのでしょう?」



「いや…王家は皆、席が決まっている」

ロデオが唸るように答えた。



「それに、私はずっと試合の指揮を執らなければならない」



「それなら、私とリリアンヌで一緒に行くのはどう?」



「お母様…」


私を連れて行こうと、頑張ってくれている。



「なおさら駄目だ」

ロデオは、くっと眉を寄せた。



「お前たち二人が揃えば、会場中の目を引いて仕方がない」



「まあ…あなたったら」

アヴェリーンが口に手を添え、くすくすと笑った。


色香が、ふわりと広がった。



「でも、リリアンヌが可哀想だわ。年頃の令嬢は、一度は見てみるべきよ」



「だが…虫除け役がいないとなると…」



「……」

リリアンヌは、そっと苦笑を浮かべた。


騎士たちを、虫扱いなんて――



「!」


突然、閃いた。



「お父様…それでしたら、お忍びで行くのはどうでしょう?」



「おっ、お忍び…!?」

ワインを飲んでいたロデオが、げほっと咽せた。



「はい…!霊拝師(オランス)たちと一緒に、怪我人を診ます」

リリアンヌは目を輝かせ、身を乗り出した。



マリドーナたちが、試合中は霊拝師や療師(メディクス)が忙しそうにしていると言っていた。


観客ではなく、霊拝師のひとりとして紛れ込めば。



「あら、それは楽しそう」


母は意外と、こういった話が好きだ。



「…だが、霊拝師のもとへ祝福を貰いに行く騎士もいる」



「霊拝師たちは、決められた天幕の中にいるわ。そこへ入るのは、怪我をした騎士でしょう?勝った騎士が、わざわざそこまで行くことは滅多にないわ」



「……」

ロデオが腕を組み、黙り込んだ。


もう一押しだ。



「お父様…お願い」

リリアンヌは胸の前で両手を組み、じっと見上げた。



「ゴーシュ大教主に相談して、断られたら諦めます。でも…許可が出たら、行きたいです」



「はぁ…分かった」



「ありがとう、お父様…!」



「その代わり!絶対に天幕から出るなよ。馬上槍試合は、本当に危ない」

喜ぶ娘に、ロデオはすぐに釘を刺した。



「ええ、もちろんです!」



「ふふ…どうなることかしら」

アヴェリーンが、意味深にくすっと笑った。



家族との食事が終わると、リリアンヌはすぐに自室へ戻っていった。


霊拝師として参加するのなら、まずはゴーシュ大教主に連絡だ。


この間話した時の感じからして、なんとなく許可を貰えそうな気がした。



「…お前、アランフォースに怒られるぞ」

ビッケが扉の前で、ぽそっと口を開いた。



「…でも、行きたいから」

リリアンヌは机の前から、ちらりと振り向いた。



「アランフォースにも…秘密にする」



「ばれるって…」



「大丈夫。ゴーシュ大教主とは、手紙でやり取りするから」


手紙を書くのは、ここエラドリオール邸に泊まる日だけだ。


絶対に王城へ返信しないよう、念を押してお願いしないと。



「ビッケも、試合を見に行く?」



「オレがついて行ったら、よりばれるだろ。行けないよ」



「そっか…じゃあ、キリも無理かな」


本当は、一緒に見たかったけれど。


いつものように、姿を隠してもらうしかない。



「オレ、知らないからな」



「もう…!そもそも、どうしてアランフォースが怒るの?」


第二城壁内で行われる、騎士たちの試合を見に行くだけだ。


勝手に町まで出るわけじゃない。


それに、当日はネウロの待つ客間まで護衛がつくはずだ。


その人には、きちんと行き先を伝えてついてきてもらおう。


護衛を振り切って、ひとりで行くつもりなんてない。



「ばれて怒られても、オレ、助けてやらないからな」


どうして怒られるのかは、ビッケは最後まで教えてくれなかった。



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