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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十五章/大好きな人たちと大切な時間を
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変わり始める気持ち③

リリアンヌ視点



「どういう意味ですか…?」

リリアンヌは、きょとんとして尋ねた。



「これからは、君が町へ行く時は教えてくれないか」



「それは…構いませんが」



「できる限り、同行する」



「え…」



「それから…どうせ君のことだから、十二塔の方の薬療院にも行こうとしているだろう」



「……」


どうして分かったのだろう。



「六塔と十二塔へ近づくのは、私が一緒の時だけだ」



「ええっ」



「当たり前だ。もう二度と、あんな肝の冷える思いをして堪るか」



「プージに怒ったのは、その…」



「そのことではない」

ブライアンは、呆れたように溜息をついた。



「…でも、私はブランを困らせてしまいます」


今日はずっと、溜息をつきっぱなしだ。



「いや…君の行動を知ってしまった以上、離れている方が溜息が増えそうだ」

ブライアンは、小さく苦笑した。



「…そういえば、平気だったのか?」



「何がでしょうか?」



「左肩は、痛まなかったのか?」



「あ…」


そういえば。


あれだけ、感情的になったのに。



「全然…痛くなかったです」



「一線を越えるのは、また違う感情なのか…?」

ブライアンは顔を前に向け、ぶつぶつと呟いた。



「強さだけの問題ではない、ということか…」



「…でも、きっと、ブランのおかげです」



「…え?」

ぱっと、リリアンヌに顔を向けた。



「ブランが、何度も落ち着かせてくれたから。だから、きっと平気だったんです」

リリアンヌは、ふふっと嬉しそうに笑った。



「……」



「一緒に話を聞いてくれて、ありがとうございました」


もしブライアンがいなかったら…悔しくて、泣いていたかもしれない。



「傍にいてくれて、とても心強かったです」


偶然とはいえ、傍にいてくれて、本当に良かった。



「…はぁ」

ブライアンは、今日一番の深い溜息をついた。



「…どうしてお礼を言ったら、溜息をつかれたのでしょう」



「……」


下を向いて歩くから、ブライアンの表情が分からない。



「あの…ブラン?」


怒っているのだろうか。



ふいに、ブライアンの手が伸びてきて――



「!?」

いきなり、視界が真っ暗になった。



「えっ…あ」


慌てて頭に触れ、帽子をかぶっていることに気付いた。



「次から、その帽子を使え」



「…?ありがとうございます…」


つばが大きくて、顔を上げても、ブライアンの顔が見えない。



そのまま北門を通り、第二城壁内へ戻ってきた。


すぐ近くに、エラドリオール家の紋章が入った馬車が止まっている。



「私はここまでだ」

馬車の扉の前で、ブライアンがすっと手を差し出した。



「はい。今日は、ありがとうございました」

リリアンヌはその手を取り、馬車に乗り込んだ。



帽子を外し、ソファへと座る。


窓の外を見ると、ブライアンがまだ見送ってくれていた。


帽子を、小さく振って見せた。


お礼が、これで伝わっただろうか。



ブライアンが困ったように笑い、手を振り返した。


やがて馬車が道を曲がり、その姿が見えなくなった。



「…今日は、ありがとうございました」

リリアンヌは言いながら、窓から目を離した。



「無理を言って、六塔に行かせてくれてありがとうございます」



「……」

アランフォースまで、困ったような表情を浮かべていた。



「…やっぱり、駄目かな」


駄目と言われても、行く気だけれど。



「いえ…正直、ブライアン殿下が同行してくださるなら、私も助かります」



「…?」


同行という言葉を、少し強調した気がした。


護衛と違うということだろうか。



「ただ…」

アランフォースは、わずかに眉を寄せた。



「…ただ?」


六塔や十二塔の方へ行くのに、何か条件があるのだろうか。



「…ブライアン殿下は、今日一日で随分とあなたのことを知ったのでしょうね」



「え…?」

リリアンヌは、きょとんと目を丸くした。


それきりアランフォースは、黙り込んでしまった。


いつものように、じっと目を伏せている。



「…?」


どういう意味だったのだろう。


なんとなく、いつもと空気が違う気がする。


怒っているわけじゃないけど…


なんだろう。



そのまま会話もなく、屋敷に着いてしまった。


門の前で足を止め、アランフォースと向き合った。



「…それじゃあ、今日はありがとうございました」

リリアンヌは、小さく首を傾げながら切り出した。



「明日はネウロに診てもらいに行ったあと、薬草商の店に寄ってから、六塔の薬療院へ向かいます」



「ええ、私はいつもの時間にここでお待ちしております」



「はい。では、また明日」

ぺこりとお辞儀して、振り返った。


離れたところで、すでにキリが待っている。



「リリアンヌ殿下」



「え…はい」

すぐに呼び止められ、慌てて振り向いた。


アランフォースは、真剣な目でこちらを見ていた。



「ひとつ、お願いがあります」



「…お願い?」


そんなの――初めてだ。



「歌う時は、今後は私がいる時にしてくれませんか」



「…えっ?どうして?」


まさか、歌うことまで危険だと言うのだろうか。



「私の知らない歌を、もっと聞きたいので」



「え」


アランフォースは、それ以上何も言わなかった。


ただ、まっすぐこちらを見ている。



不意に、頬が熱くなった。



「…!」


咄嗟に、ブライアンに貰った帽子で顔を隠した。



ただ、歌を聞きたいと言われただけなのに。


社交辞令に決まっているのに。



「…ふっ」



「…わ、笑わないで…」

リリアンヌは、両手で帽子をぎゅっと握った。


こんなタイミングで、どうしてあんなことを言うのだろう。



「…申し訳ありません」

アランフォースの声が、くぐもっている。


顔を逸らし、口を隠しているのだろう。


…下を向いているのなら。



「……」

リリアンヌは、恐る恐る帽子を少しだけ下げた。



なぜか嬉しそうに目を細めるアランフォースと、目が合った。



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